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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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陽太の槍

鏡花の作り出した武器を眺めながら陽太は唖然としている


今まで自分の身体だけで戦ってきた陽太にとって武器を使えるようになるかもしれないという事実は非常に嬉しくもありまた戸惑いを生むものでもあった


「いきなり選べって言われてもな・・・どれにしたらいいか・・・」


「そうね、確かにちょっといきなりだったかも・・・ならあんたはどんな攻撃をしたい?雪奈さんみたいに薙ぎ払いたいのか、それとも遠距離攻撃がしたいのか、武器はそれだけで攻撃法が決まると言っていいから、そういう考え方で選ぶといいかも」


そもそも陽太にどのような心情で武器を握らせようと同じこと、それなら本人の行いたいことを探すべきである


特に陽太は精神状況によって大きく能力の出力が変動する


本人が一番高いモチベーションで活動できる状況を作るのがベストだと考えた


「俺は・・・そうだな・・・正面からの一点突破、これに尽きるな」


「突破か・・・それなら槍とかになるかな」


地面を足で蹴り、並べてあった武器をすべて再変換しその場には大量の槍を並べる


その形はそれぞれまったく違うものであり刃が十字になっているものや三又に分かれた物、鋭くそして長く伸びた斬ることを主体とした物まで勢ぞろいした


その中で鏡花は陽太の要望に応えられるだけの槍をいくつか選別する


それらはどれも突きに特化した槍だ


刃と言うよりは円錐に伸びる巨大な針を連想させる


これらは突きに特化している半面、斬撃などはほとんど行えないまさに一点突破オンリーの形式だった


「でもさ、俺の腕力でこんな細いの折れないか?炎で作ったって限界があるだろ」


「あら、誰がこの大きさのままだって言ったわけ?」


鏡花は早速陽太の鬼の姿に改良を加えた石像を作り出す


それは巨大な槍を持った鬼の姿だ


その槍は通常なら全長二m程度のものだったはずだが、矛の部分が肥大化しており全長四メートルにも届きそうなほど長く太い


「どう?雪奈さんみたいな攻撃力を目指すならこのくらいは欲しいじゃない?」


「おぉぉぉおおぉ!こんなでかい武器振り回してみてえな!でも持つ部分が細くてアンバランスじゃねえか?なんかこう、腕と一体化とかできねえの?」


陽太の言葉に鏡花は目を丸くした


予想外の意見と言うか、発想と言うか、鏡花は身体とは別に武器を作ることを前提としていたので、武器と身体を同化させるという発想は生まれなかった


こういった的を射るような発言をごくたまにするのが陽太の強みと言ってもいいかもしれない


本当にごくたまになのだが


「ならそうね、あんたの武器の完成形はこうなるわけだ」


陽太の石像がさらに形を変化させていく


石像の右腕部分が肥大化していき、ひじから先が巨大な円錐状の矛に変化していく


その大きさは約二m、柄部分を失くし矛だけのサイズにしたのにもかかわらずその巨大さは雪奈の使用していた大剣にも見劣りしない


「おぉぉおぉ!いいなこれ!かっこいいな!」


「最終的には両手でできるようになりたいわね、でも今は片手でこれをできるようにしなくちゃ、それじゃ特訓始めますか」


鏡花は喜びはしゃぐ陽太をよそに巨大な箱を用意する


その箱は特殊な鉱石でできた黒い箱、一辺五メートルはある巨大な箱だった


その一か所に小さな穴があいているのがわかる


「なんだこりゃ?これでどうするんだ?」


「これを使ってさっきの槍を作れるようにするのよ、腕突っ込んでこの中にある空洞を炎で埋め尽くしなさい」


鏡花の作ったこの箱の内部には空洞が作られている


それは先ほど陽太の石像が装備していたような巨大な槍とまったく同じ形をしている


空気を通す為に小さな風の通り道程度はあるが形を阻害するようなものではない


腕をその穴に突っ込んだ状態から能力を発動し空洞を炎で埋め尽くす、最初は小さな空洞から、そして徐々に大きな空洞へと


そうして陽太は少しずつ自分の意識下において炎の具現化を習得していった


時間は現在に戻り無線機を投げ捨てた陽太は深呼吸を終えて右腕を前につきだす


炎が陽太の身体を包み鬼の姿を形作ったところで炎が右腕に集中していく


鏡花はこの右腕の槍が形をなした時、あえて名前を付けなかった


本人が命名するのが一番良いというのが一つの理由だと陽太には告げたが、本当は違う


右腕の炎が形をなし、本来の炎の性質からはかけ離れた特性へと変化していく


数分かけ陽太が作り出したのは巨大な槍


いや、それは槍と言うには大きすぎた


一番太いところは五十センチ近く、長さは二mをはるかに超える


先端にいけばいくほど徐々に細く鋭くなってはいるが、その大きさはもはや槍とは呼べない


肘から上は普通の腕をしているが、下は完全に槍と同化している


鏡花が名をつけなかった最大の理由はこの大きさにある


それは槍と呼ぶべき武器ではない


もはや中世において城壁を破壊する時に用いられた破城鎚のような巨大さ


武器の区分をあえて言うのであればそれは対人武器ですらない、いや人の装備できる部類ですらない


鏡花はこの武器が完成した際に思わずこうつぶやいた


『まるで攻城兵器だ』と


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