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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」

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紫煙と蝉の八月末

ある国のとある場所からその人物はやってきた


黒いスーツにサングラス、そして大きなスーツケースを手に持ち一つ息を吐いて歩き始める


自分とは違う人種の人間が大勢いるこの場所で彼は懐から煙草を取り出して火を点け、紫煙を口から吐き出しながら人混みをすり抜けるように進んでいく


彼はここに仕事で来ていた


彼がやってくるような仕事は大概が面倒事と相場が決まっていた


だからこそ、こんな国でそんな面倒事を片付けなくてはならないと思うと気が重かった


とにかくここから移動しなくてはと思い辺りを見回していると係員を見つけることができる


「失礼、ちょっといいだろうか」


「はい、なんでしょう?」


流暢な日本語を話す彼は、はたから見ても日本人には見えない


髪は黒いが白い肌と高い鼻がアジア系の人間ではないことを物語っていた


「この住所に行きたいんだが、どう行けばいいのか分からなくてね」


仕事内容の一部が書かれた書類の住所が書かれている場所を指で示すと係員は記憶をたどると同時に懐から簡単にメモを書き始める


「口答ではわかりにくいと思いますので、こちらをどうぞ、そちらの住所近くの一番大きな駅までの道のりを書いておきました」


「そうか、ありがとう」


サングラスの上からでもわかるように笑みを浮かべて謝意を述べた後立ち去ろうとしたがそこを係員は失礼と告げたうえで呼びとめる


「お客様、エントランスは禁煙となっております、喫煙される場合は専用の喫煙所がございますのでそちらでお願いいたします」


「おっと、これは失礼した」


懐から携帯灰皿を取り出して自分の咥えていた煙草を慣れた手つきでその中にしまう


「では、良い一日を」


今度こそ別れを告げた彼の持つ書類


その中には多くの内容が記され、その中には一枚の写真も収まっていた


写っているのは一人の日本人


まずは彼を直に見ることが第一の目標だった


真夏の日差しが降り注ぐ中気温は三十度をはるかに超え蝉は最後のあがきと言わんばかりに喉が裂けそうなほどに大声を張り上げている


蝉に喉があるかは知らないがこの大合唱は毎日聞いているとさすがに飽きる


銃撃が響く訓練所の中で静希は駆けまわっていた


その手に持った銃を使い遮蔽物から的確に目標へと射撃、そして移動を繰り返す


この訓練を始めてからまだ一カ月もたっていないというのに静希の射撃の能力は飛躍的に上昇していた


コツを掴んだとでも言えばいいのか、ある一定の期間から静希の射撃と遮蔽物の使い方が格段に上手くなったのだ


最近では残弾がゼロになるまで撃ち続けても死亡しないこともある


最初何十回も死亡していたころが懐かしい


静希が最後の弾を撃ちつくしその場で息を荒くしているとゆっくりと遮蔽物の向こうにいた隊員が立ち上がる


「状況終了、また仕留めきれなかったな」


「はは・・・逃げ切った・・・!」


遮蔽物に背を預けながら静希は歓喜のガッツポーズと共に身体に残る疲労感と高まった体温を実感していた


額からは汗が噴き出る、先ほどまで流れていた緊張からくるものではなく、安堵したからこそ流れる自然な汗だった


「静希君、お疲れ様」


「おぉ、ありがと」


訓練の終了と共に明利がタオルと飲み物を持って駆け付ける


最近の明利は静希とは別のメニューで身体を鍛えるとともに専門知識をどんどんため込んでいった


静希が戦闘と工作、運転技術などを仕込まれる傍ら、明利は持久力と瞬発力を鍛えながら、応急処置と地形把握を用いた戦略技術を叩きこまれていた


明利の強みはなにも応急処置の治療だけではなくその地形その物を把握できるその能力の応用性にある


前準備が必要とはいえ静希達がいればその工程もほとんどないようなもの、明利にとってチームへの貢献は直接的に事件解決に関わることではなくその道筋を示すことであると隊員も察したのだろう


そして先ほどの戦闘も明利は能力を通じて全容を把握していた


静希達が駆け回った遮蔽物を用意した訓練場のあちこちに明利の種が仕込まれどのような動きをしているのか、どこに隠れているのかなど全て確認していた


そう考えると明利に高い身体能力があれば恐ろしい事になったのだろうが、そうもいかないようだ


「今日の訓練はここまで、クールダウンしてシャワーを浴びてこい」


「はい、ありがとうございました」


訓練につきあってくれた隊員に頭を下げて静希は入念にストレッチして身体をほぐしていく


明利に同調してもらい身体の筋肉におかしい点がないかを確認しながらゆっくりと身体を休めていく


時間的には夕方になる手前、十五時前後だがいつもよりかなり早い切り上げだ


その理由として今の時期が挙げられる


今は八月末、明日静希達は夏季休暇中の課題の一つ校外実習への打ち合わせの為に城島の元に向かうことになっている


そのことを隊員も理解し疲労を残さないようにしてくれているのだ


学生の本分は学業、そのことは静希も明利も忘れていなかった


今回から十話が始まります


そしてすごい今更ですがこの物語のタイトルJ/53の正しい読み方は


『五十三分のジョーカー』です


ルビふりしなかった自分がいけませんね


本当にすごい今更な感じがありますがこれからもお楽しみいただければ幸いです

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