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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

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朝の決意といつもの人外

「そう、私は何十人と契約して、何百万人の人間の死を見てきた、それは邪薙も同じようなもの・・・今シズキと一緒にいるのは・・・そうね・・・貴方達で言う、面白い映画を見つけたような気分なの」


映画


メフィは静希をそう例えた


長くこの世界に漂ってきたメフィにとって一人の人間の一生はとても短く感じるだろう


その短い時間の中でも、静希がメフィに与えた驚きと喜び、そして今まで感じた事のない何か


その映画の起承転結、いまそれはどこにあるのかは分からないが、だからこそ次に何が起こるか分からない、いつ終わるかも、どう終わるかもわからない、だから楽しい


メフィにとって人間の一生はそれ自体が一つの生きた物語であるに等しい


故にもっと面白く、もっと波乱万丈に、もっと奇々怪々になってほしいと望んでいるのだ


それが静希の望みとは違くとも、自らが望むゆえに悪魔はほほ笑み続ける


「君にとって彼は一体どういう存在なんだ?ただの玩具か?」


「貴方失礼ね、シズキは私のものよ、そして私はシズキのもの、対等契約なんだから当然でしょ、シズキが私のものである限り私はシズキのものなの、玩具なんてレベルじゃないわ」


対等契約、それは悪魔によって恐らくは意味が変わるだろうがメフィストフェレスにとっての対等とは自らの存在を互いに献上しあえるだけのものらしい


少なくともメフィは静希に対してただの人間という枠組みを越えた認識と対応をしているらしいと大野と小岩は理解できた


「玩具っていうなら・・・そうね、オルビアはシズキの玩具よ?いつも好きなようにこき使ってるんだから」


「え・・・?」


メフィの言葉に大野小岩は僅かに不信感のこもった視線を向ける


確かに静希はオルビアを良く使ってはいるがそれは武器としての意味合いも含まれる


明らかにニュアンスの違ういい方に静希はマッサージを受けながら反論する


「おいメフィ、人聞きの悪い事を言うな、俺は強制した覚えはないぞ」


「その通りです、私は自らの意志でマスターにお仕えしているのです、私はマスターの騎士であり剣であり所有物なのですから」


「・・・そのいい方はまた誤解を生むぞ」


オルビアのフォローとも思えない発言に静希はもはやなにも言う気力も起こらずオルビアになすがままにされている


メフィはその様子にどうやら自分が論破したと思っているのだろうか、口喧嘩に勝ったような得意げな表情を浮かべながら静希の頭上をくるくると回って見せる


「それじゃあ・・・邪薙さんはどうなの?」


「・・・それはシズキとの関係性についての質問か?」


話の矛先を向けられ先ほどから座禅しながら静聴していた邪薙は目を開いてふんと鼻を鳴らす


その時に耳が僅かに動いたのがなんとも犬らしい


「シズキは・・・そうだな、窮地を救ってくれた恩人であり、また手のかかる子供のようなものだ、常に気を張っていなくてはどのような事になるか見当もつかん」


ただの好奇心で静希につき従うメフィと違い邪薙は守り神として彼の傍にいる


その名の通り何かを守るための神であるが故にこういった事件に巻き込まれた際は邪薙は特に緊張を強いられる


何せ静希の巻き込まれる事件は良くも悪くも危険が多い、一瞬でも気を抜けばその体が肉片になることもあり得る、守り神としてはそんなことはさせてはならない


「だが、村一つ守っていたころに比べれば些か楽ではある、何より祀られていたころよりより多くの物事を知ることができた、そう言う意味では感謝の言葉は尽きんな」


邪薙の言葉は気恥ずかしさよりも純粋に感謝と、それと同じ位の苦労がにじみ出るような不思議な重さを感じることができた


悪魔と違いさすがは神格と言ったところだろうか、言葉一つをとっても意味合いや深みが違う


「なんかこうして聞いてみると随分と違いが出るね・・・なんだか意外だよ」


「魂とかそういうのを食べるために一緒にいるんだと思ってたんだけどね」


大野と小岩両名の人外というカテゴリーの存在のイメージは本当に書物に書かれているような三つの願いを叶えたり、願いをかなえる代わりに魂を持っていったりする類のものでしかない


それに比べれば静希にとり憑くこの両名は良心的だ


なにせ対価として持っていくのは静希の純情かケーキなどの甘露なのだから


「そう言うのも昔は流行ったんだけどね、何て言うか飽きるのよ、単調だし」


なんだか恐ろしい単語を聞いたような気がする


人の魂という存在があるかは知らないが、恐らくは大切なものだろう


そんなものを流行り廃りで取りあったりしていたのか


魂狩りが流行っているような時代でなくてよかったと静希は心の底から安堵する


ただでさえ多くの人外を許容しているのだ、身体どころか死後魂を何分割されても何の文句も言えないような状態になるのは静希の望むところではない


少なくとも今結んでいる契約でメフィは対等であると言っている


自分の魂も、そしておそらくメフィの魂も同じように対価としてみられているのだろう


もし魂よこせなどと言い出したら危険信号であることは確かだ、そんなことを言いださないことを願うことにしながら静希は瞼を閉じていく


疲労をほぐすマッサージの心地よさを味わいながら、ベッドに深く深く沈んでいくような錯覚と共に静希は眠りについた


翌日、静希は早朝から目を覚まし軽くストレッチをしていた


起床時刻は六時半、朝起きて一番に始めた理由として先日の疲労が残っているかどうかの確認と不調がないかの検査でもある


大きく腕を伸ばしながら身体を反らした後腰を軽く回し、屈伸を終えた後アキレス腱を伸ばして足首を回し全身の筋肉が正しく機能しているかを確認する


オルビアのマッサージのおかげか筋肉痛もなく疲労から来る倦怠感もない


ベストかと聞かれると首をかしげるが、それでも十分良好なコンディションだと言えるだろう


「どうやら疲れはないようだね」


「えぇ、こっちはまぁまぁの調子です、そちらはどうですか?」


早朝だというのに静希と同じように身体のチェックを怠らない二人はゆっくりと確かめるように身体を動かしている、静希のしているストレッチとはまた別な何かのようだった


ゆっくりと体をほぐした後、静希がシャワーを浴びて完全に目を覚ました後今度は各自の装備確認を始める


静希はたいした量は無いのだが大野と小岩は万が一の為に銃器を所持しているためにそれらのチェックに余念がない


一から分解して整備するところはさすが軍人と言った手付きだ、静希も何度か自動小銃などの分解と組み立てをやらされたが慣れるまで相当時間がかかった


恐らく彼らは静希以上の長い時間を訓練に当ててきたのだろう


「俺も銃器持てればいいんですけどね・・・」


「ははは、こんなものは学生の間は持たない方がいいよ、それこそどっちつかずになる」


「確かにね、学生の時にこれ持ってたら能力いらないんじゃないかってくらいになるもの」


実際銃を持って行動する二人は学生時代を思い出しながら銃の整備を続けていく


部屋に僅かに鉄と油の匂いが漂ってくるので静希はすぐさま窓を開けて換気する


夏とはいえイギリスは日本より北に位置するため日本に比べ随分涼しい、そして独特の湿気もないためにとても過ごしやすい気候だ、それが早朝ならなおさらである


確かに銃火器と能力、どちらが強いかと言われれば大多数の無能力者は能力であると答えるだろうが、能力者は十中八九銃の方が強いと答えるだろう


確かに能力によっては銃より強い能力はこの世界にはいくつかある、陽太や鏡花の能力がそれに当てはまる


陽太は能力を発動すれば銃器などほぼ無効化できるし鏡花は壁を作ったり地面その物を変換して銃ごと巻き込んだ攻撃ができる


銃にかなうだけの攻撃力を所有する能力というのは多いようで少ない、そして何よりその簡易性に問題がある


威力の高いものはその分扱いが難しく訓練に多くの時間を要し、その危険度も増す


だが銃はあくまで道具、ある程度の使い方さえ学べば安全に訓練も可能だしその気になればその日にでも使いこなすことができるようになるだろう


強い能力を使えるまでに浪費する時間と労力、それに対し一定の威力があり容易に使える道具


どちらの方が勝っているかと言われれば意見が割れる


それ故に専門学校の学生は武器の所有は入手可能なものに限り許されているが基本は能力の育成に時間の全てを割き、卒業後軍に入隊した時に銃器などの取り扱いを正式に学ぶ


もっとも静希は少々特殊な事例であるために武装した無能力者とも対抗できるように銃器などの取り扱いを学んでいるが、銃器が支給されたわけでもない


こうして海外に来た時が一番の銃入手の機会なのだが、こうして監視が付けられていると思うように行動できない


できるのならこの海外にいるうちにどこかの銃取扱店にでもいって手頃な拳銃を入手しておきたいのだが


そう思いながら銃の整備をしている姿をうらやましそうに見ていると軽く空腹を告げる音が響く


時刻は七時過ぎ、そろそろ行動開始できる時間帯である


二人は銃の整備を終え軽く手を洗った後にすぐに動けるように着替え、装備を整える


「結局今日はどうするんだい?」


「打ち合わせでは十時に作戦開始です、それまでにできることやっとかないと、まずは隊長のところに行くようですかね」


先日の説得が成功したことも含め行動開始の旨を伝えなくてはならない、これはできる限り急いで伝えないとすれ違いになってしまう可能性もあるから注意しなくては


そして私用ではあるが少々やっておかなくてはならないこともある


絶対に必要という行動ではないにせよこれをしておくことで多少の違いはあるかもしれない


そのためにも準備が必要だ


少なくとも用意しなくてはならないものが二つ、できるなら三つほど用意しておきたい


どのような形にするかは自分の独断になってしまう上に、多少のアドリブも必要になるだろう


後は野となれ山となれ、自分にできることは残り少ないが最後までできることをやるだけ


これがどのような形になろうとも多少なりとも良い方向に転がればいいなと思う反面、どんな形でもよいから早く終わってほしいという二つの想いが静希の中にはあった


静希も装備を整えていつでも出かけることができるようにしておく


『今日で最後にしたいわね、そろそろ日本のご飯が恋しいわ』


『まったくだ、こちらの甘露は品のない甘さでいかん、日本のものを早く味わいたいものだ』


『貴方達・・・もう少し緊張感を持ちなさい』


『あぁ・・・いつも通りで安心したよ・・・』


自分が気負っても仕方がないんだなということを再確認して静希は大きく深呼吸する


恐らく今日で決着するこの事件、だからこそ全力を尽くすしかないと思い、半ば開き直って静希は部屋を出る


誤字報告が五件たまったんで複数まとめて投稿



結構まとめて投稿してるのにまだ先がある


もう少しコンパクトにするべきだったかな・・・



これからもお楽しみいただければ幸いです

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― 新着の感想 ―
[一言] 形容詞として「違く」を使ってるみたいですが、本来の「違う」は動詞なので不自然です。 なんかバカっぽいので使用は控えた方が良いかと。
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