隠密行動 侵入
『3・・・2・・・1・・・GO!』
明利の合図と共に鏡花と熊田は同時に有刺鉄線ごと塀を乗り越えそのまま地面に着地する
四mもの高さから落下したことで足に強い衝撃が走るが二人とも脚をひねることもなく即座に廃棄施設の壁部に手をかけ能力を発動、人が通れる穴を作り出してすぐに中に入りその穴をふさいだ
時間にして約十秒、一片の無駄もない侵入作業だった
『鏡花さんと熊田先輩は無事に侵入完了、無人機に不審な動きなし、成功です』
明利の言葉に待機していた静希達は安堵の息をもらす
約十五秒しかない間でよくもここまでやってくれたものだと感心する
さすがは天才と言っておきたいところだ
「無線チェックだ、鏡花、熊田先輩応答願います」
静希が無線の向こうに言葉を飛ばすとすぐにノイズの後に返答が返ってくる
だがその声は成功したことを喜んでいるようには聞こえなかった
『ハイハイ聞こえてますよ・・・うぅぅ・・・くっさ・・・』
『こちらは問題ない、この後所定の位置まで移動する』
どうやら相当悪臭が強いらしく声が僅かに震えている
心の中で謝罪しながら静希達は苦笑いして静希達の侵入に移行する
『陽太君、準備に入ってください』
「了解だ」
炎を滾らせてなおかつ投げの動作に入るために軽くストレッチと肉体強化の強弱を微調整していく
いくら城島のフォローがあると言っても投げる強さが強すぎればはるか向こうへ、弱すぎたりすれば屋上に届かず落下する
静希と雪奈を炎を消した両腕で掴み投げる感覚を身体に覚え込ませておく
「あんまり荒く投げてくれるなよ?それにコントロールには注意しろ」
「ソフトにね、できるなら回転とかもつけないでほしいかも」
「あのな・・・人を投げるの慣れてないんだからあんまり注文つけないでくれ」
人を投げることに慣れるというのもまた妙な言葉だが実際陽太は人間を投げるなど両の手で数えられる程度しか経験はない
コントロールであれば多少つけられるだろうが回転をつけるなと言うのは地味に難しい注文だ
投げる以上、ある程度の力が働いて投射物は回転する
無回転で投げるというのは地味に技術を要するのだ
『カウントスタートします、9・・・8・・・7・・・』
明利のカウントがスタートすると静希達は無駄口を止めて深く息を吸う
陽太は二人が燃えないギリギリまで炎を滾らせて身体能力強化が弱まらないように調整し力を込めていく
『3・・・2・・・1・・・GO!』
明利の合図と同時に陽太は二人を同時に建物屋上へ向けて投擲する
僅かにその体を回転させながら放物線を描く二人を城島の能力が捕捉し強制的に姿勢制御をし始める
二人は屋上にきちんと足から着地し大きな音を立てることもなく侵入に成功する
「こちら静希及び雪姉、問題なし、これから作戦に入る、各自その場で一時待機」
無線の向こうから了解と言う言葉が返ってきたのを確認したうえで懐からフィアを取り出してあらかじめ持たされていた明利印の大量の種を渡す
まずは室内にこの明利の種をばらまくところから始まる
見取り図から確認した結果、フィアが通れるだけの配管や通路は山ほどある
数十分ほどかけて通路と言う通路に種を仕込んでいき、この建物内部を明利の監視下に置いてしまう
「配置完了、明利どうだ?」
『問題なし、地下二階から地上三階まで感知できるよ』
明利の言葉が全員にいきわたったところでゆっくりと行動を開始する
『これより侵入を開始します、各員ナビに従って行動してください』
明利のナビゲーションの下、全員が行動を開始する
まず動いたのは鏡花と熊田
この二人を明利が最初に動かしたのは一刻も早くゴミのはびこる場所から出してあげたいという気持ちと、ちょうど見回りが鏡花達の場所から遠く離れていたからに他ならない
鏡花達の目標は無人機の破壊と人質の安全確保
一階から地下へと進んでいくのがベターである
ゴミの溜まり場からダクトを鏡花の能力を使いながら器用に進んでいくとようやくゴールと思わしきダストシュートが見えてくる
まさか自分がゴミを入れるべき場所から出ることになるとは思ってもいなかったと呟きながら鏡花はダストシュートのすぐそばまで近寄る
「熊田先輩、索敵お願いします」
「任されよう」
熊田がこちらに来た理由はもっぱらこの索敵にある
明利の種はある程度の状況把握まではできるが細部の感知まではできない、あくまで近くに何があるか程度のものだ
今回熊田が一番気にするべきは監視カメラの有無と配置
能力を発動し壁一枚を隔てた向こう側の通路に何があるのかを細部まで確認していく
潜入において最も重要なのは見つからないことだ、現代社会において最も難しいのは電子的な監視網から逃れることでもある
「通路の曲がり角の端に一つ、そして中間部に・・・これは火災報知機か、今のところカメラは一つだな」
手持ちの地図に印をつけていきながら現在位置を把握しつつ状況を報告していく
鏡花は悩みながら無線に手をかける
「一つか・・・潰してもいいけど・・・それじゃ異常を悟られるかもね・・・静希、あんた管制室近いんでしょ?そっちで何とかできない?」
『了解、なんとかしてみる』
無線を通して管制室近くの屋上に待機している二人に対して要請すると同時に静希達は動きだした
屋上にいる静希と雪奈はまず自分達の位置を確認すると同時にどこに管制室があるのかを探り始めていた
明利と密に連絡を取りながら管制室の位置を確認していく
「明利、管制室には何人いる?あと建物全体で自由に動いてる人間の数も教えてくれ」
『二人いる、一人は画面付近に、一人は入口にいるよ・・・建物全体では・・・六人だね、管制室に二人、地上施設に二人、地下に二人』
六人、静希の想定よりも少ない人数に拍子抜けするが気を抜いている状況ではない
まず監視画面に釘づけになっている一人と入口を警戒している一人の注意をそらさなくては
相手から見えないように鏡を使って窓の外から内部を確認すると状況が理解できる
四角い部屋の中には机が一つ、その上には乱雑に資料や機材が置かれている
本棚が一つありその中にはいくつもファイルが置かれている
入り口で一人の人物が暇そうに部屋の外を眺めながら銃を抱えてあくびしている
そして部屋の奥、複数の画面を見ている人物の顔は見えないがその態度はあまり真剣とは思えない
操作盤に足を乗っけて椅子を後方に傾け悠々と煙草を吸っている
「鏡花、何秒くらい稼げばいい?」
『そうね・・・五秒稼いでくれればいいわ』
五秒と言うと先ほどの侵入時間よりも短い、そんな短い時間で大丈夫なのかと心配になってしまう
「そんな少なくていいのか?」
『平気よ、私たちがカメラの前に出るわけじゃないわ、変化を悟られなきゃいいのよ』
了解と呟いて静希はトランプの準備をする
部屋の内部にトランプを顕現し気付かれないように犯人の一人の腰掛ける椅子の近くに移動させる
「こちらから合図する、明利、鏡花達の方に人は来てないな?」
『大丈夫、鏡花さんの方に行くのは推定二分後、まだ余裕があるよ』
こういう時に人がどの位置にいるのかをある程度把握できている人物がいるというのは非常に楽だ、万全の準備をもって事にあたれる
「いくぞ・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・GO」
静希が1と発音し始めた時椅子に配置されたトランプから釘が何発か射出される
釘はプラスチック製のキャスターを破壊し床に転がっていく
椅子を後方に傾けながら呆けていた人物はキャスター部分が破損したことで後方に転げてしまう
即座に射出された釘を回収し手元にトランプを戻す
そして静希の合図と同時に鏡花の能力が発動していた
自分達のいるダクトと周囲の建物の構造を把握、そして自分たちが通れるだけの通路を1階の床下に作成
その際に僅かに壁が全体的に少し寄っていくがその変化は2秒ほどで終了する
静希が部屋の内部を確認すると椅子から転げ落ちた人物は廊下を眺めていた見張りに笑われているようだった、どうやら鏡花達のいる場所の変化は気付かれていないらしい
「鏡花、問題ないか?」
『オーライ、ありがとね、このまま進行するわ、明利、まずは無人機の近くまで行きたいわ、無人機の配置はどうなってるの?』
『了解、無人機は管制室入口に2機、地上施設に2機、地下に2機設置されています、人員配置とほとんど同じだね』
となると一番に何とかしなくてはいけないのは人質の安全確保、無人機の破壊、見回りの排除ということになる
地上は陽太が侵入してから対処するとして人質になっている囚人達を第一に考えて行動するべきだろう
「鏡花まずは地下二階から攻略してくれ、三点攻撃する時に援軍が届かない方が楽だ」
『了解、まずは地下二階に向かうわ、ナビよろしく』
無線の向こうで的確かつ安定したナビゲートがされている中静希は屋内にいる人物に細心の注意を払っていた
カメラに対して気付いたことなどがないように僅かな事にでも気付けるように鏡越しに注視する
屋上部分にカメラが設置されていないのは確認済みだが、こちらの行動で全てを台無しにする訳にもいかない
『こちら陽太、正門の方に鉄球を移動した、いつでも行動開始できる』
能力の関係上先ほどまで付けていなかった無線を付けているのか無線の向こう側から陽太の声が聞こえる
陽太の能力は強力だが発動中に機械などを持っていた時、たまに炎の熱で破壊してしまう事があるのだ
常に破壊されるのではなくときどき破壊されるというのが不思議な点である
そして今回の陽動の要ともなる陽太からの報告無線に静希は首をかしげる
陽太の能力に一体どのように鉄球が関係してくるのかがいまいち理解できなかったからだ
誤字報告が五件分たまったので複数投稿
そろそろ誤字を少なくしなければいけないと思う今日この頃
いまさらですね
これからもお楽しみいただければ幸いです




