紛い物の奇跡
「にしても・・・派手にやったな」
陽太が破壊した正門を見ながら静希は呆れてそれ以上何も言えなかった
完全に破壊されてしまっている正門は大きく変形し片方は遠くに放置され、固定されていたであろう壁部には亀裂がいくつもできてしまっている
直接陽太の槍を受けた箇所は炎により僅かに融解しているのも見受けられるが、それ以上にひどいのは辺りに撒き散らされている鉄の塊だった
陽太の槍の内部に取り込まれた鉄球、その鉄は陽太が集中を切らした瞬間に爆発と共に周囲に爆散したのだ
そのせいで壁や内部、道路などにはすでに冷えて固まった鉄があちらこちらに見受けられる
威力は確かなものなのだが、後片付けが面倒であるという意味では前より少し性質が悪い
鏡花が激怒するのも納得である
「そうだ、先生、ちょっといいっすか?」
「あ?お前その状態でよく普通に会話できるな」
未だ埋められた状態の陽太は意に介さず城島に話しかけるのだが、はっきり言って異常な光景だ
だが陽太の落ち着きようから恐らくは特訓中に何度かあったのだろう
鏡花の特訓だけは受けたくないなと再確認して大きくため息をついた
「で?なんだ?」
「犯人の一人が『神の手』を助け出すまでどうのこうのっていってたんですけど、『神の手』ってなんすか?」
陽太の言葉に城島は一瞬息をのんだ
そして何と言うべきか迷ったのか一瞬口を開いてまた閉じる
彼女自身何と言っていいのか分からないようだった
「神の手は、連中が助けたがっていた能力者の称号だ、私が捕まえる前からずっとその名で通っていた」
「っていうと、昔先生が捕まえたって犯罪者?」
そうだと城島は額に手を当てながら大きくため息をつく
神の手とやらを捕まえた時のことを思い出しているのだろうか、歯を食いしばって苛立ちを浮かべているのがわかる
「なんか仰々しいっすよね、神の手なんて、そんなすごい能力者だったんすか?」
「・・・すごい、と言っていいのかは分からんが、天才ではあったな、あいつの手で救われた命は数知れない、同時にあいつが殺した数もまた然りだが」
能力者が犯罪を犯す時は大概が軽犯罪か大犯罪のどちらかに二分する
それこそたいした事のない窃盗罪で捕まる者もいれば何百人も虐殺して捕まるような者もいる
その神の手とやらは後者、城島が言っていたように大量に人を殺してきたのだろう
能力者は普段、その力を封じられて生きている
それが社会に適応するのに必要な事だからこそ、そうすることでしか生きていけない
だが中にはその制度や束縛が息苦しく感じる者もいる
そうした苦しさが爆発し、一気に大犯罪を犯す
優秀な能力者であればあるほどその束縛は大きい
それ故に能力者が犯罪を犯す時は大々的に報道もされるし非難もされる
能力者は危険であると、まるで能力者が犯罪を犯すのは当然とでもいうかのように
「何人も人を殺すような奴にすがるってのも、どうなんですかね」
「間違ってはいないさ、救うことができるのがそいつしかいないのならそうするしかない、そうすることしかできない・・・だが釈放となれば話は別だ、あいつは二度と外に出してはいけないんだ」
神の手がどのような能力を持っているのかは知らない、だが先に城島が言ったように殺したのと同じように救った命があるのも確かなのだろう
きっと狂信者は過去の、まだおかしくなる前の神の手にすがっているのだろう
そうすることでしか生きられない、そうしなければ希望を持てない
宗教と同じだ
そうすることしかできないからすがりつく、他にすがるものがないからしがみつく
自分の決めたように自分で行動すれば後悔しないで済む、悩まなくて済む、すがらずに済む
そんなのは強者だけだ、弱者はそうはいかない、心が折れてしまった者は、そんな風には生きられない
いつだって迷うし、後悔する、恐れもするし悲しみもする
立ち上がれなくなったものを立ち上がらせるための支えとして、そして道を諭す標としてあるのが宗教だ
それに似たようなことが能力者にはたびたび起こる
いや、宗教なんかよりよっぽど性質が悪い
神の教えなどという曖昧な『生き方』や『掟』等よりも目の前に起きる『奇跡のような出来事』を信仰するものは非常に多い
それは別の人間から見れば利用価値のある商業たりえる物事だ
だが見る人が見ればそれは神の教えよりもよっぽど頼りになる力だ
能力者である静希からすれば、そういうことはまるで手品を魔法だと喜々として語る愚かな行為に見える
それでも無能力者からすれば種も仕掛けもあると知っていても、それはれっきとした奇跡たりえるのだ
何せ自分達には起こせない事象をあっさりと起こして見せるのだから
見方を変えれば奇跡で、ただの現象で、まるで悪魔のささやきのようにもなる
能力というのは静希達能力者が思っている以上に強く、恐ろしく、救いたりえるものなのだ




