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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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夏休みの宿題

空港を出た男は蝉の声が聞こえないところはないとでもいうかのような真夏の日中をスーツ姿で移動している


日本についてからどうにも汗が止まらない


独特の湿気と強烈な熱気が身体から急速に水分を奪っているのが実感できた


「まったく・・・上も面倒な事を押し付けてくれたもんだ・・・」


自販機で購入した水を口に含んで喉を潤すのだがこの暑さはまったく収まることを知らない


日本の夏に慣れていない彼はネクタイを緩めてため息をついた


すでに目的の相手が住む街に到着し、準備を進めなくてはいけないというのに、予想外の事態が発生していた


「おいおい、日本の学生はこんな暑いのに学校に行くのか」


通り過ぎる三人組の学生を見て彼は大きく感嘆する


その中には幾分かの呆れも含まれているだろう


写真を確認し先ほどすれ違った人相を確認する


「あぁ・・・もう・・・どこか涼めるところで待機するか・・・」


彼は荷物を引きずって歩きだしとりあえず近くの喫茶店を目指すことにする






静希達が学校に来るのは何日ぶりだっただろうか


出かける前に今日帰ってから買う物のメモを作ってポケットの中に忍ばせ、真夏の日差しが地面を焼く中、汗をかきながら一班の人間は喜吉学園の職員室に向かうために校門前で待ち合わせしていた


「お、来た来た」


「おつかれ~、今日も暑いわね」


静希、明利、雪奈が到着する時にはすでに陽太と鏡花が待っており健康的に日焼けした肌を晒しながらこちらに手を振っている


二人も日々の訓練で毎日外に出ているのだろうが静希程焼けていない


「お前・・・背伸びたか?」


「お、わかるか?夢の180台になったんだ、そう言うお前も背伸びたか?」


「こっちは170後半だ、明利と身長差三十センチになった」


ほうほうと呟きながら互いの身長を比べあっているが一ミリたりとも伸びていない明利、そして多少は伸びているだろうが男子の伸び率には追いつけない鏡花とすでに成長期を終えたであろう雪奈はその様子をうらやましそうに見ていた


「ところで、ちゃんと訓練やってんのか?」


「やってるやってる・・・てかもうこの鬼教官ひっでーんだぜ?毎日訓練の後勉強までさせんだよ・・・おかげでもう頭パンクしそうだ」


夏休みに勉強など陽太はほとんどやらない、と言うか過去にやっていた記憶はない


最低限出された宿題をやる程度、しかもそれも最終日間近にならないと動かないという徹底っぷり


静希は夏休み開始時点で一週間ほどかけて明利と一緒に宿題を終わらせた


そして鏡花と陽太も同じように訓練の後に着々と宿題に手をかけているようだ、恐らくはもう終わっているだろう


「当たり前でしょ、力を使うにはその理論から、身体を動かすには頭から、そうじゃなきゃ能力を効率的に使えないんだから」


「この時期に俺が宿題終わってるなんて奇跡だぜ、奇跡、きっと来年の夏は雪が降るな」


勉強嫌いな陽太にここまで勉強を強制できる人物も珍しい、過去実姉である実月が何度となく陽太に勉強を教えようとして逃げ出していたのにもかかわらずだ


やはり鏡花には誰かにものを教えるという才能があるのかもわからない


「てことはもう全員宿題は終わったんだね」


「雪姉を除いて、な」


静希の告発に勉強の会話から逃れていた雪奈は僅かに身体を震わせる


同じ学年の熊田がまだ来ていないためどれほどの宿題の量が出ているかは不明だが、最悪彼にこの出来の悪い姉の勉強を見てもらうことになるかもしれない


「静よ見くびってもらっては困る、何年私が姉貴分をやっていると思っている?あの程度の宿題ならいくらでもでっちあげて見せるさ」


決定だ、雪奈には熊田が付きっきりで勉強を見てもらう必要がある、少なくともこの人は適当に宿題を終わらせる気満々だ、きっと再提出させられるだろう


そうなった場合しわ寄せが来るのは静希だ、夏休みが終わってから一週間が過ぎたころになって『静ぅぅぅ!宿題を手伝って!再提出をくらっちゃったんだ!』などと言って泣きついてくる未来が見えるようだ、事実去年は泣きついてきた


当時まだ中等部にいたのにもかかわらず高等部の宿題を手伝わされ、明利を助っ人に三人で頭を悩ませながら問題を解いていたのを思い出す


「すまない、遅れたか?」


そうこうしている間に雪奈と同学年の熊田も到着する


その場にいる誰よりも肌が白い、恐らく外出などしていないのだろう


「なんだ、全員黒々と焼けているな、俺だけ疎外感があるぞ」


「俺ら毎日訓練してるんで、先輩は?」


「クーラーのついた部屋で快適に生活していたよ、おかげで外に出るのが億劫だった」


夏休みで一番嬉しいものと言えばクーラーとアイスだ


どれだけ着飾っても涼しい部屋で冷たいアイスを頬張る以上の娯楽は思いつかないだろう、堕落の始まりと言えばそこまでだが落ちてしまいたいような魅力がその二つにはあるのだ


「時に先輩、宿題は終わりました?」


「ん?そんなものは七月中に終わらせたぞ」


その言葉に全員の視線が雪奈に向かう


この中で学校から出た宿題を終わらせていないのはどうやら雪奈だけらしい


「あぁ・・・なるほどそう言うことか・・・深山お前たしか去年再提出くらっていたな」


擬音が聞こえていたのならばきっと雪奈の方からギクッという音が出ていただろう


明確に動揺し、しかもわかりやすく口笛を吹いてごまかしている


「実は、去年は俺と明利が手伝ったんですよ、今年はそうなる前に熊田先輩にお願いしようかと」


「・・・なるほど、再提出の宿題の文字がやたら綺麗だったのはそのせいだったのか・・・にしても当時中学生に手伝わせるとは・・・」


「べ、別にいいじゃん!静と明ちゃん頭いいし!」


そういう問題ではないんだとなぜこの姉貴分は分からないのか


雪奈の書く字はそれほど綺麗とは言えない、ミミズがのたうち回ったようなとまでは言わないが少なくとも綺麗ではない


それに対して静希は全体的に整った字を、明利は丸く小さい字を書く


筆跡鑑定に回すまでもなく他人が書いたとわかるような違いだ


「とりあえず全員集まったしいこうぜ、班長、今日の予定は?」


「この後先生に実習の資料をもらって先生を含めて軽いブリーフィング、その後静希の家で本格的に調べを進めましょう、夏休みだからって気を抜かないようにね」


班長鏡花の言葉に全員が了解と答えてから職員室に移動する


結局タイトルは一話の前書きに読み方の注意書きをすることで落ち着かせようと思います


意見をくださった方々本当にありがとうございます


これからもお楽しみいただければ幸いです

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