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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

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敵の敵は

能力が発動する寸前、静希は小さく笑いだしてナイフを首元から外す


テッドは静希から距離をとり警戒の色を強くしている


その眼には僅かな恐怖と敵意が込められている


「はっはっは、すみません、これが上司から言われた頼まれたものなんです」


静希はナイフを懐にしまいこれ以上敵対するつもりはないと両手を上げる


「一体今の行動に何の意味が・・・」


「とりあえず上から言われたのは舐められないようにしろってだけですよ、何分若輩者なんでね」


実際やろうと思えばいくらでもやれるってことがわかったしと付け加えて静希はにこやかに右手を差し出す


「改めましてよろしく、友好な関係と俺の邪魔をしない程度に協力していただければ幸いかと」


元よりこちらを信頼していない人間に協力を求めても連携などできるはずもない


ならばお互いに利益のある都合の良い協力関係のみを構築した方が上手くいく


静希はそう考えたのだ


実際連携する上で手札も背景もほとんど知らないような人間達に自分の手の内をさらすようなまねは避けたい


敵対はしない、敵の敵は味方の理論だ


「・・・そうだな、そちらもこっちの邪魔をしない程度に協力していただきたい」


互いに思うところはあるだろうがとりあえず形式上握手を交わし表面上は笑って友好を示す


大人になったらこういうことばかりやらされるのかなと僅かに嫌気がさしながら机の上におかれた資料を軽く目に入れる


「君はこれからどうするんだい?まずはホテル?」


「これから決めます、とりあえず状況を簡単に説明していただけますか?この先どんな行動をとるつもりで?」


この日の行動は軍の行動によって左右される、犯人のエドモンドを捕獲するにあたって接触したなら確実に悪魔との戦闘が予想される、静希の出番はそこだ


自分の役目、いやメフィの役目は悪魔との戦闘、静希はメフィが暴走しないように制御することだ


もっとも制御できるかなど分からないが


「資料は目を通しているだろうから現状の説明をする、先日逃げたエドモンドはまだ市街地に潜伏中、各種交通に検問を敷き包囲網を作っている、今のところエドモンドがこの包囲網に接触したという連絡は入っていない」


「つまり、まだこの包囲網の中にいる」


地図上に描かれた円形、ロンドン大学を中心に半径五キロ弱の大きな範囲に静希は頭を痛める


こうして紙面で見るとそう大した広さでないように思えるが相当の広さだ、人海戦術で探すにしてもこの広さなら隠れる場所などいくらでもある


「目標の目撃情報などは?」


「日中は地元警察に協力を要請して聞き込みを行ってもらっている、我々も一度接触したが、逃がしてしまった」


「接触したんですか!?良く無事でしたね」


「負傷者は多数出たが死者はいなかった、運がよかったのかどうかはわからんがな」


悪魔と接触し戦闘を行ったのであれば負傷は免れない、実際に戦闘を行った静希だからこそ理解できるがメフィがかなり手を抜いて戦ってあれだけ一方的にやられるのだ


相手の悪魔がどの程度力を持っているかは不明だがすでに殺人を犯している人物が軍相手に手を抜かせるなどということは考えにくい


だとすれば悪魔の実力か、軍の実力か、それとも運か


どちらにせよ死者を出さずに生き延びているのは流石というべきだろう


「今はこの街の監視カメラなどを使っての捜査と索敵可能な隊員を街にだして索敵を行っている、君の出番は今のところは無いな」


出る幕ではない、それは静希も同意だった


索敵などに関しては静希はまったくの門外漢、実際に矢面に立つのも得意ではないがとりあえず今自分にできることは無い


「報道などは?マスコミはこの事を知っているんですか?」


「いや、今回の件は国主体の極秘のプロジェクトが関わっている、政府と軍、警察が共同になって情報統制している」


さすがにこの失態を触れまわるほどバカではないということだろうか


日本のマスコミもそうだが基本的に能力関係の報道は少々大げさにされてしまう


能力者が危険であるという扇動は面白いくらいに民衆の不安をあおる、それは新たな情報への渇望になり視聴率も確保される


マスコミとしては能力者が悪役になればなるほど儲かるのだ


こちらとしてはたまったものではない


そのことを考えればこの情報統制は非常に有り難いものだ


「ところで、君の実力は信用していいのか?」


やはりこんな子供では信用に欠けるのか静希を見て僅かに疑い、いや心配そうな目を向けてくる


こんな子供を巻き込むのは気が引けるのか、それとも何か思う節があるのか


「ご心配なく、悪魔の扱いは慣れてます、少なくとも貴方達よりは」


何せ日々の生活の中に悪魔がいるのだ、少なくともメフィの扱いは慣れたものだ


他の悪魔がどのような対応になるかは分からないがすでに何通りか接触時の行動も決めた


後は実際に動くだけである


「ではとりあえず俺はホテルに荷物を置きに行きます、何かあれば『案内役』のニコラスに連絡してください」


一部強調して静希は部屋から出ていく


外で待っていた大野と小岩に軽く礼を言ってホテルへと移動することになる


「どうだった?向こうの隊長は」


「上手く動けそう?」


「正直今のところは良くわからないですけど、優秀な部隊だと思いますよ、とっても」


ニコラスにも聞こえるように笑みを含めて優秀であると言い放つ


僅かに皮肉が込められている事にこの場の全員気付いていなかった


「ここが今回宿泊するホテルだ、今からカメラとか確認するからちょっと待っててくれ」


受付を済ませ部屋の内部を確認し、問題ないことが分かると静希は部屋の中に荷物を運びこむ


「すまないが経費の問題で一つしか部屋をとれなかったんだ、我慢してくれるとありがたい」


「構いませんよ、とりあえずうちの連中を紹介しましょう」


四つのベッドと大きなテーブルの置かれた部屋に入りながら静希はベッドの上に腰掛ける


大野と小岩もそれに続き、それぞれ荷物を置いて私物を取り出し始める


「一応確認しておきたいんですけど、町崎さんから俺の事をどこまで聞いてますか?」


静希の問いに二人は顔を見合わせて手帳を見る


「俺が聞いたのは、君が喜吉学園に通っている生徒で悪魔の契約者であるということ、すでに完全奇形との戦闘を経験し、相当優秀であることまでは聞いてる」


大野の知っていることはとりあえずそこまでのようだが、小岩はそれだけではないようだ


「私は、城島先輩から聞いたんだけど、それだけじゃないと」


どうやら城島の言っていた後輩というのは小岩のことだったらしい


そして城島自身ある程度の情報は小岩に流していたようだ


今回の任務を円滑に進めるための事前準備というやつだろうか、まぁどちらにせよ説明が省ければ楽なものである


「じゃあとりあえずこのことは口外しないでください、上司部下、誰にも話してはいけません、もし話した場合は・・・」


「わかっているわ、城島先輩からきつく言われてるから」


こういう細かい気配りができるのは城島の良いところだ、なのになぜあんなに大雑把で強引な性格をしているのかが分からない


大野も口外しないと強く約束したうえで静希はトランプの中の住人を紹介しようとしたのだが、口で説明するより実際見た方がいいと思いベッドに腰掛けて懐をまさぐる


「とりあえず全員に会った方が早いですね、説明はそれからということで」


静希が合図をするとトランプの中の人外達が部屋の中に現れる


何の予兆もなく現れた異質な存在に大野と小岩が警戒するが静希の様子を見てそれが無意味であると察知する


「まず右から、俺の契約している悪魔メフィストフェレス、俺の守護をしてる神格邪薙原山尊、俺の剣、霊装オルビア・リーヴァス、そんで俺の頭の上にいるのが使い魔のフィアです」


全員がそれぞれ挨拶したのだが大野と小岩の反応は無い


いや反応はしている、二人とも大口開けて唖然としている


これが当然の反応だろうなと静希は僅かにため息をつきながら自由になった人外達をおとなしくさせる


「シズキ、こいつらに話しちゃっていいわけ?どっかに情報リークするかもよ?」


「町崎さんの部下で先生の後輩だ、ある程度信用できるだろうよ、もし口外されたら、そんときゃそんときだよ」


もしその場合は是非もなしねとメフィは邪な笑みを浮かべながら大野と小岩を見る


その瞳は口外すればお前達の命は無いと暗喩しているようだった


メフィは空中を浮遊しながらゆったりとくつろぎ、邪薙は座禅、オルビアは静希の後ろに静かに立っておりフィアは静希の頭の上で眠っている


とりあえず感想を聞きたいのだが未だ二人は情報の処理が追い付いていないらしく疑問符をいくつも飛ばしながら必死に現状を理解しようと試みていた


「とりあえず、お二人は俺の護衛ということでしたけど・・・」


普段静希を守るのは悪魔、神格、霊装、奇形種の使い魔


正直ここにさらに人間が加わるような隙は無い


「お、俺達正直いらないんじゃないか?」


「先輩め・・・なんかニヤニヤしてるからおかしいと思ったのよ・・・!」


いちばんご愁傷さまと言いたいのは小岩だ、恐らく仕事でいけない城島に頼まれてこの仕事を引き受けたのだろうが、面倒事のランクが想像していたのより数段上である


「正直なところ、悪魔に対しての護衛に関しては邪薙がいますから身を守ることはできるんですが、対人に関してはお二人に頼ることになります」


この国でも静希の立ち位置は日本から派遣された悪魔の契約者というものだ


それは静希が学期末の交流会で悪魔を使役しているところを海外の有力者にみられたのが原因である


実は神格と霊装も持っていましたなんて事が知られたら面倒事が加速しかねない


「で、でも実際君を人から守ることなんてないんじゃ・・・」


「ありますよ、俺は攻撃はそこそこできますけど防御はからっきしなんです、それに大人の人を相手取るのは難しいですよ」


実際静希は防御面で非常に弱い


以前敵対した淀川のように現象系でなおかつ重量のない光を媒介としているものであればそれなりに対処できたが、あれも偶然の産物


物質系の攻撃に対して静希は防御手段を持たない


無論邪薙の力を借りれば防御は可能だ


だが肉薄されての体術等の高速攻撃に対し障壁は逆に行動範囲を狭める事になる


しかも街中で攻撃されそれを障壁で防げば明らかに能力であるというのを見せびらかすことになる


静希は今相手側には同調系統であるという誤解を作っている


そこにさらに障壁などを作り出す能力を見せてしまっては面倒な誤解を生む可能性がある


面倒かもしれないがここは海外、しかも静希はゲストとして呼ばれている身だ


相手が悪魔である以上味方の中に敵を作る訳にはいかない


誤字報告が五件たまったのでまとめて投稿


だけど誤字がわいて出るように見つかりますな


これからもお楽しみいただければ幸いです

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