痕跡を追って
移動を終え今度は地上への道をあがっていくと静希と大野は先ほどとは違う場所の裏路地に到着する
地下への道を封じていた格子を取り外し地上へと登ると近くの地面に入った場所と同じような堅い何かを引きずったような跡がある
その跡は静希の外した格子と同じ大きさのものだった
どうやら先刻まで地下にいた人物は間違いなくここから出ていったらしい
「昨日みたいに気配を察知とかできないのかい?」
「無茶言わないでくださいよ、相手だって悪魔くらい隠すでしょうし、なによりこんなに人がいるんですよ?気配なんて読めないですよ」
静希があの場で気配を察知できたのは人がほとんどおらずまったく音がしないような状況だったからこそである
静寂の中暗闇の中精神を研ぎ澄まして警戒していたからこそ察知できた、だが今は日中で人の喧騒が大きい、視覚的にも聴覚的にもノイズが多すぎる
この状態で察知するのはさすがに感知能力でも持っていない限り困難だろう
「で?この後どうするんだい?」
「このままこの近辺の路地の地下への入り口を調べます、これみたいな跡があったら即潜入って感じですね」
これは静希の勘なのだが、ここにいた人物は定期的、正確には数時間に一回程度移動している
一か所にかたまっていては見つかりやすくなるというのもそうだが地下による長距離移動が能力者の感知によって防がれている以上一定距離移動して地上へ、少し移動してまた地下へ
そういった動きを繰り返しているように思えたのだ
事実先ほどまでいたと思われる地下の住人はこの場から出てどこかに移動している
どれほどの頻度とどれだけの移動を繰り返しているかは分からないが、静希達の追っているのがエドモンドその人なら日中は地下にいる時間の方が多いはず
これで追っているのがただの浮浪者だったら笑い話なのだが
大野と二人で再び地下へ続く通気孔を探しまわっていると予想的中、先ほどあったような跡が僅かに残った箇所を発見する
「よし、行きましょう」
「あぁまたか・・・」
地図にマークを付けながら静希は意気揚々と地下へと侵入していく
こういった隠密行動というか狭いところに入りこんで何かを捜し出すといった行動が、子供のころにやった冒険ごっこのような雰囲気を作り静希は気付かぬうちに少しだけ高揚していた
この場に陽太が一緒にいればきっと彼を松明代わりにして洞窟を探検しているような気分で人探しができただろう
最もこんな狭い空間では楽しさを味わう前に酸素がなくなるかもしれないが
ゆっくりと地下に降り、足音をたてないように静かに歩を進めていくと近くを地下鉄の列車が通過し辺りは一瞬だけ明るく、そして騒がしくなる
近くの隙間に身を隠し列車をやり過ごしながら進行方向を見ると僅かに揺れる黒い尾のような物が見える
静希はとっさにライトを消し大野の方をタップして何かがいる事を知らせる
緊迫した静希の表情に大野も状況を理解したのか懐に入れてある拳銃を取り出し、すぐ撃てるように準備をした
幸い銃を用意する時の音は列車がかき消してくれた
列車が通り過ぎてすぐ静希はオルビアを取り出し臨戦態勢を整える
二、三回呼吸を整えて静希と大野は同時に飛び出し視線の先の物体に急接近する
影に隠れていたのは間違いなく昨夜見つけた悪魔ヴァラファールとエドモンドだった
暗闇に乗じて急接近し躊躇いなくオルビアを叩きつけるその刹那、エドモンドが静希に気が付き、一瞬遅れてヴァラファールが反応する
オルビアの刀身ごと静希の身体はヴァラファールの尾に弾き飛ばされてしまう
だがその瞬間に静希はカードの中からメフィを取り出していた
「昨日はどうも、今度は逃がさないわよ?」
目の前に唐突に現れた静希と悪魔に動揺しているのかエドモンドは開口したまま後ずさる
「動くな!投降しろ!抵抗しなければ悪いようにはしない!」
大野が警告を告げているが何と場違いなことだろうか
すでに攻撃を繰り出し次の仕掛けも構築している静希と臨戦状態の悪魔たちを前にして警告など意味がない
「またお前か・・・妙な縁があるらしいな・・・」
「縁じゃないわ、私の契約者の手腕よ」
睨みあう二人の悪魔に対し静希はエドモンドへと向かいあっていた
剣とナイフを構えじりじりとその距離を縮めていく
相手はすでに十七人を殺した殺人鬼、その手段は分からないが強い攻撃ではない
どんな攻撃だろうと対処できるくらいの警戒はしている上にすぐにでも攻撃できるように待機させている
こんな地下では強い力は使えない、使えばお互いの契約者を生き埋めにしてしまう可能性がある
悪魔両者ともにそのことを理解していた
故に睨みあうことしかできない
だが静希は違う、エドモンドを捕まえればそれで終わりなのだ、攻撃されこそすれ攻撃しない理由は無い




