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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

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小さな違和感

「ところで、これからどうするんだい?一度ホテルに戻るか?」


「いえ・・・もう一度現場を見に行きます」


休みなしで動き続けようとする静希に僅かに顔をしかめながら大野と小岩は心配そうな視線を向ける


午前中から静希はほとんど休憩をとっていない、唯一昼間ホテルでシャワーを浴びたくらいだ


いくら日々訓練をしている人間で、ある程度体力があるとはいえ訓練と実戦は違う


命の安全が保障されている訓練と命を落としかねない実戦では疲労度が違うのだ


しかも静希は大人と違いまだ高校一年、実戦経験も数えるほど


そんな少年が行動し続けるのは危険なのではないかと思うのだが二人とも静希を止めることができなかった


現場に到着して一番最初に行ったことは部屋の中にある物を徹底的に調べることだった


未だ悪臭の残る部屋で静希はマスクと手袋を付けて辺りを物色している


大野もその手伝いをしたが最初にここを訪れた時と同じ、各所にいくつも機材があり部屋の中心に召喚陣が淡く輝きを放っているくらいだ


強い悪臭のせいで小岩とニコラスは部屋の外で待機している、さすがにこの匂いは女性である小岩には辛いだろう


「でもなんでまたここに?気になることでもあったのかい?」


二人は機材が動くかを確認しながらその場になにもないことを確認していく


ここにある機材は全て正常に動作する、そして何か不審なものがないかもう一度確認しながら周囲を探っていた


「ここから犯人が逃げてカメラまたはデータに細工をした、ニコラス達から聞いた話だと事件発生・・・カメラが映らなかった時間と被害者の死亡時刻は一致してる、そしてその時間からほとんど間があかずに通報が来てる、だから凶器もここにあるんじゃないかと思ったんです」


十七人を殺した凶器、死体の首に残っていたロープのようなもので絞めつけた痕、それがこの部屋のどこかに隠されていると睨んでいたのだが、この部屋には相変わらず何もない


「でもこの部屋にあるならもう部隊の人間が見つけてしまっているんじゃないかな、さすがにずっと放置してるってのは・・・」


「確かに・・・まぁ望み薄でしたけど・・・」


静希自身そこまで期待していた訳ではない、そしてこの国の警察と軍がそこまで無能だとも思っていない


この場に無いということは隠したか、捨てたかのどちらかだと思うが、今警察と軍はエドモンドの捜索を最優先に行っている、見落としがあればとも思ったのだが、そう簡単にはいかないようだった


「それにしてもひどい匂いだね・・・換気扇が壊れてるってのは辛いな・・・」


「そうですね、ったく窓のない部屋でこんな・・・」


静希は不意に自分の真上にある換気扇の通気孔を見る


それは格子が付けられておりかなり新しい物のようだ、壁に取り付けられた操作盤もそう古くない


天井を、特に通気孔の近くを注視していると静希は僅かな違和感を覚える


それは本当に些細なものだ


この部屋の天井のタイルが僅かに歪んでいる


しっかりと見ていなければ気付けない程に僅かな歪みだが静希はしっかりとそれを確認することができた


そしてエドモンドに見せられた映像を思い出す


全ての死体が天井につるされていたあの映像


「大野さん、ちょっと足場になってくれませんか?」


「え?いいけど」


大野は軽くかがんで背を向けると、靴を脱いだ静希はその上に乗り換気扇の通気孔を調べる


格子状になっているせいで奥が見えない、横に繋がっているようなのだがなにがあるのかは把握できそうになかった


「止むを得ないか」


静希は懐からナイフを取り出して通気孔の格子を破壊していく


「ちょっと!何してるんだ!?」


大野の制止も聞かずに静希はプラスチックでできた格子を破壊していく


そしてその先にある空気循環用の装置をライトで照らし手鏡を取り出してその横を見てみる


「・・・ビンゴ」


静希の手鏡の先には団子状に変換されたロープの塊が詰まっていた


右にも左にもそんな塊があるのでは換気などできるはずもない


部屋の外で待機していたニコラスを呼んでこの換気扇を徹底的に調べてもらうことにする


凶器は見つかった、静希としては有り難いことだがまだ確認したことがある


「ニコラス、教授は今回の件をどのくらい把握してるんだ?」


「どのくらいって・・・例えば?」


さすがに抽象的すぎたかと思案した後静希は口を開く


「悪魔の能力についてとか、今の現状を知ってるのか?」


「いや、彼はずっと病室にこもっているからね、護衛はしているが彼がトイレやシャワー以外で外室することもないし、現場の隊員も彼とはほとんど話していないそうだ」


精神上今は誰かと話すより一人でいた方がいいと判断しているのだろうが、今はありがたい


「今から教授のところに行こうと思うんだ、一応今回の一番の関係者だからね」


建前上は見舞い、そしてある程度の情報の開示だが静希が行いたいのはそんなことではない


少なくとも同情や哀れみなど一切ない


今静希の中で犯人である可能性が一番高いのはエドモンドではなく教授なのだ


だからこそ少しでも情報を引き出してなおかつ追い詰めていかなくてはならない


どう切り出したものかと静希は車の中で思案を開始していた


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