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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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対応と怒り

全員の表情が凍るなか静希は頭を抱えていた


資料には十歳の女の子とあった、細かいことは載っていないが、なぜこんなところに来たのかが不明、エルフの里からどれほど離れているのだろうか、それを越えてきたというのか?


「村長さん、ここに書かれている地名ってどこだか分ります?」


資料の一部を見せてエルフの里があるのであろう少女の住所を聞くと、夫婦は少し考えていたが「おお」と思い出したように手を叩く


「その場所なら、ここから西、山を二つか三つほど越えた先にあるよ、といっても道もないしあのあたりはがけ崩れも多い、めったに人は近付かないが」


やられた


全員が歯ぎしりをする中、村長夫妻だけは状況を理解できていないようだった


「状況を整理しよう、相手はエルフ、これは間違いないだろう、年齢は十歳の女の子、能力不明、だけど十中八九発現系統、なんでかわからないけど自我を失ってる」


「しかもあの様子だとかなり長い間山を彷徨っていたんでしょうね、先生、あの子が行方不明になった原因とか詳しい日時とかわかりませんか?」


「ちょっと待ってろ、資料を探してくる、それまで状況整理と食事を楽しめ」


城島は明らかに不機嫌になった声でその場から退去する


残された全員は先ほど残してしまった食事に手をつけ始めた


中でも負傷した雪奈と能力を使った陽太はがっついていた


「さすがに予想外だな、絶対奇形種だと思ってたのに」


「まさか人が相手、しかもエルフだなんて」


「さすがに度肝を抜かれた、エルフのあんな姿を見るとは」


「ったく、次あったら絶対ぶっ倒してやる」


「同意だ、まったくとんだ恥かいた」


「け、怪我だけは気をつけないと・・・ね」


順番に静希、鏡花、熊田、陽太、雪奈、明利である


食事を取りながらまさかの事態にすでに全員の頭が回り始めていた時、資料を探しに行っていた城島がいくつかの紙を持って戻ってくる


「これが資料だ、全員目を通しておけ」


「先生、このことエルフ捜索班に教えなくていいんですか?これはもう私達の任務って言えないんじゃ」


この捜索対象が自分たちが対峙している目標で正しいのはほぼ間違いない


ならばこれは自分達の任務ではなく、向こうの捜索の任務になることになる


鏡花の言い分は正しいが、城島は首を振る


「あいつらは今、上の命令で外界からの連絡手段を完全にシャットアウトしてる、連絡しようにもその手段がない」


「なんすかそれ!訳わかんないっすよ!」


「仕方がないだろう、本来身内で片付けるものをうちにわざわざ回してきた、身内の恥をさらさないようにやたらと神経質になってる、上もエルフもな」


自分達の里から人がいなくなり、それの捜索を他人に頼む、それを恥だというのならそれもいいが、さすがにこれは異常ともいえる


「行方不明になったのはエルフの少女で双子の姉の方、名前は東雲風香、エルフの里に住む十歳の女の子、喜吉学園小等部に通っているが姉妹そろって二週間前から公欠を取っている」


「公欠の内容は?」


「家庭の事情・・・だそうだ」


事情を一切話さないという状況に静希は若干の憤りを感じたが、それ以上に目を疑う事実が資料には書いてあった


「これ、行方不明になって今日で十日経ってるじゃないですか!?どういうことですか!?」


「それ見りゃわかるだろ?あいつらエルフは私達と同じ立場じゃないんだ、私達の普通はあいつらの普通じゃない」


十日、実際に動き出し、学園側に捜索の依頼を出したのは恐らく行方が分からなくなってから数日経ってからだろう


本来あり得ない、この村の対応よりも遅い、危機の感じる度合いがまるで違う


「向こうには追跡や捜索の専門がいるとはいえ、早くても明日の夜、遅けりゃ明後日だ、それまで目標を放置している義理はない」


箸を持って最後に残った天ぷらにかじりつく


「お前達は予定通り、目標を打倒しろ、ただし殺さず捕獲を条件とする」


「ちょっ!先生本気ですか?」


状況判断を終えても城島のその言葉に全員が一瞬だけ狼狽した


だが勢いよく咀嚼を繰り返すその姿は明確な怒りを発散させていることに全員がすぐに気がついた


「本気も本気だ、あいつらの言い分はこうだぞ、自分達の恥をさらしたくないから他の奴らには黙っておけ、なに数日くらいじゃエルフはくたばらないから大丈夫、ゆっくり探せばいい、その結果がこれだ!」


杯に入れられた酒を飲み干しテーブルに叩きつける


「よそ様に迷惑かけておいて、実害を出しておいて自分らの恥がどうのこうのだと!?ふざけるのも大概にしろ!」


静希たちが感じている怒りとは別種の、だが確実に城島はエルフに対して怒りを燃やしていた


「お前達は明日、山に登って目標を捕縛、それで私達の任務は完了だ、任期中はこの村に滞在する、それと熊田、明日は本気を出せ、深山も帯刀と抜刀を許可する」


その言葉に全員が二年二人を見る


「先生、ここでそれを言うのは酷いのでは・・・」


「まあ、私は静達には気付かれてたと思うけどね」


呑気に食事を楽しむ雪奈と対照的に熊田は申し訳なさそうに苦笑する


「すまない、今回はサポート役に徹するようにと先生に指示されていてな、能力を抑えて同行していた」


「同じく、本命武器を装備しないで山に登った」


「雪姉がなんで山行ったときに刀持ってないのか不思議だったけど、そういうことだったのか・・・」


先ほどの散策時の謎がやっと解け、納得しているのに対し、鏡花の眼は鋭い


「じゃあなんですか、真剣な任務に手を抜いていたと」


「い、いやそういうわけじゃない、君たちが主役なのに俺達が出張っちゃしょうがないだろう?」


「深山と熊田に指示したのは私だ、そう噛みつくな」


ふてくされてはいるが納得はしたようで鏡花はおとなしく食事を続けた


「お前達は運悪く、奇形種だと思っていた獣が実は行方不明となったエルフの少女だという事実に明日出くわす、だが放っておくわけにもいかず、攻撃されたから正当防衛として反撃し捕縛する、いいな?お前達に非はない、思うようにやれ」


その眼は明らかに敵意を向ける目だ、その眼の先に誰がいるのか分からないが、城島がエルフの対応に腹を立てているのは十二分に理解できた


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