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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

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繋がる何か

「ちょ・・・まずいわよ!探さなきゃ!」


「わかってる!ニコラス、君は車に戻って辺りを探してくれ!俺達はこの辺りを探してみる!」


ニコラスもこの状況に焦っているのか舌打ちをしながら車へと走っていく


最初に大野と小岩が探したのはマンションの周辺だった


どのような方法で抜け出したにせよニコラスの監視下から逃れたのであれば目的である教授の部屋に行くと思ったからである


だがマンションの周りを見ても入口を見ても静希の姿は無い


二人してマンションの前で途方に暮れていると金髪の白人男性が不思議そうに自分達を眺めているのに気づく


どのような理由があるにせよマンションの前で視線をあちらこちらへと移し過ぎた、今の二人は明らかに不審な動きをしているに違いない


そうしていると眉間にしわを寄せた男性が二人に近づいてくる


二人で苦笑いと愛想笑いが混ざった表情をしてやり過ごそうとすると、男性は二人の間をすり抜ける


「俺が入って少ししたらマンションに入ってきてください」


すれ違いざまにそう告げた男性はそのままマンションの中に入っていく


大野と小岩は眼を見開いて驚いているが今はそんなことをしている場合ではない


指示通りにある程度探すふりをして時間を潰し、二人してマンションの中に入っていく


マンションの階段部分で先ほどの白人男性が階段に腰をおろして待っていた


二人の姿を確認すると男性はゆっくり立ち上がってため息をつく


「二人して気付かないなんてどういうことですか、それでも軍人ですか?」


金髪の白人男性の声は静希の声その物だ


顔や姿に似つかわしくない声音に二人は開いた口がふさがらなかった


「ど・・・どういう・・・え?能力?」


「変装ですよ変装、いろいろ準備した甲斐があったってもんです」


静希の声音をしている白人男性は懐からいくつかの道具を取り出す


それは一見化粧品のようにも見える、中にはホテルで買った男性用の香水などもある


「変装って・・・肌の色とか・・・その鼻とか・・・目は?!」


静希の顔は完全に白人男性のそれに近くなっている


肌は普段より際立って白く、鼻や顔の骨格は僅かに変化しておりさらに眼の色は澄んだ青色に変わっている、髪はタンポポのような淡い黄色、いや金色になっており服装も先ほどまで着ていたワイシャツとズボンではなくなっている


確かにこの人物はトイレから出てきた一人の中にいたが、静希はそもそも手ぶらだった


静希の能力を知らない二人にとってはこの変装自体が何かの能力であるように見えるだろう


金髪のかつらをとって元の黒髪に戻しながら静希は大きくため息をつく


「とりあえず驚くのは後にしてください、さっさと教授の家を調べますよ」


これも全ては鳥海の部隊の人間が面白半分に静希に技術を教えた結果である


特殊メイクと呼ばれる変装術で潜入や隠密、そして逃亡などにも使えるだろうということで教え込まれたのだが、才能でもあったのか静希はこの技術を覚えるのが早く、上達も早かった


「にしてもすごいね・・・本物の外人にしか見えなかったよ」


「そんなのどこで覚えたの?先輩にでも教わった?」


「んなわけないでしょう、てかあの人化粧とかするんですか?」


未だに目を白黒させている二人に嫌気がさし静希は鼻や顔の周りに付けている特殊素材を取り外し目に仕込んでいたカラーコンタクトをはずす


伸縮自在な特殊素材を身体に取り付け、そこにメイクを施すことで自然な肌を演出、そして肌が露出している部分に化粧品などでも使われている薬品を付けることで肌を白く塗ったのである


元より雪奈という説明書などを読まない年上の女性がいたおかげで化粧品やその使用法などはほとんどと言っていいほど熟知している


だからこそ上達も早かったのだろうが、本人からすれば全く嬉しくない技術だ


なにが悲しくて他人に変装などしなくてはいけないのか、だが今回においてはこの技術が役に立った、そう考えればまだましな気分だった


静希が元の姿を見せることでようやく本人であるとわかったのか二人は安堵の表情を見せるが静希からすればたまったものではない


訓練中何度部隊の人間にからかわれたか、女装させられた時はメフィに思い切り爆笑されたものだ


とにかく静希達は教授の部屋の前にやってくる


『メフィ頼む』


『はいはい、突撃隣の何とやら』


静希はドアの向こう側にトランプを顕現しメフィを部屋の中で排出、そして鍵を開けてもらい悠々と中に侵入する


この方法さえ取れば普通の扉であれば静希はどこでも簡単に入れる、もっとも今は緊急時であるが故にこの方法をとったが普段このようなことはしたくないものである


「さて・・・どこから探すんだい?」


「できる限り痕跡は残さないように、まずは研究資料などから探していきましょう」


静希は手にゴム手袋、口にマスク、頭にはニット帽をかぶり、指紋、唾液や毛髪が落ちないように完全に武装しながら辺りを物色しだす


妙に慣れているなと思いながら二人も手袋を手にはめて教授のデスクなどをあさり始める


一人暮らしにしてはやけに広いこの部屋、3LDKくらいはあるだろうか、もともと家族でここに暮していたのだろう、倉庫のように物が詰まっている部屋もあれば誰かが使ってそのままにしてある部屋もあった


静希が探していたのは恐らく教授の書斎、いくつもの専門書と数々の書類が保管されている部屋である


大量の本棚と机に積まれた書類の中から静希は元の場所に戻せるように配置を記憶しながら今回の実験に繋がる物を探していた


だが専門書に関してはどれも普通に売られているような物ばかりで参考になるとは思えない、しかもすべて英語で書かれているために内容の理解ができないのだ


細かい内容を知るためには小岩に翻訳してもらわなければならないだろう


とにかくそれらしい書類や本を探していると静希は本棚の中に一つだけケースに入れられている物を見つける


外側からは無地のケースしか見ることができないためなにが入っているのかもわからない


静希がそれを手に取ってみると中には紐で結ばれた紙の束が入っていた


何かの書類のようで中を覗くと一ページ丸々召喚陣の描かれた物がある


そしてその横には召喚陣の詳細な説明だろうか、それともメモ書き程度のものだろうか、いくつかの単語と文章が書き記されている


どうやら正解を引き当てたようだと静希はさらにページをめくっていくとその中に三つほど大きく二重線での添削のような印が付けられた召喚陣を目にする


いくつも召喚陣が書かれているのにこの三つだけ何故か付けられたバッテン、何か意味があるのだろうかと不思議がっているとトランプの中から出てきたメフィが印のつけられた召喚陣を指さす


「ねえシズキ・・・これどっかで見たことない?」


「どっかって・・・俺は見たことないけど・・・」


静希は何度か頭をひねって記憶を呼び出そうとするのだがどうも召喚陣というのはどれもこれも複雑怪奇な形をしており同じように見えてしまう


そうこう悩んでいると今度はトランプ内から邪薙まで現れる


邪薙が勝手に出てくるのは珍しいなと思いながら再度頭を悩ませていると三枚目の召喚陣を見て邪薙は唸る


「なぁシズキ、この召喚陣は私を召喚したやつじゃないか?形がよく似ているのだが」


邪薙の言葉に静希ははっとしてトランプの中からデジカメとメモリーカードを取り出す


メモリーカードをエルフ村での出来事を撮影した物に切り替えて中を見てみるとメフィが撮影した召喚陣が表示される


手元にある画像と紙を見比べると確かに一致している


「あ!そうよ思い出した!こっちのは私が召喚された時のだわ!」


先ほどまで悩んでいたのがすっきりしたおかげか、メフィは胸のつかえがとれたようにすがすがしい顔をしている


「おいおい、ってことは何か?この事件って・・・あのエルフ村の事件の首謀者が関わってるわけ?」


静希達があのエルフ村に関わるきっかけともなった悪魔召喚と神格召喚、その召喚法をエルフに教えた張本人、そして先の交流会で無能力者に情報をリークしたと思われる人物


前者と後者が同一人物である可能性は高い


人外二人を召喚したこの召喚陣に関しては日本でもかなり厳重に情報規制がされていると城島から聞いたことがある


これを知っているのは召喚に直接関与した人間か、またはその共犯者しかあり得ない


「ひょっとしてさ、あの教授が仮面の男ってことはあり得ない?」


「どうだろうな・・・さすがにそこまでは分からないけど、可能性は出てきたな・・・」


日本でも指名手配されているらしい仮面の男


エルフかどうかもわかっていないのに探せというのも無理がある話であると思うが、ここではその事は置いておこう


今重要なのは日本で起こった召喚事件に使用された召喚陣の記載された書類が教授の部屋で見つかったという事実だ


「さてどうしたもんかな・・・これはとりあえず全部撮影して・・・どんどん教授が怪しくなってくな」


「そもそも教授がどのようにこの召喚陣を得たのかというところから確認しなくてはならないな・・・」


「そうだな・・・考えることが増えた」


静希はてっきり研究の段階で自分たちで召喚陣を作成したのだと思っていたのだがこれだけの召喚陣の量と種類を見るにこの中の一つを流用したのだろう


現場で撮影した召喚陣とこの中に記された召喚陣の中のどれかが一致すればわかることだ


そしてその場合教授には聞かなくてはならないことが増えるが、その前に一つやらなくてはならないことができた


「とにかく一度出よう、二人とも入っててくれ」


二人はまたトランプの中に入り、静希は部屋を元通りにして書斎から出ていく


部屋を調べていた大野小岩両名を呼び出して先ほどの件を報告すると二人の顔はどんどん不信感に満ちていった


「これだけ妙なことが続くとさすがに教授が疑わしくなってくるね・・・かといって直接聞く訳にもいかないし・・・」


「でも日本の事件を起こした容疑者と接触しているなら十分参考人として話を聞くことも・・・」


「そもそも俺達は今不法侵入してるんですよ?書類を見つけた経緯とか話せないでしょう?」


それもそうかと小岩は落胆する


そう、静希達は今犯罪行為をしているのだ


いくら事件解決のためとはいえやっている事は立派な犯罪、ばれれば確実に実刑判決、しかもここは海外だ、どのような判決が下されるかわかったものではない


「これからどうする?もう少し探すかい?」


「いえ、結構時間が経ちましたから一度出ましょう、二人はこのまま部屋を出て正面玄関から出てください、俺は部屋の鍵をかけて窓から出ます」


正面玄関に監視カメラがつけられている以上マンションに入った記録のない静希がマンションから出てきてはいけない、先ほど変装を解いてしまったのが原因でもあるが今更そんなことは言っていられない


窓は先ほどと同じ要領でメフィに閉めてもらうことにする


痕跡を残さず二人が部屋から出た後静希は鍵を閉め、ベランダに出た後メフィに内側からカギを閉めてもらいフィアをトランプから取り出してベランダから飛び降りる


それと同時に使い魔の能力が発動し壁やベランダの突起などを足場にして何の問題もなく地面に着地する


我ながら無茶な行動が増えてきたなと思いながら肌の色を変えるのに使っていた化粧品を軽く落として表の道に歩いていく


するとちょうど大野と小岩がマンションから出てきたところだった


「五十嵐君、これからどうするんだい?もうこれ以上情報を得ようとなると・・・」


現段階で情報は集められるだけ集めた、だがその全ては状況証拠程度の物ばかり、確信に至れるだけの物は未だにない


こうなってくると今までにはなかった方法で情報を集めるしかないだろう


「もうまどろっこしい事抜きで本人に聞きましょうか」


静希の言葉に二人は顔色を悪くする


「本人って・・・教授に話を聞くの?」


先ほどまで自分たちも犯罪行為に加担していただけにこのことがばれる事を恐れているのか小岩の表情はあまりよくない


「いえ、教授じゃなくてエドモンドにですよ」


その言葉に二人の顔色はさらに悪くなる


今まで静希の行ったエドモンドに対しての戦闘を見てきたが、はっきり言ってそれは能力者の中でもかなり高いレベルになる


他者から見れば静希自身の能力がどのようなものかもわからないのに、悪魔や使い魔と言った今まで深く知ることもなかった者たちを使役して戦っているのだ


機動力、火力、防御力ともに静希の有する戦力は非常に強力である


そんな中に飛び込んでいかなくてはならない大野と小岩は心中穏やかではない


正直に言えば静希の行う戦闘はただの能力者のそれとは一線を画す


だがそれは、傍から見ればという話だ


静希自身の能力は何も変わっていない、変わっているように見えている、いや静希がそのように見せているだけだ


能力者は自分の能力の本質をいかに隠しながら使用できるかが対能力者戦闘においての有用性を示す


自分の能力を上手く隠したうえで他の部分に注意を向けさせている、そういう意味で静希は非常に優秀な能力者であると言える


だがそれもメフィや邪薙、オルビアにフィアという強力な隠れ蓑があるからこそだ


それこそ単騎行動や単騎戦闘においては静希の能力は即座にばれるだろう


「とりあえず今はエドモンド捜索を優先しましょう、聞きたいことが山ほど出来たんだからしっかり話してもらわないと」


「でも彼を追ってる軍部の人間も大勢いる・・・どうやって話なんてするんだい?捕まえようにもあの悪魔がいるんだし・・・」


大野の言い分ももっともだ、今まで何度か戦闘を行ったがエドモンドの、いやエドモンドの連れるヴァラファールの機動力はかなり高い


それこそメフィの攻撃とフィアの機動力を組み合わせないと追いつくことすらできないのだ


多少の物量で抑え込んでも先のような大能力を使われては話をするような状況にはできない


簡単に話をするなどと言ってはみたものの実行するのは非常に困難であると言わざるを得ない


どうにかして二人きりの状況を作ることができればそれも可能かもしれないが、実際静希の周りには人間が多い


監視兼護衛役の大野と小岩、この二人に関しては静希に協力的であるから問題ない、だが案内役兼監視役のニコラスはどうにも厄介だ


振り切ってしまえばそこまでだが彼がいる状況下でフィアが登場する場面と言うと、すでにエドモンドと追いかけっこが始まっている可能性の方が大きい


そうなってしまっては話しあいどころではないのだ


さてどうしたものかと悩んでいるうちに近くに車がやってきて急停止する


その中からは血相を変えたニコラスが出てきた


そう言えば勝手にいなくなっているという事実を忘れていた


どう言い訳をしたものかと考えていたのだが事態はどうやら静希が思っているより早く動きだしているらしい


「ミスターイガラシ!部隊が目標と接触した!急いできてくれ!」


どうやら静希の思惑とは別に部隊も部隊でしっかりと仕事をしていたようだった


急いで乗りこむと車は急発進する


「一体どうしたんだ?今朝見つかったばかりだって言うのに」


「君が隊長に報告した後探索範囲を一時的に地下全域に広げたのさ、探知能力者達は仕事が増えたってぼやいていたがその甲斐あった、すでに気付かれないように包囲が始まっている」


その言葉に静希は眉間にしわを寄せる


部隊はエドモンドが犯人であることを疑ってもいない、このままでは本当のことを確認する前に完全に包囲網が完成しそのまま捕縛されてしまう可能性もある


そうなれば静希はお払い箱となって日本に帰還させられるだろう


それも悪くは無いかなと思ったのだが乗りかかった船、最後まで付き合わないと目覚めが悪いというものだ


誤字カウントが10になってしまったので合計三回分まとめて投稿


まさか二日続けて三話分投稿することになるとは・・・



誤字多いかもしれませんがこれからもお楽しみいただければ幸いです

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