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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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準備と新技

数分間頭を悩ませて思考するにしてもなにも思いつかなかった鏡花は僅かに涙を流しながら、すぐにでも実習が終わって欲しいという思いと今の状態が続いてほしいという矛盾した心情を持っていた


だがさらにその数分後にはもう自棄になったのかその悲しみを怒りに変えて犯人に矛先を向けて憤っていた


「静希、今回の陽太の陽動は派手な方がいいのね?」


「あぁそうだな、できるなら誰でも気付けるくらいの派手さがいい」


わかったわと思い切り不機嫌になりながら近くで準備運動していた陽太の首根っこを掴んで静希の近くまで引きずってくる


なにがなにやらわからないと言った様子の陽太をよそに鏡花はその場に陽太を正座させる


「陽太、あの門、あんたが破壊しなさい」


「は?」


一番驚いているのはほかでもない陽太だった


いや驚いているというより唖然としていると言った方が正しいだろう、この表情をしているということは鏡花がなにを言ったのか恐らく理解できていない


「おい待てよ鏡花・・・壊すっていったってどうやって?」


「そうだぜ、あの門結構分厚いんだろ?殴っても壊れるかどうか・・・」


静希と陽太が同時に異議を唱えると鏡花は地面を足で強く叩き土を形状、そして構造を変換していく


「あんたの新技の使用を許可するわ」


「っ!」


その言葉に陽太は顔を引き締める


どうやら二人にとって何やら意味のある言葉らしい


以前船の上で使用しかけた新技、未だ静希はその全容どころかどういう区分のものなのかさえ知らない


鏡花曰くまだ実戦では使えないと言っていたが


「おい鏡花、それってもう使えるのか?」


「実戦じゃ無理ね、まだ準備に分単位で時間がかかるもの・・・でも今なら時間は気にしないで準備できる、しかも失敗してもプランに変更はない、いい機会だわ」


確かに実戦において最も重要視されるのは早さだ


それは速度的な意味でもそうだが準備や始動などといった即応力にも通じる


特に陽太のような高速機動戦を行うタイプで数分の準備がいるとなればほとんど実戦で使えない


だが今の状況、数分程度の時間であれば十分確保でき、なおかつ上手く効果を発揮できなくても問題なく陽動としての仕事はこなせる


失敗しても被害はなく、成功した時の成果は非常に高い


新技を試すにはもってこいの舞台と言うことだ


鏡花が構造変換を終えたそこには一m近い大きさの鉄の塊が作られていた


一体何のためにあるのかは分からないがその鉄を見て陽太は神妙な顔をしている


どうやら陽太自身成功するか微妙なところのようだった


陽太の能力は、彼自身の精神状況に大きく左右される、そのことを理解していた鏡花はため息をついた後陽太の頭に手を置いて門の方を強制的に向かせる


「いい?陽太、あの門をあんたが壊せたら、どうなると思う?」


「どうなるって・・・特にどうもならないんじゃ」


壊せたらどうなるというなんとも曖昧な表現に陽太は首をかしげてしまうが鏡花は先ほどの竹中の言葉をしっかりと聞いていた、故に陽太にはっきりとこう告げる


「あの門は戦車の主砲でも壊せない・・・つまりあれをあんたが壊せたら、あんたは戦車以上の攻撃力を持つってことが立証されるのよ」


「・・・っ!」


鏡花の言葉に陽太は眼を見開いた


本来歩兵が戦車と同一の攻撃力を持つことはできない


対戦車用の装備であればいくつか歩兵用装備がある、中には戦車と同等の威力を誇る兵器もある


だが戦車を越える威力を誇り、なおかつ高速機動可能、連発できるものとなると例がない


無論陽太はまだ新技を連発できるほど練度を高めていない


だがいずれは自由自在にコントロールできるようになるだろうことを鏡花は確信していた


「どう?やる気出た?」


「・・・すっげーやる気出てきた」


どうやら鏡花もこの夏休みまでの付き合いで陽太がどのような言葉でやる気を出すのか掴んだのか、陽太の精神状況は最高潮と言ってもいいほど高揚している


もはやその目に不安などは無く、今すぐにでも試してみたいという意欲だけがそこにある


ここまで陽太を燃え上がらせるのは単純そうに見えて容易ではないというのに


「・・・本当にお前って教師に向いてると思うよ」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


静希は百%賛辞のつもりで呟いた、それは本心だ


鏡花と陽太の付き合いは四月から始まってようやく四カ月、もうすぐ五カ月になるがまだ半年も経っていない


なのに鏡花は陽太をここまで理解し、なおかつその能力を引き出せる状況を作り出せる


能力的な意味でも精神的な意味でも


静希は過去二人は相性がいいと言った


それは能力的な意味だったのだが、案外人格的にも相性がいいのかもしれないと思い始めていた


「それとみんな、これを着用しておいてね」


鏡花がカバンから何かを取り出して全員に手渡ししていく


全員にいきわたったのは特徴の少ない白い仮面だった


「何だこれ?」


「先生から頼まれたのよ、全員分作っておいてくれって」


出発前に鏡花に頼んでいたのはこれだったのだろう、エルフが着用するそれに似ているが少々改良されているようだ


視界制限が少なくなるように無駄がなくなっている


「収容されているとはいえ犯罪者共に接触させるわけだからな、素顔をさらすのはまずい、全員着用しておくように」


「この暑いのに仮面か・・・通気性はいいんだろうな?」


「急ごしらえなんだから無茶言わないでよ、ほら微調整するからすぐにつけて」


竹中から全員分の無線機を受け取り周波数を合わせた後イヤホンマイクをとりつけて小声でも会話できるようにしてから仮面の下に装備する


全員分の仮面の微調整を終わらせ視界も十分確保でき、なおかつ通気性もできる限り良くなるように改良を加えていく


静希と雪奈、熊田は各自装備確認を行い、全員が明利の種を身体に忍ばせた時点で全ての準備は完了した


その場には仮面を着用した六人が勢ぞろいすることになる、かなり異様な光景と言えるだろう


「明利、タイミングと合図は任せるわよ」


「うん、任せて」


地図を眺めながら自分の頭の中にある索敵情報と現実をリンクさせて何度もタイミングをはかっていく


その集中力は治療に集中する時と同程度かそれ以上のものだった


訓練を通して自分なりに集中を高める方法を掴んだとでも言うべきか、銃を握る時と同じ僅かなブレで的を外す狙撃にも似た集中を見せていた


「陽太、あんまり遠くに飛ばすなよ?」


「おうよ、ちゃんと手加減してやるって」


城島も能力発動の準備を始め、まず動いたのは鏡花、自分達が侵入する為の足場を作っていく


地面から階段のように伸ばしていき塀すれすれまで高くしていく


そして同じように施設側面から少し離れた場所に塀と同じ高さの足場を作る


一つは鏡花達の潜入用、一つは陽太がそこから静希と雪奈を投げ込む用である


どちらも侵入の際は無人機の動きを読んで的確なタイミングで行動開始しなくてはならない


僅かなミスが失敗につながる


全員が無線のスイッチをつけて会話可能な状況にしたうえで集中する


「先生、姿勢制御と着地時の衝撃緩和よろしくお願いします」


「あぁ、任せておけ」


準備運動とストレッチをして着地時に万が一にも足をくじくことがないように入念に身体を温めていく


この中で最も注意しなければいけないのは無人機を相手にすることではなく、人間を相手にする時だ


無人機は強力な兵装を持っていても所詮は機械、攻撃も行動もパターンがある


だが人間はそうではない、時には考えもつかないような突飛な行動にでることもあり得る


人質もそうだが犯人も殺してはいけない、とくに能力による手加減のできない静希と攻撃力の高すぎる雪奈は厳重な注意が必要と言えるだろう


『鏡花さん、熊田先輩、カウントスタートします、準備してください』


まず侵入するのは難易度の高い鏡花達から、無線の向こう側にいる明利が確実に行動に移せるように通告する


「了解よ」


「了解した」


明利のカウントダウンが始まる中、鏡花と熊田は深呼吸して侵入の準備を整えていく


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