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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

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あの時の数分

静希の言葉にエドモンドは思い出すように目を瞑る


「あの日、僕は友人から悪魔召喚の実験が行われることを知ってこっそり見に行くつもりだったんだ、今まで結構有名で噂にもなっていたからね」


「その友人というのは?」


「・・・死んだ研究者の一人・・・バン・スミスだよ」


バン・スミス、静希は記憶の中の死亡した研究員のなかにその名前があったのを思い出す


被害者と友人だったのかと頷きながら静希は再度耳を傾ける


だがその実験の開始時刻、いや開始日程は事件より三日も後の話のはず


事実とエドモンドの話は矛盾する


「実験の開始時刻はバンから聞いていてね・・・その時間に通路を通ってちょっとのぞき見しようと思ったんだ・・・そしたら・・・」


エドモンドは能力を発動し静希の目の前に映像を映し出す


そこにはいくつもの死体、いや天井からつるされた大量の人間と、召喚陣の中心にいる獅子の悪魔ヴァラファールと、そのすぐそばにいるノーマン教授の姿がある


「これは・・・」


「事件当日の映像だよ・・・僕の能力は自分が見た映像をそのまま空間に投写するんだ」


実際に見た物、なるほど以前静希が電車の映像を見せられたのも地下鉄に潜伏していたのであれば見る機会などいくらでもある


そして今静希の目の前に映し出されているのは事件当日彼が見た物なのだろう


ノイズの様な歪みが確認できる、恐らくそれは動揺によってその当時の状況を思い出し発現することを脳が拒否しているのだろうか


静希はとっさにカメラを取り出しこの状況を映像として保存し始める


空中に投影された映像が動き出すとノーマンが驚愕の表情を作りながら振り返る


それと同時に悪魔が跳躍しエドモンドの身体を尾で掴みそのまま高速で移動を開始した


監視カメラに映っていなかった数分間の映像


それを見たことで静希の思考内でパズルが次々と合わさっていく


「エドモンド、もう一度確認したいんだが、お前は事件当日が実験の予定日だと知らされたんだな?それも研究に参加していたお前の友人から」


「そうだよ、バンとは仲が良くてね・・・よく飲みに行ったり、バカなことをしたりもした・・・その時によく話していたんだ」


なのに・・・とエドモンドは悔しそうに唇を噛みながら拳を握りしめてうつむいてしまう


どうやら彼の中でバンはかなり大切な友人だったようだ


そして研究者は、少なくともエドモンドの友人のバンと言う人物は事件当日が実験日だと思っていたらしい


エドモンドの言葉がすべて真実だと信じるつもりはないが参考にはなる


状況を埋めるピースが次々と出てくる中静希は思考を進めていた


「ねえヴァラファール、貴方はなんでこの子と一緒に行動してたの?」


メフィの突然の質問に先ほどまで静観を決め込んでいた獅子はため息をつきながら身体を起こす


「先も見ただろうが、彼奴はあれほどの死体を作り上げた・・・しかもあんな形で・・・個人的に少し痛めつけたくてな・・・こいつはその意見に同調した・・・僅かながらに共通点もある」


「なんだ、要するに気に入っちゃったってことね?」


メフィのぞんざいな要約にヴァラファールは図星を突かれたのか不機嫌そうにそっぽを向いてしまう


見た目は強面なのにずいぶんとわかりやすい反応をする奴だなと静希が思っているとエドモンドが顔を上げて僅かに浮かべていた涙をぬぐう


「ヴァルは昔友人を絞首刑で殺されているそうなんだ・・・たぶん教授はそのトラウマを利用してヴァルに細工をしようとしたんだろうけど・・・」


「そこをお前がやってきて台無しにして、全部の罪をお前になすりつけた・・・か」


静希の言葉にエドモンドはゆっくりと頷く


エドモンドを追っている証拠は現状ではノーマンの証言と状況証拠のみ


教授が事件発生から通報するまで、隠蔽の時間は少しくらいはあっただろう


そう考えると監視カメラの映像なども教授によって破壊されたとみていいかもしれない


「それにシズキのトランプも無意味だったしね?」


「・・・ヴァラファール、お前心臓に細工とかされてるのか?」


「いや、されていない、エドと一緒にいるのは俺の意志だ」


ヴァラファールの言葉を受けて静希はメフィを見るが彼女はどうやらこの言葉が真実であると感じたのだろう、僅かに微笑み目を閉じて首を横に振った


実際静希のトランプの中に入ったのにもかかわらずヴァラファールはエドモンドの味方をし続けた

恐らくこの言葉に嘘は無いだろう


「エドモンド、お前は何のためにこの辺りをうろついている?ヴァラファールはあぁ言ってたが、お前はノーマン教授に復讐でもするつもりか?」


静希の言葉にエドモンドはうつむいて首を横に振る


身体は静希よりもずっと大きいのにこうしていると酷く小さく見える、遭遇した事件が大量殺人ではこんな反応になるのも無理は無い、その被害者が自分の友人ならなおさらだ


「僕は・・・教授に罪を償ってほしい・・・そのために教授をおびき出して糾弾するつもりだったんだ」


「おびき出すって・・・どうやって?」


「僕の能力の事を知っていれば、きっと向こうから接触してくるはずだ・・・なんせ事件現場を見られてるんだから」


エドモンドの言葉に静希は納得する


彼の能力は言わばカメラのようなものだ


その眼に映したものを映像として立体的に投写できる、その能力を実際に使えば教授の証言を覆すこともできると考えたのだろう


「でも・・・能力による証言や証拠は判断材料にはならないんじゃ・・・」


現代の捜査において能力によって作られた証拠や証言などは一切決定的なものにはなりえない


能力者による意図的な改竄や欠落、あまりにも主観的な要素が強すぎるのが由縁である


「それでも、教授に疑いの目がかかれば必ず事件は解決するはずだ、この国の軍も警察もそこまで無能じゃない・・・」


確かに今教授への疑いの目はまったくと言っていいほどかかっていない


根底を覆す証言や意見が出れば少し状況が変わるかもしれないのだ


エドモンドの不幸はヴァラファールがノーマン教授から逃げる際に一緒に連れて行かれたという事実だ、この状況のせいでエドモンドが犯人扱いされしかもそれを疑われなかったと言っても過言ではない


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