悪魔と悪魔
部隊に合流し街中を捜索してどれほど経っただろうか
深夜遅く、誰もいない寝静まった街の中を部隊の中に混じって行動し辺りを捜索し続けている
辺りは完全な静寂、時折風が吹き街路樹や自分達の服を揺らす程度の音しか聞こえない
軽く地図を見ながら現在地点を確認してみるが完全な街中、潜むところはいくらでもある
建物の中は入る訳にはいかず探知できる能力者に確認してもらいながら一つ一つ建物と路地を確認していく
他の部隊と連絡を取りながら着実に探索地域を広げていく中、誰よりも早くそれに気付いたのは他でもない静希だった
大人数の重点的な探索と能力による索敵を行う部隊の人間ですら気付いていないその微弱な異常を静希は察知する
それは自らが悪魔と共に暮らしているためか、その独特の気配と威圧感に日々触れていたからか
日々の生活の中で培われた悪魔などの人外を察知する静希の感性が鋭敏にそれを捉えていた
静希は視線のずっと先、肉眼ではとらえられないほど遠くにいるそれに、僅かに身震いする
トランプからオルビアを引き抜き、臨戦態勢をとると周囲の部隊の人間の緊張の色が濃くなる
唐突に部隊の中心にいた協力員が戦闘態勢になればその反応は当然だ
そして一点から目をそらさない静希の様子を見て数秒遅れてその視線の先にいるそれに部隊の人間が気付き始める
ある建物の屋上にいるその人物
目視できないながらもほぼ全員がその人物を確認した
慌ただしく部隊の人間が他の隊とも連絡を取り合う中、静希は真っ先に動いた
トランプの中からフィアを呼び出し能力を使用、巨大な獣の姿へと変貌させその背に飛び乗る
「ちょ!五十嵐君!」
突然現れた巨大な獣に驚きつつ大野は静希が勝手な行動をしないように制止する
せっかく目標を発見したこの好機に勝手に行動して全て無駄にしてはいけない
そういうつもりだったのだが、静希もその位は理解していた
「ニコラス!俺はこのまま直線的にあいつに向かって時間を稼ぐ!他の部隊と連携してこの地点に包囲網を作ってくれ!」
地図にマークを付けてそのままフィアを二人の元に近づける
「待て!何の作戦もなしに!」
「二人とも乗って!」
大野と小岩を強引にフィアの背中に乗せ高速で移動を開始する
建物を足場にしながら一直線に目標へと駆け抜ける
相手はまだこちらに気付いていない、建物から建物に飛び移り屋上へと躍り出る
ビルの建物の上にいた、その人物
静希と同じように大きな獣にまたがり、どこかを見ていたその男と対峙する
その青い目が静希を映し、姿を確認すると警戒の色を強くする
静希はまず男の姿よりも悪魔と思わしき獣の姿を確認した
なるほどノーマン教授の言い方は確かに正しかった
顔や胴体はライオンのそれだが足や尾は全くの別物
四足はライオンのそれよりも太く大きく独特な鱗を生やしている、指先には鋭い爪を有している
尾はまるで蛇のように長い、だが鱗などは無く、その代わりに黒く硬そうな皮膚が月明かりで鈍く光っている
「動くな!」
大野小岩両名がフィアの背から降りて目の前の人物、エドモンドに銃口を向ける
金髪碧眼高身長、絵にかいたようなイギリス人だ
整った顔立ちをしているのだが少々老けている、資料によれば歳は三十だったはずだが、それよりも上に見えてしまう
二人に銃口を向けられてようやく静希達が敵であることを認識したのかエドモンドは悪魔から降りて後ろに下がる
すると悪魔は足を地面にたたきつけながら威嚇を開始する
どうやら悪魔が前衛、エドモンドの方は後衛のようだ
「いくぞ、メフィ!」
トランプの中からメフィを取り出すとその場に女性の姿をした悪魔が顕現する
にやりと笑ったその目にはライオンの姿をした悪魔とその奥にいる人間の姿が映っている
「あらあら、どんな奴かと思ってたのに・・・あんたとはね、ヴァラファール」
「・・・何故人間といる・・・メフィストフェレス」
「それは貴方もでしょ?」
静希が一番驚いたのは目の前のヴァラファールと呼ばれた獣型の悪魔がしゃべったことだ
いや、邪薙のように一部獣の姿をしていても人語を解するということはわかっていたが完全な動物型の生き物がこうやって話しているところを見るとなかなか感動するものだ
しかも声がかなり渋く、低い声だ
ライオンの姿からすれば非常に合っているような合っていないような微妙な心持だ
エドモンドもまさかこちらが悪魔を使役しているとは思っていなかったのだろう、その表情には焦りを含んでいることがうかがえる
「こちらにも事情があってな・・・悪いがこいつを捕らえられる訳にはいかん」
「こっちにも事情があるの、悪いけどこっちを優先してくれる?」
悪魔同士がにらみ合いお互いに敵意と殺意を飛ばし合う
もはや銃を向けている大野と小岩はいないも同然だった
にらみ合いが始まってどれくらい経っただろうか、静寂の中にある緊張感はどんどん増していく
実際に戦っているわけでもないのに静希達普通の人間は冷や汗が止まらない
悪魔同士がにらみ合う、そんな光景を今まで見たことがないのだから
先に動いたのはヴァラファール
姿勢を低くし長い尾でエドモンドを捕まえその場から大きく跳躍する
どうやら相手が悪いと判断したのだろう
「逃すか!」
メフィが後を追うのと同時に静希もフィアにまたがって追跡を始める
大野と小岩を乗せている暇はなく、屋上に置き去りになってしまったがそんなことを気にしている場合ではない
どうやら包囲網がほとんど完成している状態らしく屋上の周りにはかなりの数の武装した隊員が集まってきていた
大きく跳躍しながらヴァラファールの周りに黒く光る球体が具現し始める
それと同時にメフィも能力を発動、輝く光弾を作り出し、ほぼ同時に射出する
黒く輝く球体と白く光る光弾がぶつかり合い衝撃波を生みながら互いに相殺する
恐らくはメフィも全力で撃ったのだろう、ただの余波だけで強い風が巻き起こっている
しかも自分達の実力がほぼ同等だと判断するや否や互いに身体の周りに大量の能力の弾丸を作り出し始める
互いに発現系統の能力を持っているだけあって射撃戦になるかもしれない
いやすでになっている
宙を舞いながら、攻撃をよけながら敵めがけ互いに能力を放ち続けている
『邪薙、防御頼んだぞ!』
『任されよう』
フィアに合図をして交戦中の二人の悪魔より先に移動し挟み撃ちにする
無論そのまま攻撃できるはずもなく悪魔の放つ黒い弾丸が静希達に襲いかかる
数発まではフィアの機動力を活かし避ける事も出来たが何十発と放たれる攻撃を全て避けられるはずもなく、何発かは邪薙の障壁により防がれる
だが数発受けただけで邪薙の張った障壁はひびが入り壊れかけてしまう
やはり弱小の神格とメフィとタイマンを張れるだけの悪魔とでは力量差があり過ぎる
だがその数発耐えられるだけでも十分だった
ほぼ同格と思わしき悪魔が目の前にいるのに人間に手間をかけていられるほど余裕は無い
だが弱い人間を抱えたまま攻撃を受け続ける訳にもいかないと判断したのか、獣の姿をした悪魔は地面を蹴り黒い弾丸を放ちながら上空へ退避していく
「くっそ!速いな!」
「当たり前よ、それより気をつけなさい、あれに当たると苦しいじゃすまないわよ!」
一時的に合流し地面に落下し始めている悪魔を見て互いの無事を確かめる
あれとは先ほどからヴァラファールが放っている黒い弾丸の事だ
「さっきの全力か?」
「もちろん、あれで決めるつもりだったんだけどね」
あれが能力であることは確定だがその威力がメフィの全力と同等だとすればかなりまずい
最悪この街一つ消え去るかもしれない規模の戦いになってしまう
「とりあえず部隊の集まってるところに追い込むぞ!」
「了解!」
メフィが先行しその後に静希が続く
また能力を使いながらの追いかけっこが始まる
主に目標を追うのはメフィ、的確に能力を放ちながらその行動を確実に制限していく
そしてさらに追い込みをかけるのが静希、メフィの攻撃により行動が制限されている中先回りしてから対象を誘導していく
「メフィ!次ので決めるぞ!」
「はいはい!お任せあれ!」
自由飛行の可能なメフィと違いヴァラファールは空を飛ぶことができないのかずっと地面を走っている
かなりの速さだがメフィの攻撃を相殺しながら移動しているのであればフィアの方がずっと速い
追い込む際に静希自身も何度かオルビアによる攻撃を試みたのだが相手も高い機動力を持っているためかすりもしない
メフィの攻撃も脅威となっているものの甚大なダメージを与えるには至っていない
メフィとヴァラファールの実力は拮抗しているがそこに静希が入りこんでもさしたる意味は無い
それほどに実力に差があるのだ
だが静希達の目的は今はあくまで時間稼ぎと目標地点への誘導
時間稼ぎはすでに十分と言えるほどに果たしている
後は目標をポイントに誘導する
最後の曲がり角から誘導し目標のポイントに目標を追いこむとその先には銃器を持った大量の部隊が待ち受けている
その場にいた部隊長の合図で一斉に攻撃が開始される
銃器、能力、あらゆる攻撃が悪魔に向けて襲いかかる
静希とメフィは一旦その場から離れ遠くからその様子をうかがっていた
凄惨
そういうにふさわしい状況だった
雨のように降り注ぐ攻撃、物理的な攻撃だけでなく能力による現象系の攻撃も混じっている
誤字報告五件たまったんで複数まとめて投稿しました
誤字ゼロを目指した結果がこれだよ!
ということでお楽しみいただければ幸いです




