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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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侵入作戦 概要

「となると厄介だな、侵入手段も考えなきゃいけないな・・・」


「その気になれば土台からぶっ壊せるけど・・・侵入しなきゃいけないのにそんな大事にはしたくないわね」


静希達が今行おうとしているのは隠密の潜入


鏡花の実力なら周囲を囲う壁全体を巻き込む程の巨大な変換も起こすことができるだろう、電差処理のされていない地下、壁の土台となっている部分からひっくり返すか持ち上げるかして簡単に侵入もできるだろうがすぐさま異変が伝わる


「それにあの報道陣があるからな、あまり強烈な事しない方がいいんじゃないか?」


まだ数は少ないとはいえいくつかカメラの存在も見受けられる、そうなってくると多少無茶な行動を阻害される可能性もある


下手すれば能力者が施設を破壊したなんて言われかねない


「あのカメラ邪魔っすね、警察の方で何とかならないんですか?」


「こっちとしても範囲外からの撮影を取り締まるわけにはいかないんだ、すまんが我慢してくれ」


どうやら竹中達警察の方でもあの報道陣には手を焼いているようだった


かなり離れた位置からの撮影とはいえ邪魔にならないとは言い切れない


むしろあのカメラのせいで強硬策に出れないという状況にもなっているようだった


「壁を乗り越えるだけならそこらの地面から階段を作ればいいのだが・・・壁から建物の間に二十mもあるのか・・・」


身体能力強化状態の陽太ならジャンプ一回で飛び越せるだろうが他はそうもいかない


フィアの協力が得られれば数人は向こう側にいけるだろう


ただ、警察が近くにいる中であまり奇形種であるフィアの力は使いたくなかった、最悪殺処分されかねない


「この壁の電流を止めればいいんだろ?この施設の電気止めるとかできないんすか?そうすりゃ向こうはいろいろできなくなる気がするんすけど」


陽太から思わぬ意見が出た、正直こういう頭を使う場面ではほとんど期待はしていなかったのだが予想外に具体的な案が出る


たまにこういう核心を突く発言ができるのが陽太の強みだ


「止めること自体は可能だ、でも止めたところで自家発電と予備電源に切り替わる、二つを併用すれば三日は持つ計算だな、しかも電気をきればその異常も向こうには筒抜け」


「余計に警戒させる上に人質に手を出しかねないってことですか」


刑務所と言うだけあって最低限の災害に対する予備対策として自家発電と予備電源は用意されているようだ


今はその対策が全くの裏目に出てしまっている、人質さえいなければ三日間籠城させて完全に電源が切れたところで突入することだってできるがそうもいかない


「人質がいるのは・・・ていうか牢屋ってどこなんです?」


「基本的に地下だ、この建物の地下一階から地下二階までは全部牢屋、地上は食堂やその他施設になってる」


と言うことは人質はほとんど地下にいると思っていいだろう


この施設はそれなりに大きい、囚人全員を一か所に集め直すよりも牢屋でそのままにしておいた方が効率的だ


その場に無人機と最低限の見張り、最悪一定時間おきに見回りすればよいのだから無駄もない


「鏡花の力で地下から侵入することは可能か?」


「この施設全体に電差処置がされてるかもよ?そのあたりどうなんですか?」


「一応資料には門と壁、本館建物外壁と各牢屋の鉄格子に処置がされているとあるな・・・壁の地下部分に処置がされているかは分からないが本館の外装部には全て施されているらしい」


つまり地下から攻略するというのも現実的ではないということだ


建物の見取り図とにらめっこしながらああでもないこうでもないと思考を巡らせていると静希は一つ気になる施設を見つける


「この焼却施設ってちょっと離れた位置にあるのは何でだ?」


見取り図の全体を見たときに二つだけ離れたところにあるのを確認する


資料には焼却施設、廃棄施設とある


要するにゴミを集める施設とゴミを燃やす施設だ


「そりゃ火事になったらまずいからでしょ?近くに廃棄施設もあるみたいだし、臭い物と危険なものは遠ざけるって感じじゃない?」


「・・・この施設って本館から直接つながってたりします?」


「あぁ、ここのゴミはまず本館一階から直結されたダクトがあってそこから廃棄所に直接送られる、そして焼却施設と連結されてて定期的に焼却処分するんだ、焼却できないゴミは週に二回収集車が回収に来る」


竹中の言葉を聞きながら静希は見取り図を凝視する


そして明利の記した円形の索敵範囲を見比べてさらに思考を展開する


いくつも状況を頭の中にたたき込んでいきパターンを解析していく


「明利、塀の中にいる無人機の移動コースを書いてくれないか?できる限り正確に、あとどれくらいの速度で移動してるかも」


「わ、わかった、ちょっと待ってて」


静希に言われた通り明利は索敵しながら塀の内側にいる無人機四体の軌道を定規などを使って記していく


その結果並行的に交わることなく、約三m間隔の四角が描かれる


どうやら四機すべてが同じコースを回っているのではなく少し角度を変えて監視することで死角を少なくするようになっているらしい


そしてどの機体がどのルートで動いているかも記した紙を見て静希はさらにいくつかの項目を書き記していく


「竹中さん、廃棄施設には電差処置はされてないんですね?」


「あぁ、処置されているのは本館部分とこの壁と門だけだとあるけど」


静希の物言いにすでに鏡花はどういう作戦を練ったのか理解してしまい物すごく嫌そうな顔をする


そしてその予想は的中する


こういう時に下手に頭がいいと面倒だと思いながら鏡花は頭を抱える


他の班員が気付いていない中熊田もその鏡花の顔と紙に書かれた追加情報を見て静希の考えを僅かに理解してしまった


「いい手かどうかは分からないけど、侵入経路いくつか思いついたぞ」


「まじか!どっから入るんだ?」


静希は見取り図にある一点に印をつけて全員の顔を見る


「廃棄施設のダクトを通って侵入する」


静希の言葉に全員が言葉を失くす


特に女性陣の表情はあまり良いとは言えない


直訳すればゴミ箱を通って行きますよと言っているようなものだ


「はんたーい!静、それはさすがに反対だよ、うら若き乙女になんつーことをさせるつもりさ」


「じゃあ何かほかにいい意見があるか?ここなら状況的に無人機の死角が僅かだけどできる、ゴミを集めてるダクト、しかも不燃も扱ってるってことはそれなりに大きいダクトだろうから人も通れるだろう、現状一番入りやすいと思うけど?」


雪奈の反論に静希は理論を持って対抗する


先ほど何度も計算し直した結果のこの侵入経路だ、ただ臭い思いをしたくないという女子的な思惑からは一線を画す


「・・・ちなみにその死角って何秒?」


「だいたい十五秒、細かい計測は明利の感知で再確認するけど、最低でも十五秒だ、お前ならその間に穴開けて侵入くらいできるだろ?」


鏡花の能力なら触れて数秒と経たずに穴を開けることだってできる、十五秒もあればおつりがくるレベルである


静希が記した無人機の死角は廃棄施設と本館の影になっている僅かな部分、無人機が通過する速度を考えてもそれほど長い時間とはいい難い


「どうやって壁の向こう側に行くの?」


「鏡花が足場を作って乗り越える」


「仕事が多すぎるわよ・・・まさか全員で行くとか言わないわよね?」


足場を作り全員で壁の向こうへ行き穴を開け中に侵入する


十五秒の間にそれらすべてをやるというのはさすがに無茶だ、いくら鏡花の変換速度が速いとはいえ全てをこなすには時間が足りない


壁の高さが約四m、そこから落下するだけでも空気抵抗を考えても0.9秒を要する


乗り越える、落下、着地、穴を開ける、侵入する、この五工程を十五秒、一つの工程にかけられる時間は三秒弱と言うことになる


「さすがにそりゃない、ここから侵入できるのはせいぜい二人だろうからな・・・そこでいくつか考えたんだけど、今回は班を三つに分ける事にする」


「三つ?」


今まで班を二分することはあっても三つに分けることはなかった


戦力的にも三人の方が安定するというのもそうだが、二人だと万が一の際に対応しきれない場合がある


「まず俺と雪姉、鏡花と熊田先輩、陽太と明利の三つだ」


これまた珍しいチーム分けである、今まで鏡花は陽太と同じチームになることが多かったが、陽太と共に行動するのは明利、正直あまり相性がいいとは思えない


「その分割の意味は?」


「まず鏡花と熊田先輩は廃棄施設のダクトから本館に侵入、ダクトの傾斜とか仮にローラーとかあっても鏡花なら問題なく行けるだろうしな、そんでもって二人には本館内部の無人機の破壊と人質の解放または保護をやってもらいたい」


静希の言葉に鏡花と熊田は嫌な顔をしている


当然と言えば当然だろう、誰だって好きこのんでゴミだらけの場所に行きたいはずがないのだ


特に鏡花の表情は嫌悪感で満ちている


「あんたらはどうやって入るのよ」


「俺と雪姉は早い話、陽太に投げてもらって本館屋上から侵入する、無人機の構造上真上は死角になってるみたいだし、タイミングを見計らって侵入する、その時に先生の能力をちょっとお借りするかもしれないです」


構わんぞと城島からの許可は出るがその提案に鏡花は納得していないようだった


「なんであんたらは屋上からで私達はゴミ溜めからなのよ!不公平じゃない!」


「・・・五十嵐、さすがに理由を話してくれないと俺自身承服しかねるぞ」


さすがにゴミをかき分けての侵入は二人も本意でないのか熊田もあまりいい顔をしていない


もちろん静希だってこの提案を喜々として行っているわけではない、むしろどうしようもないという妥協から来た案だ


「まず第一に地下一階から地下二階までが牢屋ってのはさっき聞いたよな?たぶんそのあたりに無人機と見張りがいる可能性が大きい、熊田先輩ならリアルタイムでの索敵ができるし鏡花なら無人機に対して攻撃も防御も有効に行える、能力を使えば隠れることだって簡単だろうしな、見張りもこの二人相手なら瞬殺できるだろ」


静希の理論と理屈しかない理路整然とした説明に鏡花と熊田は反論できずに口をつぐんでしまう


確かに無人機に対して鏡花はかなり高い対応力を期待できる


なにせ触れて変換能力を発動するだけで無人機を無効化できるのだから


もし無人機が発砲してきても床などを壁にすればすぐさま防壁の出来上がり、攻防ともに鏡花は無人機に対して天敵と言える


そしてそれは熊田も同じだ


本来あまり使わないが熊田の使うワイヤーを用いた攻撃は鏡花の変換能力と相性がいい


ワイヤーを引っ掛ける為の突起を鏡花ならすぐ作れる


そして相手が生き物ではなく機械であれば音の振動を用いた切削ワイヤーにより数秒で無人機を破壊できるだろう


建物内部の構造も理解できるし監視カメラなどの場所も一目瞭然、彼は非常に潜入に向いている能力の持ち主だ


今回の侵入作戦において無人機の対応としてこれほど適任の二名もいないだろう


そして人体に対してもこの二人の能力は有効だ


熊田の能力で一瞬ひるませることもできるし、鏡花の能力で即座に拘束することもできる


「じゃ、じゃあ明利と陽太は!?どうやって侵入するの?」


「二人は侵入しない、明利はここで見取り図を見ながら俺達のバックアップ、陽太は俺と雪姉を投げたあとに仕事がある」


まさかの侵入しないという選択肢に鏡花は唖然とする


明利が侵入しないというのはまだわかる、彼女は戦闘型ではないし俊敏な行動ができるとも思えない


だがこの班の主戦力とも言える陽太をこの場に放置と言うのはどうしても理解できなかった


「静希、さすがに陽太をこの場で遊ばせるのはどうかと思うわ、こいつはかなりの戦力よ?侵入にだってこいつの力があれば」


「もちろん有効に使えるだろうけど、こいつの能力は隠密行動には向かない、それはお前だってわかってるだろ?」


静希と鏡花がにらみ合い互いの主張をぶつける中陽太は無い頭でとりあえずこの場で一番考えなくてはならないことを頭の中に思い浮かべる


もし陽太が役立つことがあるとすれば無人機の破壊、または施設の破壊


基本的に肉体強化と炎の力があれば大概の物は壊せる上に銃火器による攻撃もほとんど効かない


鏡花や熊田とは別の意味で陽太もまた無人機に対して有効な戦力である


「なら俺はなにすりゃいいんだ?」


さすがに静希と鏡花のにらみ合いに飽きたのか陽太は結論を求めて質問を投げかける


「簡単に言えばお前は陽動だ、派手に暴れて一瞬でいいから向こうの気を引いてもらう」


「は!?見つからないようにっていったのはあんたでしょ!?」


「わかってるよ、ちゃんと説明するからまずは聞け!」


隠密潜入と派手な陽動、はっきり言ってその二つは対極に位置するものだが静希の中ではその二つを同時に使っての策がめぐらされていた


「まず俺と雪姉、鏡花と熊田先輩が気付かれないように侵入、その後フィアに建物の敷地内に大量に種をまいてもらう、そして俺と雪姉は窓から管制室に、鏡花と熊田先輩は地下に収監されてる囚人のところに見つからないように移動して開始の合図と同時に急襲する、その合図が陽太の陽動だ」


つまり静希の立てた作戦は三か所同時攻略


この施設の頭脳である管制室、犯人達の頼みの綱である囚人の人質と無人機、そして表を守っている無人機


この三か所を同時に攻撃しようというのだ


「三か所を同時に攻撃する意味は?」


「まずは相手を驚かせること、三か所同時に異常が見つかれば誰だって焦るし驚く、機械は動じないだろうけどその場にいる人間なら焦るはずだ、そこを狙う」


相手の人数が不明である上にこれが計画的な犯行である疑いがある以上、ある程度犯人同士での連携も考慮に入れるべきである


そうなると指揮系統を務めているのは管制室にいる人間


恐らくこの施設の装備の中には無線などもあるだろう、そう言った物で連絡を取り合う場合、三か所も同時に攻撃すればどこから解決していいか、またどのように対処していいか迷いが生じるのは必定だ


静希が狙うのはその迷いにより生じる隙である


「陽はどうやって壁を越えるわけ?」

「こいつなら四mの壁くらいどうにかして越えるだろ、表の無人機を壊した後は陽太は内部に侵入して鏡花達と合流して人質の解放に協力してもらう」


不確定要素が多い以上ある程度予想して行動する以外に対処法は無い


今回静希の想定としては相手は武装中、最低でもアサルトライフルと拳銃を持っている想定で約十人


互いに無線機で連絡を取り合える状況で無人機の操作は管制室にいる人間が行うとしている


配置は管制室に操作と監視で二人、監視に入り口部分に一人、そして地上施設通路巡回に三人、人質の様子を見張るための巡回で四人という想定でいる


「私と熊田先輩が地下から行くのは同時攻略しやすくするため?」


「そうだ、廃棄施設への侵入は鏡花じゃなきゃ無理だからな、それに窓から入る俺と雪姉と違ってお前達は通路を行くわけだから索敵は必須だろ」


今まで否定していたかった自分の意見を静希の作戦が次々と打ち破っていくのに対し鏡花は唸り始めながら頭を抱えた


自分が廃棄施設に入ることはほぼ確定、どうしてもそれを覆したければ静希の案を越える作戦を練らなくてはならない


だが現状においてそれ以上の作戦は思いつかなかった


もういっそのこと建物ごと壊してしまおうかという悪魔のささやきが聞こえてくるがその後始末も結局は自分がやることになるかと思うとその案は即座に却下した


「竹中さん、全員分の無線をお借りできませんか?」


「わかった、少し待っててくれ、用意するから」


鏡花が悩んでいる間にも作戦の準備は着々と進んでいる


何か案を出さなくてはと思うのだが静希の言うように相手が複数いる状況ならば複数同時攻略でもしない限り人質に危害が及ぶ可能性が高い


特に地下に配備されている人間がいた場合、熊田の能力で探知して鏡花の能力で捕縛と言うのがベストな対応だ、これが静希や雪奈が地下の人質解放に向かった場合相手が死にかねない


「清水安心しろ、消臭効果は期待できんが制汗剤程度なら持ってきている」


「先輩諦めるの早いです」


熊田はもうすでにゴミの中に入ることが確定だと判断して状況を少しでもよくとらえようとしている


だが鏡花は諦めない、少しでも何か可能性があるのなら自分がゴミにまみれる未来を回避できるのなら僅かでもその可能性にかけてみたいのだ


誤字報告五件+お気に入り登録件数1100件突破なので三話分まとめて投稿



仕方ないじゃないか・・・元より今日まとめて投稿するつもりが誤字報告まで来てしまったんだから・・・仕方なかったんだ・・・



これからもお楽しみいただければ幸いです

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