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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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現場の苦労人

「今回も電車で移動だって、先生が来たらすぐ出発するらしいわ」


城島への連絡を終えた鏡花が全員に炎天下の中これからの予定を軽く説明しながら汗をぬぐう


八月ももうすぐ終えようというのに日中の気温は下がることはない


近年温暖化などと騒がれている中、この暑さを体感すると確かに地球は暑くなっているのかもしれないと思えてくる


「すまん、待たせたな、出発するぞ」


雑談している中駆け足でやってきた城島を確認した全員は出発するために各々荷物を担ぐ


今回も移動は電車、だが今までやってきた実習の中では一番移動時間は短い


だが問題は今が夏休み真っただ中だという点だ


電車の中は家族連れや夏季休暇中の学生、どこに行くのかご老人の姿も見える


それほど遠い道のりではないにせよ私服だらけのこの空間に静希達のように専門学校の制服を着込んでいると場違いに思えてくる


「あっついな・・・冷房利いててもこれか・・・」


「人の温度であったまっちゃうからね・・・ドアの開閉でも外の空気はいるし・・・水分補給は怠らないようにしなきゃ」


定期的に水筒を取り出して水分を摂取しながら静希達は目的の駅にたどり着く


とはいってもそこからはバスや歩きを経由して結局移動に二時間程度かかってしまった


静希達が今回やってきた刑務所は資料に記されていた通り周りを木々に囲まれ自然と一体化しているような景観をしている


外周は高い塀で覆われ出入りするためには巨大な正門を通るしかない


壁と建物の間は二十mほどの距離があり、建物の向こう側には運動ができるようなグラウンドやゴミの廃棄用の施設などもあるようだった


建物本体は三階建て、かなり広いらしく周囲を覆う壁の向こうが見えない


そして静希達がたどり着いた時には外周付近に大量の警察官が待機していた


その近くには何名かの報道陣らしき人物も見受けられる


さすがに刑務所が占拠されるなんてことが起きている以上マスコミの対応は早い


「君達、ここはいま立ち入り禁止だ、離れなさい」


警察官の一人が近付いてきた静希達に気付き即座に立退きを勧告するが城島は無視して先に進んでしまう


「おい!止まれ!ここから先は」


「ここから先は私たちの仕事だ、貴方達は下がっていてほしい」


城島がなにやら書類を出して制止しようとしていた警察官に見せつける


それを読んだ警察官は数秒思案し、その後すぐに焦り始める


「ここの責任者に会いたい、案内してもらえないか?」


「わ、わかった、こっちだ」


一体何の書類を見せたのか、警察官は城島と静希達を見比べながら外周部付近に設置された仮設テントに全員を案内した


どうやらここが現場の対策本部らしい


中にいる警官がいくつも指示を飛ばしているのが見受けられるがどうも上手くいっているようには見えない


そして指示を飛ばしていた人物が静希達に、いや城島に気付くと全力で嫌な顔をした


「ゲッ・・・城島・・・先輩・・・」


「やぁ竹中、久しぶりだな、少しは出世したか?」


城島の後にぞろぞろと入ってきた静希達を見て状況を理解したのか額に手を当てて思い切りため息を吐きながら何やら葛藤している


この会話から城島の後輩であることがうかがえるのだが、警察に城島の知り合いがいるとは思わなかった


「現場の指揮をしてるのがお前だったとはな、話が早く済みそうだ」


「・・・その子たちが教え子ですか?」


「そうだ、喜吉学園一年B組一班、これより校外実習を開始する、ぜひとも協力してくれ、これ書類な、サインしとけ」


城島が取り出した書類を確認しながらいくつも急いでサインしていく


このやり取りだけで上下関係がわかってしまう


この警察の竹中と呼ばれる人物は徹底的に城島には逆らえないようだった


「先生、この人は?」


「あぁ、紹介しておこう、警察に勤めてる竹中幸平、前は巡査部長だったけど・・・」


「今は警部補です・・・」


「おぉそうか、出世したじゃないか」


なんだろう、この空気はと鏡花は目の前の竹中と呼ばれる人物に共感を感じていた


早い話、苦労人の匂いがする


上にも下にも面倒を抱える中間管理職、何というかとても仲良く出来そうな気がしたのだ


「竹中、こいつらが私の教え子、右から清水鏡花、五十嵐静希、幹原明利、響陽太、他二名二年生だ」


城島の紹介に全員がよろしくお願いしますと頭を下げると竹中は疲れた声でよろしくと言いながらいくつかファイルを取り出して資料を机の上に広げていく


「一応ここの現場指揮は自分が任されてますから、あまり勝手な行動はしないでくださいよ?」


「無能力者に何とかできる現場ならいいがな、まぁできることはする・・・状況を教えてくれ」


城島の言葉に竹中はとりあえず現状わかっていることだけを適度にまとめて教えてくれた


本日早朝、遅番の看守と早番の看守の入れ替わりの時間に数名の囚人が牢から抜け出し看守を人質に三階にある管制室を占拠


協力して保管されていた武器兵装を奪取、及び正門などの全ての扉をロック、内外に放たれていた無人機も全て制御化におかれていると思って間違いない


犯人の人数は不明、犯人の要求として能力者刑務所に入れられているある人物の釈放ということだった


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