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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

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帰国と別れ

静希が教授を罠にはめてから数日、数多くの手続きやら事情聴取を終え静希は日本に帰ることになった


結局十七人を殺した犯人は教授であることが確定、これから裁判も行われるらしいが実刑は免れないとのことだった


実験の裏で召喚に対しての情報を回していた人物について聞くために何度か教授のもとを訪ねたのだが、収穫は静希が知る以上のことはわからなかった


唯一わかったのはリチャード・ロウという名前のみ、いや名前がわかっただけでも幸運だったかもしれない


話を聞くに突然現れたリチャードは教授に悪魔を使役したくはないかと持ちかけ今回の実験とその計画を持ちかけたそうだ


予定日を数日遅くした報告書を作り、それを知らない研究者達と共に任意の悪魔を召喚し、研究者を殺し隙を作り心臓へ細工をする


本来はそういう腹積もりだったようだがエドモンドの乱入で全てが水泡に帰した


そして問題のヴァラファールはというとこのままエドモンドと共に過ごすということだった


メフィがその様子を見てやっぱ気に入ったんでしょというと少し不機嫌になりながらそっぽを向いてしまう


悪魔の好き嫌いまではわからないがどこかひかれる部分があったのだろう


エドモンドも数日警察などに拘束されることになったのだが軍への悪魔を使っての攻撃も正当防衛として認められ罪にはならないそうだった


一番の要因として死者が出なかったことが大きく影響しているのだと言っていた


慣れない英語圏での行動だったが静希からすればもう二度とこのような目には遭いたくないという想いがあった


そしてそれはエドモンドも同じだろう


同じ悪魔の契約者としてこれからに同情してしまう


結局無実の罪で数日間追いまわされたのだ


医者に聞いた話では僅かに栄養失調と過労の症状が見られたという


数日間ろくに休んでいなかったのだから当然とも言えるだろう


そして時間は過ぎ、空港にて


「長いようで短かったなぁ・・・早く帰って休みたいよ」


「ようやく日本に帰れるわね・・・日本食が恋しいわ」


大野と小岩の両名は荷物を確認しながら帰国の手続きに追われていた


そして静希はと言うと


「結局これからどうするんだ?研究者を続けるのか?」


自分達を見送りに来たエドモンドと会話していた


その近くにはヴァラファールが周囲には見えないように存在しており、彼が正式に悪魔の契約者となったことを物語っていた


「いや・・・この国を離れようと思ってるんだ、父の仕事を手伝いながら世界を見ていこうと思っている」


エドモンドの父は運送業、それも陸海空問わず幅広く行っているのだという


確かにそれを手伝えば全世界を見て回ることも可能だろう


「まぁ・・・あんな目にあったんじゃ、この国には居づらいか」


「それもあるけどね、君を見て自分の視野の狭さを思い知ったんだ」


「俺?」


エドモンドは真剣な面持ちで静希を注視している


静希自身は何の変哲もない学生に見える、エドモンドから見ればそれは本当にただの子供に見える、だからこその心境の変化だった


「君のような・・・不可思議な存在と共生する人間を初めて見た、そして躊躇いなく自分を信じて行動できる人間も初めて見た・・・」


「いや・・・そりゃ買被りだって、俺はそんなたいしたもんじゃ・・・自分で見た物しか信じないだけだし、それにうちの国じゃ結構当たり前かもしれないし」


正面から褒められると静希からすれば嬉しいのだが微妙に気恥ずかしい


静希からすれば自分のことを褒められているのだろうが、人外のことが関わっているだけに素直に喜べないのだ


「その当たり前のことさえ僕は今まで知らなかった、君よりも長く生きているのにだ・・・だから僕はこれから自分の目でいろんなものを見るつもりだ、書物や映像じゃない、自分の目で見えるもの、自分の体で感じられるものを糧にしていこうと思う」


今まで研究者として効率の良い知識の蓄積をしてきたエドモンドにとって今回の事件はマイナスでもありプラスに働いているようでもあった


実際に目で見て、感じて、心で判断する


研究者などに見られがちな理論のみでの解決法から外れた感情的な物事の整理の仕方


エドモンドはこれから多くを学んでいくだろう、世界を見て人を見て多くを感じ学んでいくだろう、静希が今もそうしているように


「シズキ・・・僕は君に救われた、社会的な意味だけじゃない、名誉も命も守ってくれたんだ、本当に感謝している」


「気にするなよ、こっちもそれが任務だったんだ」


静希の言葉にエドモンドは首を振る、静希が行ったのが任務の延長線上だったとしても解決の為に不確定要素の多い事件にさらに首を突っ込んだ、そして危険を承知で信用を勝ち取るために対話してくれた


それだけで一体どれほど救われたことだろう


全てが敵となった中で、自分の言葉を聞いてくれた初めての人間


どれほど有り難かったことだろう


「この恩は忘れない、君がこれから困難にぶつかった時は僕を頼ってくれ、君の助けになれるのなら僕はどんなことでもしよう、一番に駆けつけて君の力になる、約束するよ」


「・・・わかったよ、その時が来ないことを祈る」


静希とエドモンドは握手を交わし互いの健闘を祈る


「じゃあなエド、大変だろうけど、元気で」


「君もなシズキ、君に幸運があることを祈っている」


固く握られた手をほどき静希は大野と小岩と共に飛行機へ乗り、イギリスから出国する


期間にして一週間程度、濃密な時間を過ごした静希の異国での事件はこれで収束を迎えることとなる


静希達を乗せた飛行機は高々と舞い上がり、それが見えなくなるまでエドモンドはその姿を目に収め続けていた


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