まず情報から
「え、えとじゃあ改めまして、小岩真奈美です、みなさんよろしく」
「大野純太です、よろしく」
みんな静希のトランプの中から二人のことは知っているのだが一応知らないふりをして挨拶する
そして小岩は邪薙に吸い込まれるように近づいていきゆっくりその頭を撫で始めていた
邪薙はその顔が犬であるために女性からの受けがいいようだ
「それで今日はどうするんだ?連絡があるまで待ってるのか?」
「まさか、そんな勿体ない事はしないですよ、まずは情報収集しましょう」
静希は手荷物をほとんど持たずに人外達を二人にトランプが見えないように収納していく
二人がまだ静希の能力を誤解しているというのならそれも利用するまでである
敵を騙すにはまず味方から、というやつだ
「じゃあ隊員に話を聞きに行くの?」
「いえ、まずは第一発見者の教授にお話を伺いましょう、それで聞きたいんですけど、向こうの部隊には俺の情報はどの程度伝わってるんです?」
実際会った時静希は明言を避けたが静希が悪魔の契約者であることが伝わっているのか、それともただ単に悪魔に対して有効な手段を有している学生として呼ばれたのか、それによって対応が変わるのだ
「一応君のことは『悪魔の対処をできる人物』として伝わっているとニコラスは言ってたよ」
どうやら静希がテッドと話している間に二人も世間話程度に情報を集めてくれていたようだ、こういう時味方がいると有り難い
「なら、教授にも似たように伝わってるかもですね、しばらくはそういうふりをしましょう」
「ねえ五十嵐君、あの人たちは味方なんだし、本当のことを話してもいいんじゃ・・・」
小岩の言葉に静希は首を横に振る
僅かに怪訝な顔をするがそれにはちゃんとした理由がある
「彼らは『今回は』味方ですけど次はどうなるか分からないんですよ?ただでさえ海外での厄介事はごめんだっつーのに」
今回静希は依頼を受けてこの場にいる、そして今は確かにこの国の軍は味方となっているかもわからない
だが将来的にここが敵になる可能性もあるのだ、余計な情報は隠しておくに限る
「それじゃあニコラスに連絡して教授のところに案内してもらいましょう」
二人を促してとりあえずさっさと部屋に鍵をかけて外に出る
小岩の方がニコラスの連絡先を聞いていたのか、電話をかけてものの数分でニコラスは車でホテルの前にやってきた
「まさかすぐに戻るはめになるとは思ってなかったよ」
「悪かったよ、まずは現場を見たって言うノーマン教授に話を聞ければ」
車に乗り込みながらそう伝えると了解したと言ってすぐさま車を発車させる
ニコラスの話では今ノーマン教授は大学の近くの病院で治療を受けているらしい
なんでも外傷は無いのだが精神的に参っているようで食事ものどを通らず、カウンセリングを受けながら点滴などの栄養補給を行っているそうだ
「こうして聞いてみると気の毒な人ね」
「実験がもうすぐって時に横取りされて、しかも仲間を皆殺しだからなぁ・・・そりゃへこみもするか」
確かにせっかくの実験を台無しにされ自分と一緒に働いていた人を全員殺されてしまっては精神的に病んでしまってもおかしくは無い
気の毒ではあるが話を聞かないと話は前に進まない
静希は今までいろんな面倒事に巻き込まれてきたが、誰かが死ぬ事件に巻き込まれるのはこれが初めてだ
なんとも気が重いと呟きながら流れていく風景を見ながらため息をつく
ノーマン教授が入院している病院につき、受付で病室を聞いた後、ニコラスの案内によって静希達は教授のいる病室前へとやってきた
ノックした後病室に入るとそこには僅かに目の下に隈を作った男性が横たわっている
ベッドを少し起こして背を預け、何やら書物を読んでいるようだった
「おや?どちら様かな?」
「初めまして、今回の悪魔召喚事件の協力員として日本から派遣されました五十嵐静希と申します」
手を差し出して軽く握手をするとノーマンは目を見開いて驚いている様子だった
恐らく彼自身日本から協力者が来ること自体は聞かされていたのだろう
だがその協力者がこんな子供であることが信じられないようだった
それでも近くに軍所属のニコラスがいることでそれが事実であるとわかるとさらに動揺は大きくなる
「君が・・・まさかこんな」
「子供が・・・ですか?」
静希がその驚きと疑いを引き継いで返すとさすがに失礼だと思ったのか軽く咳払いして失礼と謝罪を口にする
「それで、こんな場所に何の用かな?」
「事件当時の事を聞きたくて足を運びました、なんでも悪魔を直に目撃なさったとか」
静希の目的はそこにある
この人物が悪魔を目撃したのであればその姿形を知ることができる
運が良ければ能力自体も見ているかもしれない
そうすればこちらにいる悪魔から情報が得られる可能性は十分にある
戦うだけではなく戦う前から有利な状況を作っておくことこそ静希にとって最も重要な第一段階である




