思考は前に
『・・・はぁ・・・良くも悪くも肝が据わっているところは和仁おじさんそっくりだな・・・』
「すいません、もちろん断ってくれても構いません」
『いや、君には陽太の誕生日の時の借りがある、この程度でよければいくらでも力になるよ』
実月の言葉はありがたいが実質幼馴染の姉に犯罪行為をさせているようなものだ、静希自身としてもあまりいい気はしない
「ありがとうございます、じゃあお言葉に甘えます」
『わかった、少し待ちなさい、具体的に知りたい内容などはあるか?』
「実験の途中経過報告と最終経過報告で予定していた日取りが変わっていたかどうかと、メンバーの変更などがあったかどうかについてお願いします、警察のサーバーなどで管理されていると言っていました」
注文を告げると実月はわかったと告げてまた数秒沈黙の時間を作る
一分も経たない間にまた受話器の向こう側に実月の声が届き始める
『えぇと、一応君の知りたいことは調べたぞ、まずメンバーは殺害された十七人にノーマンという教授が一人の全部で十八人、これは初期から最後まで変わることは無かったようだ』
つまりエドモンド以外が犯人であるという可能性を考えた時、実験からはずされたという理由での関係者などは浮かび上がらないということでもある
逆に言えば何故そこにエドモンドが関わってきたのかという疑問が浮かぶ
『次に予定日についてだが、最終報告以外は事件があった当日に実験を行うようにしているな』
「それは間違いなくですか?」
『あぁ、一応全員が用意していたであろうレポートなども調べてみたんだが全員一致して予定日は事件当日、最後に報告するノーマン教授だけが事件から三日後に予定日を設定している』
一分もたたずにそれだけの事を調べ上げるあたりさすが実月と言いたいが今はそのことは置いておこう
静希の頭の中で急速に思考が展開されつつある
石動の話によれば召喚陣は三日という長い時間の短縮は不可能である、そして教授以外は全員が事件当日に実験を予定していた
こうなるとあの召喚陣自体が事件当日発動を予定していたと考えるのが普通だ
ならばなぜ教授は最終報告で予定を三日も遅らせたのか
いや、今回の実験は軍部による実験施設周囲の包囲なども予定されていたと聞く、教授が予定を遅らせたのではなく軍部の問題で遅らせたのかもしれない
『どうだ?思考は先に進んだかい?』
「えぇ、ありがとうございます、お礼はまた今度に」
『なに気にすることは無い・・・と言いたいが、その・・・だな、一つこちらも聞きたいんだが・・・』
「なんです?」
実月らしくないなにやら歯切れが悪い口調に疑問符を飛ばす
物事においてほぼ何でもズバズバとこなしている実月がこのようになるのは非常に珍しい
『その・・・陽太のやつは私のあげたプレゼントは・・・使っているか?』
その言葉に静希は僅かに呆れてしまう
この実月という人物は普段は本当に完璧超人なのにどうしてこうも弟の事になると上手く行動できなくなるのか
重度のブラコンというのは性質が悪いものである
「毎日使ってますよ、結構本人も気に入ってるみたいです」
『そ、そうか、それならいいんだ・・・!』
どうやら使ってくれてしかも気に入ってくれているということが嬉しいのだろう、僅かに声のトーンが上がっている
というよりその事をメールなり電話なりで報告されていないのだろうか、陽太の姉に対する苦手意識は相当なものであるらしい
普段近くにいないのだからたまにはメールなり何なりでやり取りでも何でもすればいいものを
陽太は実月が自分に向ける過剰な愛情表現を苦手とし、実月は普段完璧なのに陽太の事になると変な行動に出ることがある
この姉弟は似ているのだか似ていないのだか本当に分からない
「とにかく本当にありがとうございました、お時間を割いてしまってすいません」
『いや、こちらとしても良いことを聞けた、礼を言う、それではくれぐれも気を付けてな』
実月はそう言って電話を切る、事情をほとんど知っているからだろうか、最後の心配して送った言葉が妙に重たく感じる
実月のおかげで思考は先に進んだ
前提から見直す上で色々と考えるべきことが見えてきた
まずは確認をいくつかしなくてはならない
先ほどからニコラスの相手をしてくれている小岩に合図を送ってこちらに戻ってくるように仕向けるとやっと解放されると思ったのか安堵の表情を浮かべていた
「ニコラス、いくつか確認したいことがあるんだけど」
「え?あぁなんだい?」
確認したい内容はいくつかあるが、まずは軍部に所属しているニコラスに聞かなくてはならない
だが実際に実験の研究レポートや報告書などを調べてもらったとは言えない
さてどうきりだしたものだろうか




