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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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社会的な死と物理的な死を

「んじゃ休む準備をしろ、ご主人、風呂等の案内をお願いできますか?」


「ハイもちろん、檜の風呂ですから疲れもとれるでしょう、かなり大きいですからみなさんでどうぞ」


檜風呂、初めての経験に全員が期待に笑みを作る


人気旅館でも最近は檜の風呂など見かけない、写真などでしか見たことのない物に全員の期待が膨らむ


「男子と女子に分かれて入浴だ、覗きなんてするなよ男子ども」


「せんせー!それは覗けという遠回しな振りか何かですか?」


「地中深くに埋められたいなら覗いてもいいわよ?」


「安心しろナイフくらいは携帯できる」


直訳すると死にたくないなら覗くなということである


ナイフを突き付けられながら地中深くに沈められるのは御免だ


「陽太、やめとけ、俺は命が惜しい」


「ちくしょう、こういうときはお約束じゃないのかよ」


しょぼくれている陽太をなだめながら静希は入浴の準備を始める


「どっちが先に入る?」


「男子の後はなんかいやね、先に入らせて」


「レディーファーストだ、こういうときは譲るのが男だぞ?」


「ど、どっちでもいいよ?」


こういうときって人間性が出るよなぁと思いながら不平不満を申し立てられてもやっかいだと静希達男子陣は特に反論することなく先に入浴をすることを譲る


「おい静希ぃ諦めきれねえって!先輩も何とかならないんスか!?」


残された男子陣は就寝の準備も進めながら着々と明日の準備も終えていく


こいつはどうやら果敢にも入浴先に飛び込むと同時に地獄への片道切符を手に入れたいらしい


「お前な、今ここで覗きなんてしてみろ、明日の日の出を拝むことなく血の海に沈むぞ」


「でもよぉ・・・」


どうしても陽太はお約束を叶えたいようで敷いた布団の上で転がり続けている


こういう時にやる気を出すくらいなら別なところでもっとやる気を出してほしい、そして危険に巻き込まないでほしい


「よし、響、お前に為になる話を聞かせてやろう」


「ん?何すか?」


覗きの件に関して沈黙を守っていた熊田が口を開く


その顔は微妙に青くなっていて、冷汗が額からにじみ出ていた


「俺達の班は俺、深山を含めた四人班、あと男子が一人と女子が一人いる、ちょうどこの班と同じ男女二対二の構成だ、その中でリーダーの男子生徒は特殊な能力でな、校外実習中の負傷は三回しかなかった、それほどの能力者だ」


一年校外実習を続けて負傷がたったの三回、難易度もそれぞれだが、多い時は二週間に一回はある校外実習を一年続けてほぼ無傷ということになる


「そんなリーダーが響のように覗きをしようと言いだしてな、俺は一度止めたんだが、リーダーは聞かずにそのまま覗きに向かった、そして数分後、悲鳴が響き渡ったよ」


「ばれたんですか?」


「あぁばれた、そしてその悲鳴は深山達のものではなく、リーダーのものだった、深山と昔から親しいお前たちならあいつの最大攻撃力を知っているだろう?」


「・・・はい・・・」


陽太の顔が青ざめる


昔の記憶というのもあるが、昼に見たあのナイフ捌き、腕が鈍るどころか腕はメキメキと上がっているのがよくわかる


それこそただの村人レベルから歴戦の勇者レベルにまでランクアップしてしまっているほどだ、過去ナイフの指導を受けた静希からしてみれば目を見張る上達だ


「駆けつけたら、深山はナイフを八本使ってリーダーを切り刻んでいた、能力を発動していた痕跡はあったのにそれを軽く打ち破って深山はリーダーを切り裂いた、あの光景は今でも忘れられない」


「・・・雪姉の最大攻撃力はナイフ十二本装備だったはずです・・・」


それも最後に雪奈と手合わせした時だ、今どうなっているのかは見当もつかない


雪奈は装備する刃物が多ければ多いほど攻撃力と戦闘能力を増す


八本なら猛獣だらけの牢獄に入れても傷一つなく生き残るだろう


「そうか・・・なら俺達は運がよかったのだろうな、殺されずに済んだのだから」


殺さなかったのが雪奈の意志かそれともリーダーと呼ばれる男の実力のおかげか、どちらにしろ自分たちがその場所に立っていたのであれば確実に十七分割されていたことだろう


「あいつの能力の名前が心底身にしみた事件だったよ、この話を聞いた後でも覗きに行くというのなら止めない」


切裂き魔の懐刀


その能力名に偽りなし、まさに本気になった雪奈は切裂き魔というにふさわしいだろう


もっとも本人は不名誉に思っているのだろうが


「う、で、でも俺達は昔からの馴染みだ、昔一緒に風呂にだって入ったことのある仲だ、きっと手加減したり叱る程度で許してもらえる」


「雪姉だけならその可能性もあっただろうな、だけど今は明利と鏡花もいるんだぞ」


「う・・・」


明利だけなら怖がって身体を縮めるだけだろう、その場合は静希と雪奈が陽太を粉砕する、だがあの場にいる鏡花はまったく許す気などないだろう


「たぶん宣告通りにお前を地中深くに埋めるだろうな、あいつにはそれだけの能力があるんだから、俺なら間違いなくやるね」


しかも陽太は過去生首状態にされている、陽太の能力全開状態でもすぐに地中深くにサヨナラバイバイだろう


「ちくしょう、このまま枕をぬらすしかないのか・・・」


「だいたい何でそんなに覗きたいんだよ、待ってるのは社会的抹殺だぞ?リスクが高すぎる」


「いや、それでも、たとえ社会的抹殺が待っていようと物理的抹殺が待っていようと、俺は行く!男を見せる!正面突破が俺の性分なんだ!」


その無駄な男らしさをなぜ別の所に活かせないのかと呆れながらふすまを開けて突撃しようとした瞬間、静希が陽太の足を引っ掛ける


「何するんだ!」


「さすがに友人を犯罪者にするわけにはいかないな、ここで拘束させてもらう」


「手伝おう、さすがに明日の戦力が一人いなくなるのは惜しい」


「おま!それでも男か!情けなくないのか!?」


「その言葉そっくりそのままお前に返すよ」


雪奈はともかく明利と鏡花のあられもない姿を覗かせるわけにはいかない


男として以前に人として情けなくないのかという言葉はさすがに飲み込んだがこれ以上は突進させられない


後に確実に確執を生むから、というのもあるがさすがにいい思いをするのも悪い思いをするのも陽太だと腹が立つというのが静希の内心だった


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