槍の真価
陽太の周りに存在する炎は猛々しく自己主張し自らの右腕に炎を注ぎ込み続けている
炎を注ぐことによって槍が一時的に不安定になるがそれさえも陽太は抑え込み槍の形を保ち続けた
そして完全に炎が定着してから陽太は近くにおいてある鉄球に槍を当てる
鉄球は炎から高熱を受け徐々に変色しその形さえ変えていく
完全な球体から少しずつ楕円へ、そして液状化していく
溶けていく鉄を陽太は器用に槍で巻き取り始め槍の外部へ付着させ、さらに内部へと取り込んでいく
この作業がなければ陽太の槍は真価を発揮しない
これは鏡花による助言でもある
物理攻撃において重要なのは質量と速度
人間が扱うのであればそこに筋力など自力で押す為の力などが関わってくるが戦車砲などの巨大兵器に比べれば人間の筋力などは誤差の範囲でしかない
いかに強い力を持っていても、いかに速くてもそこに質量がなければ威力は生まれない
例えば静希の使うオルビアは質量がない
故にオルビアの宿るバスタードソードの本来の使い方、重量を利用しての叩きつける攻撃が行えない、そこで静希は雪奈の指導により日本刀などで用いられる引きながら切るという技術を習得せざるを得なかった
そう言う意味では静希は非常に上手く彼女を使えていると言っていい
なにせ最適とも思える利用法をしているのだから
だが陽太の使う槍はそんなものではいけない
陽太が求めたのは強大な破壊力
いかに巨大な形をしている槍とはいえ、別に陽太の重量が増えたわけでもなければ槍自体に強大な重さがあるわけでもないのだ
故にこの状態で陽太が門に攻撃を仕掛けても多少槍が門に減り込むだけで終わるだろう
そこで鏡花が用意したこの鉄球が役に立つ
『いい?あんたの槍を最高威力で使いたいなら槍の中になにか物質をとりこんでしまえばいいの、そうすれば槍は重くなる、その分動きは鈍るから自分が動きやすいレベルで取り込むのよ』
鏡花が特訓の時に言っていた言葉を反芻して少しずつ鉄球を槍の中に収めていく
槍は徐々に重量を増していくにつれ、槍の大きさが、太さが少しずつ増していく
辺りに高温を発散させながら、炎を滾らせながら槍はその存在感を増していく
鉄球をすべて取り込んだ時、槍は自身が行える身体能力強化状態で持てるギリギリの重量になっていた
何度か鏡花の用意した装甲板を打ち抜いた際にわかったことでもある、この量が速度と重量を考慮したうえで最も威力が出るのだ
未だ自身の全力を引き出すことのできない陽太にはこれが限界、否、今はこれで十分なのだ
重量を持ったことで動きを鈍くした槍はゆっくりと正門に向けられる
「明利!こっちは準備オッケーだ!」
足場を均しながらいつでも突撃できるように姿勢を変える
両足と左手を地面について槍を肩に乗せるようにして狙いを定めた正真正銘の突撃態勢
いつでも攻撃可能と炎自身が告げているかのように槍の周りと陽太の周りで力強く燃え盛る
「こちら明利、陽太君の準備が整いました、各員突入の最終チェックをお願いします」
陽太の言葉を受け明利が内部に侵入している全員に連絡を入れる
屋上に控えている静希と雪奈は複数個所杭を打ち込みロープをつなぎ、いつでも突入できるように準備を終えている
「こちら静希&雪姉、合図はそちらに任せるけど、俺達は陽太の攻撃が始まって室内が慌てだしたら突入するからよろしく」
混乱時であればその場の制圧もしやすい
しかも室内に無人機はいない、いるのは室外の廊下部分のみ
廊下を見ている一人と画面を見ている一人だけ
この二人であれば制圧は容易だろう
対して地下二階に潜伏している鏡花達は身体を小さくしながら機会を待っていた
「こちら鏡花&熊田先輩、突入はいいけど相変わらず無人機と人間が交互に巡回してるわ、突入タイミングは無人機排除を最優先にしてくれると嬉しいかも」
この状況下で最も恐れるのは武器を持った人間ではなく、多彩な兵器を有した無人機
仮に人間が人質を取ろうと人数が少ないこの場なら鏡花と熊田の能力なら即座に制圧できる
まずは無人機制圧、そして人質のいる牢屋に壁を作り安全を確保、そして犯人を捕縛
問題は鏡花達は地下二階と地下一階、この二つで同じことをしなくてはならない
精密性は必要ない代わりにスピードが重要になる内容だった
二人からの報告を受けて明利は無線ごと陽太の熱の影響を受けない程度近づいて陽太にも声が聞こえるようにする
「ではタイミングは鏡花さんの無人機対応を優先して決めます、陽太君はカウントゼロと同時に攻撃を着弾させてください、鏡花さんはカウントゼロから五秒後に突入開始、静希君は室内の状況を見計らって独自の判断で突入してください」
全ての無線機から了解の旨を受け取ると明利は大きく深呼吸して目を閉じ同調の感度を高めていく
地下に存在する無人機の正確な把握とそのタイミングを見計らうことで、最も効率よく攻撃できる瞬間を模索し始める
そして目を開き大きく息を吐く
「それでは、カウントスタートします!」




