表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

329/1032

既視の笑み

「そう・・・だな・・・彼を捕らえたら・・・私に会わせてほしい」


「・・・それは何故?危険ですよ?」


静希の込めた意味は二つ


被害者である教授へのちょっとした気遣い


「彼が何故あのような事をしたのか聞かなければならない、私自身が聞かないと納得できないんだ」


もう一つの意味、教授が『犯人』であったなら、この静希との会話が最後のチャンスになるかもしれない


ここで何の反応もなければ犯人である可能性は極端に低くなったのだろうが、これで静希の中での確信は深まった


被害者がわざわざ犯人に接触するなんてことは別に逮捕、拘留した後でも問題ないはず


接触を急いでいる焦りが明らかに見てとれる反応だ


「わかりました、テッド隊長にそのように伝えておきましょう、それでは」


病室を離れると同時に静希は大きく息を吐いてその場を離れようとする


「今の問答、何か意味があったのかい?」


「えぇ、かなり収穫ありましたよ、あとはこっちの準備さえ整えば・・・」


静希が思案する中で何度か私服の隊員とすれ違うがその表情は随分と緊張を強いられている様子だった


「ニコラス、この辺りを警備しているのは何人くらいだ?」


「えぇと、交代制でもその場に二個小隊はいるようにしてる、だいたい十二人はいる計算だね」


「その中に探知系は?」


「各小隊に一人ずつ、詳細な能力は明かせないが優秀な能力者だよ」


正直能力などはどうでもいい、今彼らにやってほしい事は教授のそばで目を光らせておくことだ


二個小隊もいれば百%ではないにせよ彼を守ることもできるだろう、場合によってはここから逃げる事も算段に入っていると思っていい


「その二個小隊に徹底させてほしい、教授を必ず守ること、そして教授をここから絶対に出してはいけない」


「それは構わないが、何故?」


「エドモンドは今潜伏しながら教授がどこにいるかを探してる、外部に彼がいるところをもし見られてここにいることがばれる訳にはいかない、教授が何と言おうと出してはいけない、彼は被害者で重要な目撃者だ、彼がいるかいないかで状況はひっくり返る」


それはエドモンドが捕まった際の裁判での証言などの話でもあった


現状でエドモンドを犯人たらしめているのは状況証拠と教授の証言のみ


これが失われればエドモンドを告発することすら難しくなる


静希の言葉は理にかなっている、そしてそれが自分たちの行動に対しても重要であると知っているニコラスは真剣に静希の言葉を聞いていた


「君はこの事件の当事者でもないのに、随分と先のことまで考えに入れているようだね」


「与えられた任務は完璧にこなす、日本人の悪い癖だな」


たまったもんじゃないよと付け足しながら笑うとニコラスはその場をしきっていると思われる小隊長に話しかけ先ほどの静希の案件を伝える


どうやら彼自身も納得してくれたようで表情を引き締めて敬礼していた


「教授を出さないことに意味があるのかい?」


翻訳を切った状態で大野が小声で話しかけてくる


静希の提案がどうやら不思議なようだった


それも無理は無い、静希達は今エドモンドを主犯という考えから教授が主犯であるという思考に至っている


その中で教授の警護をより強化することに意味はあるのだろうか


「意味は二つあります、一つは単純にエドモンドから・・・いえヴァラファールから守ること・・・あの二人が今回の被害者なら教授に恨みを持っていても不思議じゃない、攻撃して死なれて真相は闇の中なんてのはごめんです」


教授の部屋で見つけたあの召喚陣の記された書類


あれをどこから入手したのかを聞くまで教授に死なれては困る、それ故に教授には生きてもらわなくてはならない


万が一街でエドモンドと遭遇して攻撃されたら守ることなどできはしない、そう言う意味でこの場にいてもらわなくては困るのだ


「もう一つは?教授を出させないことっていってたわね」


「もう一つは情報を改竄させないこと、さっきの会話ではっきりしましたけど教授はほぼ黒と思っていいでしょう、これは推測ですけど実験室前の監視カメラの映像を破壊したのも教授なんじゃないかな」


静希は今までエドモンドがカメラを破壊したか、または召喚時の何らかの作用でカメラが故障したかと思っていたのだが、召喚時の故障にしては随分とタイミングがピンポイント過ぎる


明らかに人為的な工作の可能性が高く、その工作を行ったのがエドモンドだと思っていたがこうまで状況が変化すると視点も変わってくる


何よりエドモンドはヴァラファールに引きずられるように高速で移動していた、召喚後にカメラを細工する時間があったとは思えない


恐らくカメラは教授が事前に細工してその時間に映らないようにしたか、事件後に急いで自分の映っているであろう部分の映像を削除したか


恐らく後者だろう


「じゃあ・・・教授が他の証拠が出ないようにするかもってこと?」


「えぇ、今まで自分に捜査の目が向かなかったからこそあの部屋でのんびりしていられたけど、エドモンドの能力では人を殺せないことが分かり、悪魔の力でも絞殺できないことが判明したら、自分に捜査の目が向くこともあり得る、そうなる前に証拠を全部消す可能性もあります」


意図的に悪魔の能力を隠しているとはいえ、この後教授がどこかに行こうとするならそれは自らの失態を隠す為の隠蔽工作に他ならない


今まで集めた情報を見るにこれは事故などではなく作為的に起こされた事件だ


教授がどのようなプランを練っていたのかは分からないが、少なくともエドモンドの介入は予定外のことだったのだろう、だからこそ焦っている


「でもそれは教授が犯人だった場合でしょ?まだ確定ってわけじゃ・・・」


「そうですね、限りなく黒に近い灰色ってところです、逆にエドモンドは限りなく白に近い灰色・・・どっちも決定的な証拠がない」


一番の問題はそこだ、どんなに状況を詰めていっても今用意されている証拠は全て状況証拠


エドモンドの能力で映し出された映像だって彼の能力で捏造できないという保証は無い


主観的ではない確定的な証拠があれば事態は好転するのだが


今のところ現場や周囲の人物の情報と証拠は出尽くしているように思われる


これからどう動いたものかと静希は頭を悩ませていた


「いっそのこと、現行犯で何かやらかしてくれればまだ何とかなるんだけどなぁ・・・」


「あんたね・・・不謹慎よ、そういうことは言わないで」


大野の発言に小岩が注意していると静希はその言葉を反芻させてある結論にたどり着く


ある種最も手っ取り早く、なおかつ確実とも言える


スマートとは言えないし危険も多いが少なくとも現状のままでいるよりは何倍もいい


「大野さん、それいただき」


「へ?」


「え?」


二人が困惑する中静希は思考を広げていく


現状においてどのようにすればこの策を完璧に近づけることができるか


その為には静希達だけでは足りない


少なくともその場を立証してくれる第三者となる人間が必要だ


「ニコラス、移動したいんだけど」


「あぁ、少し待ってくれ、それじゃあ頼んだよ」


警備の人間への諸注意と指示を伝え終えてからニコラスは静希達の元へと駆け寄る


軍部というのもなかなか面倒で忙しいものなのだろう、静希は訓練しか味わっていないがそのスケジュールの濃さは僅かに理解できた


「それで、どこに行くんだい?」


「テッド隊長に至急伝えることができた、急いで向かってほしい」


「了解」


車に乗ってすぐ発車し、イギリスの街を駆けていく


この町のどこかにエドモンドはいるはずだ、彼にも協力を要請しなくてはならないだろう


やることがはっきりしたおかげで静希の頭はフル回転を始めていた


僅かに邪笑を浮かべる静希に横にいる二人は僅かに不安になりながらもその表情を横目で観察していた


大野はそれほど多く静希の事を知っている訳ではないが、小岩は城島から最低限の注意として静希の情報を得ていた


特に注意されたことは静希が笑いだしたら気をつけろとのことだった


城島から伝えられた静希の評価は能力の強さを除いて高いものが多い、それは彼が実戦派の人間であることを明確に告げている


城島もその評価に納得している、静希は実戦時の対応力と思考力が高い、そして何より周りの人間の能力を引き出すだけの力がある


それは能力の強弱に左右されない静希自身の天性のものだろう


だがその評価の中に城島は一つ注意を付けたした


何をするか分からない


これはいい意味でも悪い意味でも取ることができる


城島はただの収納系統であるはずの少年がここまで実戦に慣れ、そして戦うことができるとは思っていなかった


少なくとも彼女の近くにいた収納系統は皆一様に戦闘が苦手であった


だが静希は城島の今までの常識をはるかに超える戦績を上げてきた


いや彼が上げたというのは的確ではない、彼が所属するチームが上げてきたというべきだろう


滅私の心とでも言うべきか、静希は自分を一種の歯車のようにしている


ある程度勝算のある状況なら、その勝利という結果をもぎ取るために過程を選ばない


万が一の際は小岩が静希の盾になるようにも命じられていた


「ねえ、五十嵐君、今度は一体何をするつもりなの?」


危険な事をしようとしているのなら自分がその前に止めなくてはという使命感から小岩は小声で告げると静希は笑みを崩さずに思考を止める


「ちょっとした演目をするだけですよ、まだ役者がそろってないから用意しなくちゃいけませんけど」


役者


静希はそう表現したがそんな生易しいものではない


この事件の全てを左右するほどの内容の演目、それは喜劇だろうか、それとも悲劇だろうか


どちらかは分からないが小岩はこの笑みは危険なものだと判断した


その笑みが昔見たある人物のものに似ていたのだ


恐らく城島自身そのことを勘付いたのだろう、だからこそ小岩に忠告したのだ


「五十嵐君、それは危険な事?誰かが傷つくこと?」


「・・・危険と言えば危険ですね、でもその危険もできる限り減らすようにします、可能なら誰も死んでほしくは無いですね」


誤字報告が五件たまったので複数投稿


ここ最近この作品と並行して短編を上げようか少し迷っています


短編と言ってもワードで言えば80ページくらい、投稿数で言えば40話位かなと


まだ執筆してないネーム段階ですが、どうしたものかと



まぁそれはそれとして、これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ