確信と疑心
「だけど、教授はお前の能力を知らない様子だったぞ?」
「え!?本当かい!?」
教授は静希が来てから一度も病室から動いた形跡がないと聞いた、自分に捜査の疑いがかかりそうになっているというのにずっとその場から動かないというのはあまりにも妙だ
そして病室でエドモンドの能力を聞いた時も知らないと言っていた
発言全てを信じるわけではないが状況から察するに本当に知らないのだろう
「エド・・・そうなるとお前の策は全て無駄になっていたということだな」
「あ・・・あぁ・・・すまない」
どうやらエドモンドも何か作戦を立てていたようだが、結局徒労に終わりそうな様子だ
だが静希は今の事を聞いて一つ二つ良い事を思いつく
「よし、聞きたいことは終わりだ、このあと協力してもらうことがあるかもしれない、もし何か用がある時はここに書いてあるホテルの部屋にどうにかして手紙でも何でも届けろ、そのくらいできるだろ?」
「あ・・・あぁ・・・」
ホテルの名前と部屋の番号の書かれた紙を渡し、話を終え立ち上がりその場から去ろうとする静希をエドモンドは拍子抜けしながら見ている
ヴァラファールはともかく、エドモンドはこの後戦うことも覚悟していたのだろう
「待ってくれイガラシ!」
不意に呼び止められたことで静希はメフィと共に僅かにエドモンドの方を向く
静希の表情を見てエドモンドは複雑そうな表情をしていた
何と言ったらいいのか言葉が見つからない、伝えたいことがあるのに、聞きたいことがあるのに何故か口に出せない
エドモンド自身今の状況に酷く混乱しているらしい
自分を追っていると思ったら突然会話を持ちこんできた悪魔の契約者、この状況なら自分を捕らえられるだろうにそれをしない少年を前にエドモンドは言葉を探り当てて口から声を出す
「君は・・・何故僕が犯人でないと・・・そう思ったんだい?」
やっと出したその声は僅かに震えている
静希より十以上離れている男性の出す声とは思えない程それは弱弱しい
逃亡中の疲弊はエドモンドの精神を強く蝕んでいるようだった
「・・・さっき言ったと思うけどいろいろ情報を集めたうえで」
「もし僕が君だったら信じない!・・・何でそう信じられたんだ?自分の集めた情報が、間違っていたらと、考えなかったのか?!」
エドモンドの言いたいことが静希には上手く理解できない
だがこの男は静希が何故自分を信用してこんなにも無防備に自分と対話しているのか、そのことが知りたかった
悪魔の契約者だから?情報を得て安全だと確信していたから?
そんな次元の話ではない、静希はエドモンドに対して完全に無防備な姿を晒していた
最初会った時は剣を持って警戒心をむき出しにしていたあの少年が何をどのようにすればここまで自分に対してこうまで無防備でいられるのか
今まで人間に追われ続けたエドモンドは僅かに疑心暗鬼に陥っていたのかもしれない
これも何かの罠なのではないかと勘繰ってしまう
先ほど話している間も、いつ静希が牙をむいてもいいように構えていたつもりだった
だが最後まで静希は攻撃どころかエドモンドに敵意すら向けない
それが信じられなかった
「僕なら疑う・・・周りがみんな僕を犯人だと言っているんだ、疑わない方がおかしいじゃないか・・・どんな情報が手に入ったのか知らないけど、僕なら拘束してから話を聞く、そうじゃなくても何で僕が犯人じゃないなんて思ったんだ!?おかしいじゃないか!」
その言葉を聞いて静希はようやく理解した
このエドモンドという男がどれだけの窮地に立たされていたかを
周りの全てが敵になって、頼れるのはすぐそばにいる悪魔のみ
その悪魔もいつ自分から離れていくかもわからないような状況で精神をすり減らしながら逃亡を続けていた
この少年がなぜ自分が容疑をかけられているという事実を疑い始めたのか、エドモンドはそれがわからなかったのだ
静希は何といったものかと頭を掻き毟りながらため息をつく
「一番の理由は、さっきも言ったけどお前じゃ十七人もほぼ同時には殺せないと思ったから、お前の能力じゃ人は殺せない、お前と初めて会った時、能力を見てそう思った」
静希がエドモンドと最初に会った時、彼が使用した能力
突如現れた電車の映像に静希達はすぐさま回避行動をとった、それほどに鮮明な映像だった
精度は高いが、殺傷能力は皆無
「次の理由は、お前が逃亡中、戦闘中に人を殺してなかったからだ」
その言葉にエドモンドは眼を見開いた
「悪魔の力を使えば人なんか簡単に殺せる、俺もこいつと一緒にいるんだ、それくらいはわかる・・・でも十七人も殺した人間が逃亡中に人を殺さないってのは少しおかしいと思ったんだ」
それは静希が最初に抱いた疑問だった
悪魔と何度も戦闘をしていながら死者が出ていない
悪魔の力を良く知っている静希だからこそ抱いた疑問だろう、偶然にしてはあまりにも生存率が高いことから見えた僅かな矛盾
同じ悪魔の契約者同士にしかわからない奇妙な縁が導き出した偶然とでも言えばいいのか
エドモンドもヴァラファールも言葉を失くしているようだった




