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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

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集まる情報

「しょうがないわよ、彼だって突然のことで混乱していただろうし」


小岩のフォローももっともだ、実際静希が現場に居合わせたら間違いなく思考が一時的に停止すること間違いなし、その点さすが教授というべきだろうか


「まぁ、ここから先の情報はカメラの解像度に期待しましょう・・・」


大学について静希達が向かったのは事件の起こった実験棟の一階にある警備室


この部屋でこの実験棟全ての監視カメラの映像をまとめているらしい


「これがその映像なんだけど・・・なんでか事件発生前後数分の映像が途切れてるんだ」


警備員の人が再生を始めると事件発生当時の映像が流れ始める


数分は誰も通過せずに実験室の扉だけが映され続けている、そして事件発生数分前になると画面の端に数人の研究者が映し出され、その場で画面が停止する


「ここから二分ちょっと映像が途切れる、原因は不明だ」


「カメラの故障ですか?」


「わからないんだ、一応今は普通に動いてるから何の問題もないはずなんだけど」


カメラの問題ではないとすれば一体何が原因か、どちらにせよ止まった映像が動き出すと実験室の扉は開け放たれており、次の瞬間大きな何かが高速で部屋の中から飛び出しカメラの外へと移動してしまう


「今のシーンスローで流せますか?」


静希の指定通り謎の物体が出てくる瞬間をスロー再生する


そしてその出てきた者の姿を静希はとらえた


ノーマンの証言通りまるでライオンだ、手足と尾はライオンのそれとは違うが顔と胴体はライオンのまま


解像度が鮮明でないためそれ以上のことはわからないがこれが件の悪魔であることは間違いないだろう


よくよく画面を注視してみるとこの悪魔の尾に巻きつかれている人物が一人


資料に載っていたエドモンド・パークスその人だ


「これを見る限り悪魔が彼を連れている感じだね」


大野の言葉を聞きながら静希は画面に映っている悪魔の姿を注視する


『メフィどうだ?特定できそうか?』


『もう少し画像が良ければ・・・でも二十分の一くらいには絞れそうよ』


これだけ画像が映っていても同じようなのが二十近くもいるのかと静希は驚き嫌気がさすがこの際そんなことを言っている場合ではない


「このカメラ音声は拾ってないんですか?」


「残念ながら映像専用でして、それにあの部屋は完全防音ですからあまり期待はできませんよ」


映像がないのならせめて音だけでもと思ったのだがこうなると本当に手掛かりは事件発生前後の映像しかないことになる


この映像から少しでも情報を得なくては


「映像が止まる前のカメラの端に映ってるのが誰かわかりますか?」


映像を巻き戻して一瞬だけ映る人物を指さすと小岩が資料をめくりながら探し始める


「えっと・・・今回の事件の被害者、実験に関わっていた研究者ね、たぶん他の人影もそうだと思うけど」


どうやら本当に事件直前の映像のようでここから数分までなにが起こったのか実際にはわからない


「でもなんでカメラの異常もないのに映像が途切れてるんだろうね?」


「カメラを一時的に使用不可にできる能力、または誰かが意図的にデータを破損させたかのどちらかでしょう、どちらにせよ悪魔ではなく人間の仕業ですね」


「時間的に召喚の前からカメラが映らなくなってるもんね」


この人影が映ってから彼らが実験室に入り悪魔を召喚し出ていくまで約数分


その数分で十七人すべてを殺害する


確実に能力者の犯罪であることは確定している


「他の場所の監視カメラの映像も見せてもらえますか?」


「あぁいいよ、これだ」


大きな画面にいくつも分割して映像が映し出される


事件の直前と直後の実験棟の各所の映像だ


事件直前は何の問題もなく誰もいないのだが事件直後になると先ほど実験室前にも映った悪魔とエドモンドの姿がいくつかのカメラで確認できた


どうやら実験室から一直線に外へと脱出したらしい


「事件が起こったのは・・・この国の時間で昨日の昼過ぎ・・・本来の実験は・・・その三日後、つまり明後日の予定・・・」


静希がいくつか考えを巡らせている中一つ引っかかることがある


「なぁニコラス、この国の軍が町を包囲したのは昨日の何時頃だ?」


「昨日の夕方から夜中にかけてだね、かなり広範囲に包囲網を敷いたから時間がかかったようだけど」


昼に事件が起こってすぐ包囲網を敷いたということなのだろうがそこまで早く動けるものだろうか


日本の軍部と違って指揮系統が優秀なのか


「どうしてそんなに早く軍が動けたんだ?普通もっと時間かからないか?」


「いやいや、元より包囲網は作る予定だったんだよ、大学の周りとその周囲の交通も一時的に封鎖する予定だった、本来は外部からの干渉を防ぐためだったんだけどね」


何日か前から軍が動いて地元警察と連携して準備を進めていたそうだ


静希が思う以上にこの件は大掛かりな実験だったらしい


外部からの防衛が内部への捜査網になるとはなんとも皮肉なものである


軍が早く動けたのもすでに駐留しており包囲の準備もほぼ完成していたからだろう


すぐにとはいかなかったが、それでも半日とかからずにこの広い範囲で包囲網を敷けたのは驚異的な早さだ


「じゃあエドモンドと軍が接触して戦闘になったのはいつだ?」


「昨日の深夜、包囲網が完成した後だね、被害は怪我人多数、だけど包囲網内にエドモンドを押し返した」


つまりエドモンドはまだこの包囲網の中にいることが確定しているということ


静希は画面の中に移るエドモンドを見ながら眉をひそめる


「あとは当日実験室近くにいた人の話が聞けたらいいんだけど、誰か心当たりありませんか?」


この映像を見る限り実験棟の廊下にはほとんど人影が見られない、むしろ人がいるのかも怪しい


監視カメラに映されている場所からどういうルートで悪魔とエドモンドが脱出したかは分かるのだが、その日いた人物まではわからない


実際その場にいた教授以上の情報を持っているとも思えないが室内からの足取りをたどる上で話を聞いておいて損は無い


「実験棟自体はいま立ち入り禁止しているけど、研究室が別棟にある教授なら話を聞けるんじゃないかな?当時いたかどうかまではわからないけど」


「実験棟には入れないんですか?」


「一般人はね、君は関係者だから入ることができるよ」


ニコラスの言葉に静希は腕組をして悩んでしまう


まずは聞き込みを優先するべきか、それとも実験棟での現場検証を優先すべきか


時計を確認すると現在時刻はもうじき正午


この時間では研究者のところに行っても昼食に出てしまっているかもしれない


そんなことを考えていると小岩の腹が高い音を立てて鳴り始め空腹を知らせる


僅かに顔を赤くして腹を抑えるのを見て静希は軽く笑ってしまう


「わ、笑わなくてもいいじゃない、日本だと今二十一時くらいよ?晩御飯も食べられなかったし・・・」


小岩の言う通り静希達が出国したのは十八時、一時間かけて到着し午前十時、そこから二時間も経過している、その間何も食べていないのだ、腹も減る


「そうですね、じゃあ一旦食事にしましょう、ニコラス、ここら辺でしっかり食事できるところに案内してくれるか?」


「わかった、日本人は味にうるさいから口に合うか分からないが」


とりあえず到着してからできることはやっている、後は身体を時差に合わせるだけ


九時間も時差があればこちらの時間で午後三時ごろに睡魔が襲ってくるだろう、飛行機で来た訳ではないために時差調整ができなかったのが少々痛い


ニコラスの案内で入ったレストランでとりあえず空腹は解消できたがその先は睡魔との闘いだ


特に静希は日本で訓練の後すぐこちらに飛んできている、正直疲労もたまってしまっている


再び大学に戻って最初は実験棟に向かうことにする


実験棟の周りには部隊隊員が立っており一般人が入ってこれないようにしていた


一階を通り過ぎ二階、その中心にある実験室


他の部屋よりも少し広い空間になっていてその中心には未だ輝く召喚陣とテープで枠取りされた人型


そこに死体があったことを示していた


辺りにおかれた机や資料はおそらく事件当時のままになっているのだろう、機能的で扱いやすいようにファイリングされていたり壁にテープで張られたりしている


軽く手を合わせて中に入ると僅かに異臭が立ち込めているのに気づく


「なんだこの匂い?」


「うっ・・・」


大野は顔をしかめただけだったが小岩は生理的に無理だったのか口を押さえて部屋から逃げ出してしまう


静希も鼻に手を当てて匂いを嗅がないようにするがそれでも独特の生臭さと異臭は口を通じて鼻孔を刺激する


「換気してないのか?窓は?」


「この部屋は機密性の高い実験を行うための部屋らしくて窓は無い、換気扇はなんでか動かないんだよ」


天井部分に空気を循環させるための換気口があるのは見えるのだが壁にあるスイッチを押しても何の反応もしないところを見るとどうやら機能していないようだった


異臭の中顔をしかめながら静希は懐から取り出したカメラでかすかに光る召喚陣と周囲の状況を撮影していく


召喚陣は今も輝き、死体のあった場所には皆一様に妙なシミができている


「どうだい五十嵐君、何かわかったか?」


「とりあえず、ここにいた十七人を殺したのが十中八九人間であることはわかりました」


その言葉に大野は驚いた様子だった


凶器が見つかった訳でもない、ただ現場を見ただけでそれを確信した


「一応聞いていいかい?どうして?」


「いくつかありますけど、まず周りの機材が全く壊れてない事、悪魔の攻撃にしては平和すぎます」


メフィを例に挙げると彼女は自力だけで強化状態の陽太と取っ組み合いができるほどの膂力を持っている、そして能力自体も強力だ、メフィと同程度の悪魔と仮定して、誰かを口封じとして殺した場合周囲の物を壊さずに殺すことにメリットはあるだろうか


少なくとも静希なら他の物を壊しまくって少しでも捜査をかく乱しようとする


「次にこの辺りに血の跡が全くない事、妙なシミがあるけどこれは血じゃないし、悪魔がこんな丁寧な殺し方するとは思えないんですよ、能力を使えば人くらいバラバラにできるはずなのに」


静希が戦った人外は今のところ二つ、悪魔メフィストフェレスと神格邪薙


だがその両名ともに静希達に対して本気での攻撃はしていない


メフィはかなり手加減し、邪薙は人間に対しての攻撃を忌避していた


本気になればこの実験棟ごと破壊できるであろう悪魔が人を殺したのにしては、この部屋は綺麗すぎる


誤字報告が五件たまったので複数投稿


昔の文章をちょっと見なおしてみたんですがやっぱり少しずつ表現とかが変わってきてる気がする


成長してるのか劣化してるのか


これからもお楽しみいただければ幸いです

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