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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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特訓の光景

『陽太、くれぐれも言っておくけど集中は切らさないようにね、常に神経を研ぎ澄ませなさい』


『へいへい、わかってるよ』


無線の向こうでやり取りをする二人をさておいて静希達も突入の準備をしていく


静希達が突入するのは管制室に面した窓


ロープを使って突入するのは良いがいくつか準備が必要だ


トランプの中からロープや杭を取り出して着実に準備を進めていく


『明利、ここが地下二階であってる?』


『はい、地下二階、中央通路の天井に位置しています、問題ありません』


どうやら鏡花が地下にたどり着いたようだ、その間にこちらの準備も終えた


あとはタイミングを読んで陽太が正門を破壊するのを待つばかりなのだが


「静、正直どう思ってる?陽にあれ壊せるのかな?」


どうやら雪奈も静希と同じ不安を抱いているようだった


昔から陽太の能力や実力を把握している二人としては陽太があの分厚い門を破壊できるとは思えなかった


陽太の能力は速度と力はある、集団戦においても単騎戦においてもその実力は如何なく発揮されるだろう


だがそれは対人に対しての強さ、同じ大きさであってこそ発揮される強さだ


以前のザリガニの時などもそうだったが巨大かつ堅牢な甲殻を持つような物理打撃に強いタイプとは非常に相性が悪い


何故なら陽太の攻撃手段は殴る蹴る、爪で引き裂くなど基本的に小規模なものに限定される


強大な破壊手段を持たない故に苦戦してしまうのだ


「正直、今までの陽太じゃ壊せないだろうな・・・どんな特訓したんだか俺も全然知らないし・・・まさかあの鉄球を投げるんじゃないだろうな・・・」


陽太のいるであろう正門に視線を向けながら静希は腰のベルトにロープを固定していく


雪奈もそれに倣い突入の準備を終わらせていた


一方心配されている陽太は正門の前で深呼吸しながら集中を高めていた


自分にできることを確認しながら今までの鏡花との訓練を思い出していく


時間は遡り六月、ザリガニ討伐の実習直後の放課後、陽太が鏡花に能力の訓練を申し出たその日になる


「で?あんたはどんなふうに能力を強くしたいの?」


「とにかく強くしたい!どんな奴でもぶっ飛ばせるくらい」


演習場に残ってその場に正座させられている陽太は力強くそう宣言するが、対して鏡花は表情を曇らせた


なにせどうやって強くしたいだとか、どの苦手分野を克服したい等の具体的な内容が一切ないのだ


「恐ろしく具体的な抽象表現ありがとう、いい方が悪かったかしら、あんたは自分の力をどういうふうに改良したいの?」


「とにかく強くしたい!」


陽太の具体性のない発言に鏡花の鉄拳もとい変換の力で発動した岩の拳が陽太に直撃する


僅かな怒りも覚えたが陽太は真剣なのだ、真剣だけどバカなのだ、その意識を無碍にすることもないと鏡花は思考する


「あんたね、漫画やアニメじゃないんだから『強くなりたい』だけで強くなれるほど現実甘くないのよ?具体案だしなさいよ具体案」


鏡花の言葉にひたすら強くなりたいことだけを考えていた陽太は頭を抱えてしまう


実際なにも考えていなかったのだろう、徐々に熱を帯びて煙まで出そうな雰囲気だった


「じゃああんたは、なんで能力を強くしたいと思ったのよ」


陽太がどう強くしたいかではなく、どうして強くしたいと思ったのか、そこに原因と目標があるだろう


その目標に近づけるのが理想的なのであればまずはきっかけを知らなくてはならない


「・・・この前のザリガニの実習の時さ、俺全然役に立たなかっただろ?」


「あぁ・・・そう言えばずっとうろちょろしたり着火マン役に徹してたわね」


鏡花の歯に衣着せぬ発言に陽太は僅かに心をえぐられながらなおも続ける


「あの堅い殻に全然歯も立たなくて・・・でも雪さんはあっさり壊して見せてただろ?俺はああいうふうになりたい、何でもかんでもぶっ壊せるくらいの力をつけたい」


陽太だけではなく鏡花も見ていたあの光景


強固な甲殻を一撃のもとに粉砕する雪奈の巨大な剣


一振りで脚を何本も薙ぎ払い、振り下ろしただけで巨大な頭部を粉砕する、純粋で圧倒的な破壊力


陽太が求めているのはそう言う類のものだ


鏡花もそのことを理解したのかため息をつきながら思考を開始する


まず前提として陽太の能力の情報を確かめなければならない


そして陽太が求める強さに近づけるにはどうしたらいいか考えなくては


「そうね・・・じゃあ陽太、まずはこれを殴ってみて」


コンクリートの足場を変換して壁状に形を変え、同時に構造変換し鉄に変える


岩やコンクリートならば余裕だが鉄となると陽太の攻撃力で破壊できるか微妙なところ


陽太はその場に立ちあがって能力を発動し炎の鬼へと姿を変える


足場を確認したうえで目の前の鉄の壁を殴ると大きな音と共に鉄の壁は大きく歪み、鉄を固定している地面のコンクリ部分に大きく亀裂が走る


これを見るだけでも十分な威力があると思うが、恐らく陽太が求めているのはこの鉄の壁が数十メートル先まで吹っ飛ぶか、この壁を貫通するほどの威力だろう


鏡花はため息をつきながら変形した壁を見てどのように力がかかったかを見極めその後で陽太の姿を見る


額に生えた二本の鋭い角、太い腕に伸びた爪、全体的に屈強な肉体へと変異し感情の状態によっては長く太い尾も生えてくる


そして鏡花が目を付けたのは陽太の角だった


「よし、あんた専用の武器を作りましょう」


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