表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

342/1032

Joker

帰国して数日後、静希は城島に呼び出されていた


時差ぼけの影響と張り詰めていた緊張がとかれたことで数日はまともに行動できなかったのだが、電話の向こうから発せられた『とっとと来ないと教育指導するぞ』という一風変わった脅し文句にいやいやながら静希は城島の待つ職員室へと向かっていた


職員室に入るとそこにはいつものように書類仕事をしている城島の姿が見受けられる


心なしかその表情は明るいように見える


「来たか・・・まずは御苦労と言っておこう」


「もうこんなことはごめんですよ、少なくとも海外も悪魔も当分は勘弁してほしいです」


結局、メフィの協力への駄賃として駅前のバカ高いケーキをホールで購入させられしかも食べさせられたせいで静希の懐は寒く、僅かに胃もたれがしている始末だ


敵になるにしろ味方になるにしろ悪魔は非常に厄介な存在であることに違いはない


「それで、今度は何の用ですか?」


「ふむ、三つほど要件があるが・・・まずは報告書の件から進めていこう」


任務を終えると同時に静希は今回の件の報告書を作成し城島に提出していた


それは同行した大野と小岩も同じでどのような行動をしていたかというのを事細かに記してあった


「何か問題が?」


「いや・・・まぁ随分とあいつらを困らせたようだなと思ってな」


「あぁ・・・ちょっと申し訳なかったかもですね」


静希からすれば自分にできる行動をすべて行っただけだが護衛する二人からすればこれほど守りにくい対象もいなかっただろう、何せ次の瞬間何をするかわかったものではないのだ


実際彼らに何の情報も与えずに姿を消したこともある、反省すると同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになる


「あの二人にはいい教訓になっただろう・・・っと、本題はそっちじゃない、このリチャード・ロウという人物についてだ」


その言葉に静希は表情を引き締める


以前自分が悪魔と関わることになったきっかけを作ったかもしれない人物だ、少なくとも何かの情報源にはなるだろう


「この名前に間違いはないのか?」


「えぇ、協力関係にあった教授の話では間違いないかと」


静希の言葉にそうかと呟いて大きくため息をつく


どうやら静希の想像とは対照的にいい情報を得たというふうには思っていないようだった


「名前がわかったんですから、少しはまともに捜査できるんじゃ・・・」


「いや・・・間違いなく偽名だろうな、少なくともまともに名乗る気がないような偽名だ」


「どういうことですか?」


「・・・リチャード・ロウってのはな、ジョン・ドゥや名無しの権兵衛と同じような身元不明の人物を示す時に使う仮の名前だ、これは正直手掛かりにはなりえない」


城島の言葉に静希は大きくうなだれる


事件があった後、報告書を作り城島に提出してすぐに日本の調査員が何人か事件に対して探りを入れるためにイギリスに発ったという知らせは聞いていたがそれではあまり期待できそうになかった


何せ静希と教授が持つ情報はほぼ同一だったのだから


「だがこの件のおかげで少なくとも奴が日本から出て世界的に活動していることが分かった、これからは各国と共同で調査も進められるだろう、そう言う意味ではお前のお手柄だ」


「はぁ・・・喜んでいいやら微妙ですね」


静希からすればもっと決定的な証拠を握っておきたかったのだがいかんせん教授と仮面の男リチャードの接触時期に違いがあり過ぎた


教授の話では接触してきたのは五月末、五月の半ばに日本の人権団体に接触してからほとんど時間を空けずにイギリスへと移動したことになる


情報だけを渡して自分はすでにどこか遠くに行ってしまっているだろう、そう考えると痕跡だけでもたどれたのは奇跡に近い


「相手は一体何をしようとしてるんでしょうね」


「さあな、少なくともろくなことではないのは確かだ、悪魔の召喚法なんて慈善事業が行うような内容じゃない・・・そのうち全世界で手配されるだろうさ・・・それとお前にこれが届いている」


城島が取り出したのは英語で何か書かれた賞状のようなものだった


静希の学力では即座にそれがなにを意味しているのかまでは判断できなかった


「なんですこれ?」


「感謝状、今回の事件解決への尽力の結果だ、これが二つ目の要件で、こいつもついでに届いていた」


城島が次に取り出したのは英語と日本語が混じりながらも書かれた書類、そこにはいくつかの要項と署名があるが最後の一つの単語に静希は目をひかれた


そこには大きく『Joker』と書かれている


「これは?」


「今回の事件解決に尽力したとして、イギリスの軍と警察から日本の委員会に直接申請があってな・・・お前の称号が決定した」


称号、それは雪奈が持っている『切裂き魔』のような第三者から受ける評判であり、事件に対して活躍した能力者に対して贈られる栄誉でもある


今回の場合静希はイギリスの軍と警察からその活躍を認められ日本の委員会と協議した結果称号を得るまでに至ったということである


「一年生の、しかも夏休みの間に称号をとるなど異例も異例、光栄に思うことだ」


「・・・喜んでいいのか微妙ですね・・・」


今回のことは静希だけの実力ではない、特にメフィや邪薙、オルビアとフィアの功績が大きい、それだけに静希としては微妙な心持だった


「そして三つめ、これがお前としては一番重要だろう、今回の事を解決したことで向こうから『これからも友好的かつ良心的、及び互いに不利益のない関係を保っていければと思う、何か問題があれば力になることを約束する』という旨の書状が送られてきた」


「・・・どういうことです?」


「要するに『仲よくするからこっちの実験のこととか言わないでくれ、こちらも君の事は口外しないことを約束するから』っていうことだ」


なんとも噛み砕いたいい方だが、それが本当だとすれば静希はイギリスとの関係をイーブンに持っていけたということだろう


いや手に入れた情報の大きさから考えるとそのバランスは静希の方に傾いている


何せ一人の個人情報と国一つのプロジェクトだ、前提からして情報の重さが違う


「とりあえず要件としてはそんなものだ・・・一応言っておくがこの称号の件は外交にも絡んでくる、内密にしておけ、でないとまた面倒がやってくるぞ」


「わかってますよ・・・もう面倒はごめんです」


ようやく面倒事の連鎖から解放され静希は大きく安堵の息をつく


こうして静希の夏休みの一つの事件は終わりを告げる


変わったことと言えば悪魔の契約者の友人ができたことと、静希の称号が追加されたことくらいである


ジョーカーの名を受ける静希がこれからどのように過ごすのか、誰もわかりはしなかった


またこの事件が終わった後、静希の預金通帳に七桁程の金額が依頼料として入金されたのはまた別の話である


これにて九話は終了となります


明日から十話になるんですが・・・少し長すぎました


最初から出す情報は決めていたのですがそれでも長すぎて少しだれているような印象を受けました


次回からはもう少しコンパクトにまとめなくてはいけませんね、今後も課題は多そうです


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ