能力の特性
「俺専用の武器?」
鏡花の言葉に陽太は鬼の姿のまま素っ頓狂な声を上げる
今まで武器を使ったことがないわけではない、むしろ陽太はその強い力を利用して何度か大きな武器を使用した経験がある
雪奈に指導してもらったこともあるし、いくつか武器を作ってもらったことだってある
「そりゃ無理だ、俺は武器は使えねえよ」
「なんで?あんたの力ならどんな武器を使ったって強いじゃない」
「俺が使ったら武器がすぐ壊れちまうだろうが」
そう、陽太が武器を使えない理由は陽太が纏う炎だ
強力な熱を持つその炎は鉄でできた物は長時間所持していると融解してしまう
その形を保つことができないのに下手に道具を持つ訳にはいかないのだ
事実、昔陽太が作ってもらった武器は今は鉄くずとなってしまっている
だが鏡花はその反応に呆れている
「あのね、あんたが使えない武器を作ってどうすんのよ、これから作るのはあんた専用の武器なのよ?」
「専用って・・・それじゃ熱じゃ変形しない物質を使って作ってくれるってのか?そりゃうれしい話だけどさ」
陽太としては武器を作ってくれるというのは非常にありがたい、だが今陽太がしたいのは能力の強化だ、武器を持つくらいなら猿でもできる
自分の力を伸ばしたいのに武器に頼るというのはどうもいい印象がなかった
だが鏡花は腕を組んで大きくため息をついてしまう
「あんたね、いつ私が作るって言ったのよ、作るのはあんたよ、あんたが自分で自分の武器を作るの」
「は?」
陽太はまたも間の抜けた声を上げてしまう
変換能力を有している鏡花ならまだしも自分の身体に炎を纏うことくらいしかできない陽太がどうやって自分が使える武器を作るというのかまったく理解できなかった
そこで鏡花は近くの地面から長い石の棒を作り出す
「いい?確認したいんだけどあんたの能力、その鬼の姿になるのはあんたが意識してそうしてるの?」
「いいや?初めて発動した時からこうだったらしい、静希に言わせると昔はもうちょっと愛嬌ある顔だったらしいけど」
そんな情報はいらないわよと言いながら鏡花は手に取った石の棒で陽太の角を叩く
その角は硬く、石でたたいたくらいではびくともしなかった
避けないでねと言った後、角を強く殴ると石の棒は簡単に砕けてしまう
「今の行動の意味わかる?」
「八つ当たりか?」
見当違いな陽太の発言にバカと一言投げつけた後鏡花はコンクリを変換して陽太そっくりの石像を作り出す
一体は通常の人間の姿の時の陽太、もう一体は能力を使った際の鬼の姿の陽太である
見慣れたものであればどちらも陽太であると認識できるが、その実姿形はまったく別物である
身長から体格までほとんど別人と言っても過言ではないだろう
「あんたの姿は能力の発動前後でこれだけの違いがある、その違いを生み出しているのは何か、わかるかしら?」
「えと・・・炎?」
正解と言った後鏡花は二つの石像をできる限り同じ姿勢に直したうえで比較し始める
人間の姿はどちらかと言うと細身でありながらしっかりとした筋肉、だが鬼の姿は逞しくそれでいて重厚な筋肉に覆われている
「ただ炎を纏っただけで身体能力が上がるなら別に形を作らなくてもいい、でもあんたは能力を発動する時に意識してないっていったわね、となるとあんたの能力は先天的に炎に形と固体に似た強度を持たせる特性を有してる事になる」
鏡花の言葉に陽太は首をかしげる
簡単に説明したつもりだったが陽太には理解できていないようで鏡花は再度石の棒を作り出して陽太の角を叩く
「あんたは生身の身体にこんな立派な角があるわけ?ないでしょ?この堅い角はあんたの炎でできている、この身体も、その牙も全部炎が形を作って、しかも鉱物みたいな堅さを持った状態になってる、そうしてるのよ、あんたの能力が!」
そこまでいって陽太は自分の能力の特性を僅かながらに理解し始めていく
今まで自分が意識したこともないようなことを言われたせいで頭から煙を出しそうな勢いだがそんなことで鏡花の特別授業は終わらない
人間の姿の石像を片付けて即座に別の形を作っていく
「ここからが本題、あんたは自分の炎をある一定の形と硬度にすることができる、そこまでは理解したわね?」
「あぁ・・・なんとか」
今まで自分の能力の特性を理解していなかったところは幼馴染の静希とそっくりだが、陽太の場合は気付くだけの機会があったにもかかわらずそれに気付かなかった
そう考えると頭が痛くなるが鏡花は止まらない
「そこで、あんたはこれから自分だけの武器を、あんた自身の炎で作り出すのよ」
「俺の・・・炎で?」
鏡花は言葉と同時に足場を変換して多種多様な武器を形作る
雪奈の持っていたような大剣、巨大な鎚、槍、鎌、弓、こん棒、斧、考えうるあらゆる武器を作り出していた
「選びなさい、どんな武器を使いたいのか」




