突破口の模索
事前に城島に聞いていた通りの内容だった為に静希達はそれほど驚きなく目の前にそびえている塀を眺めている
ここを攻略する上でどのような行動をすればいいか、この班の頭脳たる静希、鏡花、熊田はすでに思考を始めていた
「質問いいですか?この無人機ってなんです?」
「あぁ、これのことだよ」
竹中はそう言って一枚の写真と資料を取り出す
そこには白い円柱型の機械が写っていた
「十式室内用移動砲台といっていくつかの施設に配備されてる無人機だ、内部に機関銃やグレネードを発射できる機関を内蔵してる、直径六十センチ、高さ一m程度のものだ、資料ではこの施設には十機程配置されている」
写真や資料を見る限り円柱側面から射撃などをするようでいくつも開閉口があるのが見受けられる
恐らく時と場合によって使用する弾丸や武器を変更できるようになっているのだろう
「これ、まさか実弾が入ってるんですか?」
「全てじゃないが、いくつかの武装には実弾が装填してあるらしい、ほとんどは暴徒制圧用のゴム弾や催涙弾だよ」
実際に実弾が込められているということが確定した時点で静希達からすればもう命の危険に脅かされているのと同義だ
この中で実弾に対して有効な対処ができるのは陽太と鏡花だけ
静希も放たれる実弾を一度でもカードの中に入れてしまえば収納を利用しての防御も可能だろうが、あいにくと静希は弾丸を肉眼で捉えてから能力を発動できるような動体視力と反応速度を持っている訳ではない
「どこか入れる場所は無いんですか?」
「あの正門以外に出入り口は無い、それにあの門は設計上、戦車の主砲でも壊せないようになってるらしい、おまけに塀の上には返しと有刺鉄線、そしてこれはさっき確認したんだが、どうやら正門と建物の間に無人機が巡回しているらしい」
竹中の言う通り四mほどの高さの鉄とコンクリートの壁の上には塀その物と有刺鉄線で作られた返しができている
ここから侵入することもできないことはないだろうが少し苦労しそうだ
しかも塀を越えた先に無人機が待ち受けているとなると無能力者がここを突破するのは困難を極める
お手上げだよと両手を軽く上げて椅子の背に身体を預けるその姿は随分とやつれて見える
事件発生が早朝と言うことは恐らく寝ているところを叩き起こされて現場に直行させられたのだろう、その眼の下にはくまができている
「先生、竹中さんって能力者なんですか?」
「いや、こいつは無能力者だよ、ちょっとした縁があってな、一時期私が所属していた部隊にいたことがあるんだ」
現代において法に関わる組織はいくつか存在する
まずは一般的な警察、これはほとんどが無能力者で構成されている
まれに能力者がいることもあるがそれのほとんどは公安や特殊捜査等を行う部署に配属されるのが一般的である
次に軍、ここに所属している者の半数が能力者である
能力者は一般的な部隊と特殊部隊に分けられる
広い活動区域と救助活動や自衛行動などを任される世間一般的な見識のなされるのが一般部隊
そして局地的かつ緊急性が高く、制圧や急襲などを目的に組織された特殊部隊、主に立てこもり事件等の危険性の高い任務でその実力を発揮する
前者は無能力者と能力者の混成、後者はほとんどが能力者で構成される
無能力者と能力者が関わることができるのはこういった特殊な機関だけ
他にも能力管制委員会と言うような特殊な組織もあるが機密性の高い組織は情報がほとんど出回らない
そのせいで無能力者と能力者の認識の違いが年々大きくなっているのだが、ここではそれは割愛しよう
「よく特殊部隊に入れましたね・・・」
「私の部隊で無能力者はこいつだけだったからな・・・相当の変わり種だよ、おかげでいいおもいさせてもらえたがな」
城島の思い出し笑いに竹中は大きくため息をつきながら昔の出来事を回想をしているのか眉間にしわを寄せてしまっている
「まずはどうやって侵入する?そこから考えなきゃ」
鏡花が資料の中から建物の見取り図を取り出して思案を開始するが静希はまったく別のことを考えていた
「明利、今回種はどれくらい持ってきた?」
「え?えと全部で七十個くらいかな」
十分だと言って静希はとりあえず全員に一つずつ種を持たせ、残りの種を一つにまとめ始める
「まずは敵情視察と行きますか・・・竹中さん、その無人機ってどの程度の索敵範囲があるんですか?」
「えぇと・・・側面部四か所のカメラが基本的に動くものに反応する仕様で、あとはそれが人間ならデータ照合して・・・」
「その映像は管制室で確認できますか?」
「あぁ、全てのデータは管制室で取り扱われているらしい」
説明の途中でなるほどと鏡花も静希が何をしようとしているのか理解したのか見取り図に軽くいくつかの項目をメモし始め、同時にいくつかの準備を進めていた
塀と建物の間に四体の無人機が等間隔で巡回を続けていた
塀の端まで移動し、旋回して向こう側に同じ無人機を確認してまた等速で移動していく
そしてそれを何度繰り返していただろうか、無人機のカメラが動く物体を確認する
カメラに映っているのはどこからやってきたのか小さなリスだった
人間以外のものであるとわかると無人機は警戒を解除しそのまま等速での移動を再開する
その場におかれた種の存在には気付かずに
「首尾はどうだ?」
「大丈夫、上手く置いてくれてるよ」
塀の向こう側で明利は地図にいくつも印と円を書いていく
印は種の置いてある場所、そして円は索敵範囲だ
まず静希達が行ったのは敷地内の索敵、実際に見るよりも正確な探知のできる明利がいるのにわざわざ危険を冒す必要はないということだ
配置に種を仕込んだ石を投げ込んでもよかったのだがそれではカメラに映り警戒される可能性がある為に静希の使い魔のフィアに頼んで種を設置させているのだ
このように木々に囲まれているならリスのような外見をしているフィアが紛れ込んでも不思議はない
全ての種の配置が終わったのかフィアが塀の向こうから帰ってくる
ご褒美としてヒマワリの種を渡すと嬉しそうに頬袋の中に詰め込んで静希の懐の中に入って行った
「カメラが全方位見えるんだとしたら・・・今のところ死角はなさそうだね・・・」
「んん・・・隠れて侵入っていうのは難しそうだな」
明利の探査状況から相手の防御に今のところ隙がないということを察して静希達はどうしたものかと思案する
現状この塀の向こうに入る手段はいくつか考えついているがその先ばれないように侵入するというのがネックだ
もしばれたら人質に手をかけるかもしれない
「とりあえずどうするのがベストかしら?指揮官殿?」
「・・・そうだな、人質がいる、建物内にも無人機があるってことを考えると、気付かれないように侵入、管制室、無人機、人質の保護を同時にやって、その後犯人を倒しながら人質を解放・・・かなぁ」
人質がいるといないとでは対応が大きく変わる
これがただの立てこもりだったら力任せのごり押しでも解決できるのだが人質がいてはそうもいかない、囚人とはいえむざむざ殺させる訳にもいかないのだ
無人機の四体が外部に、残りの六体は内部で行動しているのだろう
そして犯人の数は恐らく最低でも三人、下手すれば十人規模にまで上る
これだけ手際良く立てこもりその後すぐに犯行声明を出したことから恐らくは計画的な犯行だろう
静希からすれば計画された犯行と言うのは読みやすいが、その分突破口を見つけるまでが厄介だ
「入るだけなら鏡花があの壁に穴開けりゃ済むんだから楽だろうけど、問題はあの無人機だよなぁ・・・」
陽太の言う通り潜入するだけならそれほど難易度が高い訳ではない
鏡花の変換能力を持ってすれば多少厚いだけの鉄でできた壁など簡単に突破できる
問題は無人機、どうやって気付かれないように建物内部に侵入するかが最も重要視される
そう思っていたのだが資料に目を通していた鏡花があちゃーと声を上げる
「ごめん、あの壁と門、私の能力じゃ突破できないかも」
「は?」
鏡花の言葉に全員が疑問符を飛ばす
「竹中さん、あの壁と門って電差処置されてます?」
「あぁ、されている、だから変換能力を用いての突破は通常は不可能だ」
やっぱりと呟きながら鏡花は納得するのだがその周りにいる全員が理解が追い付いていない
なぜあの門に鏡花の能力が通じないのかまったくわからないのだ、専門用語を言われても意味が分からない
「えと、鏡花ちゃん、とりあえずわかりやすく説明してくれない?何処置だって?」
「いいですよ、正式名称電位変換交差処置、略して電差処置、簡単に説明すると物体に電流を流す時その周波数や電圧、電流、向き等をランダムに変換する装置の事、これがあると私のもつ変換能力が阻害されるのよ」
おそらく彼女が変換能力者であるが故に知っていた知識だろうが説明されても静希達はほとんど理解できない
陽太にいたってはこいつは一体何語で話しているんだと耳から煙を出してしまっている
「えっとね、私達変換能力者は能力を発動する時にその物質のことを理解したうえで変換を行うわ、私は同調の力もちょっと入ってるからそこら辺は楽なんだけど、この電差処置をされてると本来理解してる物体とは別物に変異した状態になっちゃうの」
理解できていないと思われる静希達にさらに詳しくわかりやすく教えたつもりなのだが今度は陽太だけでなく雪奈まで煙を出し始める
自分の得意分野ではない明利も理解が追い付かずに頭をぐるぐるさせていた
「えぇっと・・・そうね・・・どういえばわかりやすいかしら・・・あの壁が常に違う物質に変異し続けてるっていえばわかる?」
「・・・あぁそっか、電流が流れてる物質と流れてない物質は別物って話か、それと同じで電流の量やらなんやらが違えば別物扱いってこと?」
そう、そういうこと!とようやく理解した静希に対して喜びの声を上げながら指さす
鏡花の能力は変換、変換対象に同調してどの物質かを理解したうえで変換を行う
だがこの電位変換交差処置をされている物質には常に変化し続ける電気が流れている
物質はその中に電流が流されている物は通常の物質とは全くの別物になる
紅茶がミルクティーになるようなものだと鏡花は語るが実際その通りだ
そしてその電流が常にランダムで変化し続けると鏡花が常に同調の力を使い物質を理解し続けても一向に変換できない、何せ常に変わり続けている以上正確な物質の理解ができないのだから
誤字報告が五件たまったので複数まとめて投稿
最近試験的に一日に書く量を増やしています
具体的にはワード換算2p/日から4p/日にしました
やっぱり書く量が多いと物語全体の把握が難しいです、まだまだ未熟ですね
これからもお楽しみいただければ幸いです




