仮面の男
「あれだけ・・・殺しておいてなぜそんなに笑っていられる!?何故そう平然としていられる!?」
「まったく状況を読めていない男だ・・・今彼らを殺したのは君ということになっているんだよ?私ではなく・・・ね」
エドモンドの前に立ち向けられる敵意を含んだ視線を心地よさそうに受けながら教授は大きく深呼吸する
この場に漂う悪臭を吸いこみながら満足そうにエドモンドの頭を掴む
「幸か不幸か・・・ここは防音機能は万全・・・君がなにを言おうと何の証拠にもならない・・・それに悪魔と契約していた者の言葉など誰が信用するものか・・・それに私が犯人だという証拠など一つも見つかっていないようじゃないか」
「・・・っ!」
悔しそうに歯を強く食いしばり鬼のような形相を浮かべながら教授を睨んでいるエドモンドに対し、その視線の先の教授は満足そうにしている
完全なる静寂に包まれていた部屋が教授の笑い声で満ちる中、その声に混じって拍手の音が聞こえる
教授は誰かがいると気付き周囲を見渡すと機材に隠れ死角となっていた箇所からある人物が出てくる
真夏だというのに黒い長そでのコートを着用、白い手袋を両手にはめ、髪を完全に隠し、顔には模様の入った仮面を付けた人物
教授はその人物に心当たりがあった
「さすがは教授だ・・・ぬかりないということだろうか?」
その声はボイスチェンジャーにでもかけているのだろうか、到底肉声とは思えない奇妙な声をしていた
「何故君がここにいる?すでにここには用はないのではなかったのか?」
「なに・・・教授がしっかりと成功を収めているかを確認したかったのと、妙な奴がここに派遣されたというのを聞いてな、少し寄り道しただけのことだ」
壁に背を預け仮面の向こうからのぞく瞳が教授を捉えている
そして教授は眉をひそめ自分達が入ってきた扉が開けられた形跡や音がなかったのを確認したうえで仮面の男へ目を向ける
流暢な英語で話し合う二人は奇妙な空気を醸し出している
「どうやってここまで?かなりの数の軍がいたはずだが?」
「あの程度ではいないのと同じだ・・・それより随分と無様な状況になっているようだな・・・あれだけのものを与えてやったというのに」
その言葉に教授は僅かに不快感を覚え表情を曇らせる
エドモンドはこの状況についていけないようで二人を交互に見て目を白黒させていた
「・・・無様だと?君のその姿で言えるものか?顔も見せられないくせに・・・声は以前とは少し変えているようだが」
「・・・当然だろう?元の声を特定される可能性は少しでも下げておくのが定石だ・・・」
仮面の男と教授の視線が数秒ぶつかり合い、沈黙が部屋を支配する中仮面の男がやれやれといった具合にため息をつく
「まったく、これだから頭の固くなった老害の相手はしたくないものだ・・・」
「老害だと・・・私に向かって・・・」
「その通りだろう?悪魔を逃がし、自らの目的さえ果たせなくなってしまったのだから」
その言葉に反論できなかったのか教授は歯を食いしばって憎々しそうに仮面の男を睨む
「教授・・・この男は一体誰なんですか・・・?貴方は一体何を・・・?」
それ以上の沈黙に耐えられなくなったのかエドモンドが口を開くと教授はつまらなそうに視線を移し、再度仮面の男へ目を向ける
「彼はリチャード・ロウ・・・この実験の立役者さ」
「・・・は・・・?」
仮面の男は何も言わずに腕を組んだ状態で静止している
自分からはなにも言うことなどないというかのように
「悪魔召喚について・・・私に多くの資料を提供してくれた・・・協力者だ」
「共犯者と言った方が正しいのではないか?それだけの死体を貴方は積み上げたのだから」
「はっはっは、たった十七人程度殺したくらいでなにを大層な事を・・・これからもっと多くの変化がある・・・もっと多くの人が死ぬ・・・人類が進化するためだ、犠牲は必要なのだよ!」
まるで演説するかのように両腕を振り上げ天井に向け叫ぶ
ここが防音でなければ外にまで響くことだろう、高笑いしながら自らの持論を並べる教授に向けてエドモンドが吠える
「この国の警察を舐めるな!いつか貴方へ捜査の手が届く!いつか貴方は逮捕されるんだ!いつまでも笑っていられると思うな!?」
その言葉に教授は笑みを崩さない
そして掌を壁につけて僅かに目を閉じ深呼吸する
すると天井が僅かに変化しそこから大量のロープが落ちてくる
「舐めるな?舐めるなと言ったか?こんな証拠も見つけられない無能共を!?ふざけろ!見当違いの人間を追いたて、しかも子供の力を借りるような連中をどう恐れろというのか!?」
教授は笑う、それこそ自分に敵はいないと公言するかのように高らかに、天に向かって狂ったように笑う
「笑うのはいいが・・・ひょっとしてこの男、現場を見ていたのか?まさか生かしておくわけでもあるまい?」
「当然だ・・・エドモンド・・・君は私の邪魔をした人間だ、私が手ずから殺さなくてはな、あの十七人と同じ殺し方をしてやろう・・・感謝することだ」
ロープを壁から天井へと融合させエドモンドの首にロープをくくりつけていく、そしてその様子を見てエドモンドは歯を食いしばり教授を睨む
「本当に・・・貴方が殺したのか・・・あの十七人を・・・バンを殺したのか!」
「バン?あぁそういえば君は彼と友人だったな?その通り、総勢十七人・・・全員私が殺した・・・何の事もない、簡単だったよ、なんせこうするだけなのだからな」
ロープが徐々に換気扇内に回収されていきロープがエドモンドの首を絞め、身体を持ち上げていく
苦しそうにもがくエドモンドの瞳には怒りと憎しみだけではない何かが宿っていた




