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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

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仮面の下

「あぁそうだ教授・・・まだ言っていないことがあったのを忘れていた」


その言葉に教授は一旦能力の発動を止め仮面の男の方を向くと彼は少しずつ二人の方に近づいていく


軽くエドモンドに触れ僅かに笑い声を洩らすとロープが切断されエドモンドの身体が自由になる


教授がなにをするのかと叫ぶ数瞬前に扉が勢いよく開き銃を持った隊員達が大勢押しかけてくる


最初教授は仮面の男を捕らえに来たのだと思ったがその銃口はすべて自分に向けられている


「な・・・なんだ・・・?どういうことだ!?」


「そこまでだノーマン教授、あなたを今回の事件の容疑者として拘束する」


一人だけ状況の読めていない教授を差し置いて仮面の男はエドモンドの拘束を解きその体を自由にさせると同時に二、三声をかけているようでもあった


その様子に教授は混乱しながら声を荒くする


「と・・・捕らえるのならそいつだ!私ではない!今回の事件の裏で手を引いていた主犯だ!私は罠にはめられたのだ!」


教授の言葉にこの場にいる全員は何の反応もしない


その体に向けられた銃口はピクリとも動かず真直ぐに教授へ狙いを定めている


そして隊員にもエドモンドにも何の動揺も見られなかった


「無駄だよ教授、先ほどの会話は全て録音させてもらった・・・何より犯人が使ったであろうロープが隠されていた場所を貴方がなぜ知っていた?すでに逃げ場はないんだよ」


先ほどまでは流暢な英語だったのにもかかわらず突然日本語へと切り替わる言語に動揺しながら仮面の男の言葉にノーマンは歯ぎしりしながら一歩後退する


何よりこの場でもっとも恐ろしいのはこの仮面の男だ


エドモンドは悪魔を失い、この場にいる軍部の人間もそれほどの脅威とはなりえない


なのにこの場にいる自分の味方だと思っていた人物の裏切りとも思えるこの対応に教授は動揺と驚愕を隠せない


「お前は・・・なにが目的なんだ・・・!私を罠にはめ・・・一体何を企んでいる!?」


教授の言葉はさして重要なものではない


特にこの局面においてその傾向は顕著だ


何せこの場にいる全員が教授の敵で、恐らくは最後のあがきのようなものであるからだ


「なに、たいしたことはない、ここに来た理由は最初から同じなんだ、少しだけ事情は変わったけどな」


「・・・なにを言って・・・」


仮面の男が教授の近くまで移動し軽く笑って見せる


「聞きたい言葉も聞けた、確信もあったし、直に聞けて満足だが・・・なるほど・・・どうやらだいぶ情報を持っているようだな」


仮面の男は着ていたコートや手袋などを脱いで髪を露出させ最後に仮面をとる


「収穫はでかそうだ、いい土産ができた」


仮面の下は今回の作戦で協力者として派遣された五十嵐静希その人だった


その事実に教授は驚き、そして眼前の事実を受け止められないのか自分の眼さえも疑い始めていた


「どういうことだ?!君は・・・だって・・・負傷して病院に・・・」


そういいかけて自分に報告してきたすべての軍の人間の言葉が虚偽のものであったと確信する


その場にいる全員が静希の策に乗り、そして共同で教授を追い詰めたのだと確信するとどうすることもできないと察したのか教授は力なくその場に崩れ落ちる


静希が行ったのは簡単なことだった


まず部隊の隊長であるテッドと今回の事件の中心であるエドモンドに協力を要請


時間ぴったりにエドモンドとの擬似戦闘を行いエドモンドを捕縛する、その際に静希がヴァラファールをトランプの中に収納しその場から悪魔の存在を隠す


そしてあらかじめ用意しておいたものを使う


一つは仮面、この仮面は以前静希が関わったエルフの村での重要参考人の着用していた仮面の柄をそのまま流用した、以前城島が持っていたメモに書かれた絵柄を記憶しておいてよかったと今更ながらに安堵する


そしてもう一つは自分の身体の特徴を隠す為のコートとボイスチェンジャーと通信機


城島達もそれほど詳しい身体的特徴を見ることができなかったというのもあるが、身長が百七十前後と聞いていたため僅かに膝を曲げて身長をごまかし、肌や髪の色を見せないように工夫し謎の仮面の人物を装う


さらに以前発見した凶器のロープを元の場所に設置しておく


こうすることで犯行に及びやすく、さらに教授を油断させることができる


全てがいいように作用し、上手く事が運んだと言っていいだろう


そしてエドモンドと会合している間に現れてできる限り情報を引き出す


あらかじめ話すべき内容を記しておいて隊員に通信機を通してでもいいから流暢な英語で話してもらう、その音声をボイスチェンジャーで変声させる


いい具合にノイズが混じることで元の声を判別しにくくさせることができた


結果的にその目論見は大成功した


静希自身が流暢な英語を話すことができればもっと楽にこなせたのだが、オルビアの翻訳ではどうしても違和感を与えてしまいかねない


今後の課題となりそうだった


一番言わせなくてはならなかった『自分が十七人を殺した』という言葉も『何者かが後ろで手を引いていた』ことも口に出させた


前後の会話をすべて録音しているためこれが自分で行った自白であることは明確である


これが決定的な証拠になるのは明らかだ


「さて、じゃあ部隊の皆さん、後はよろしくお願いします、俺の出番はここまででしょう?」


この作戦においての一番のネックは静希の会話予想にあった


相手に自分の取引相手だという事を信じ込ませるような台詞を事前に考えなければならなかったためにその重要度はかなり大きい


自分が失敗すればそれこそ全てが台無しになってしまうかも知れなかったのだから


あらかじめ何通りも会話内容を予想しておいてよかったと静希は内心安堵する


仮面とコートを回収し、静希はエドモンドを連れてさっさと部屋を出ていく


そのすぐ後に狂ったような絶叫とそれを取り押さえる隊員の怒号が響き渡った


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