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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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食事と報告

感心していたのだが、その見解は間違っていたかもしれないと全員が思った


山の散策から帰った後、静希達は依頼主である村長の家で夕食を振る舞われていた


「ささ、先生、どうぞもう一杯」


「いやいやすみませんな」


さっきからずっとこの調子だ


村長であるこの家の主人に酒を注がれるままに飲みまくっている


用意された料理はどれも土地が生んだ豊潤な野菜、そして陽太好みの肉料理、大皿に乗せてだれでも食べられる様にしていた


非常においしく、元気の出る食事なのだが、いいところを見せた後にこの醜態である


先ほどまでの評価を一気に覆す体たらく、手のひら返しもいいところだ


「そうだ、お前達、一応ご主人に今日の経過を報告しておけ、依頼人に中間報告だ」


そう言われて全員が班長の鏡花を見つめる、おいしそうに野菜のてんぷらを頬張りかけていた鏡花は咳払いをして先ほどまとめた途中経過を読み上げる


「現在わかっていることは、目標が何らかの能力を保持しているということ、恐らく発現か付与系統、詳細は不明、村の西部に位置する破壊されたフェンスを侵入経路にしていると思われ、その先にある山や洞窟内部から目標のものと思われる痕跡をいくつか発見、村西部の山岳地帯をねぐらにしている可能性があります、それと・・・」


鏡花は静希に目配せをし、そこから先の説明を求めた


明利の能力を詳しく把握していない鏡花ではこれ以上の説明は難しいかもしれない


「説明を引き継ぎます、うちの班の幹原明利の能力によりフェンス近くおよび村の外周部の木々にマーキングをし常時索敵できるようにしてあります、もし目標が来た場合即座に反応できます」


できうる限りわかりやすい説明に主人も奥さんも驚いたのか拍手し始める


その拍手は鏡花、静希、そして明利に贈られたものだった


陽太は我関せずと料理を喰らっている、城島も同じくだ


「あと、一つ気になることがありまして、山に動物の姿が見られませんでした、昆虫などを除き、哺乳動物、鳥類などを一切見かけませんでした」


その進言に城島の箸が止まる


「それでお聞きしたいんですが、この一週間、または二週間以内で山に何か異常はありませんでしたか?大きな音がしたとか、動物がたくさん鳴く声が聞こえたとか」


主人と奥さんはお互いに目を見合わせて首をかしげる


「すまない、そういった記憶はないんだが・・・」


「そうですか・・・」


さすがにこの件はわかりようがないか、山の生き物なんてどう動くかわかったものではない、ふもとに生きる人だってそれを知るすべはない


だがまだ引っ掛かることはある


「そうだ、この村の被害は一週間前ほどから増えていると資料にもありましたけど、それ以外にはなかったんですか?」


「と言いますと?」


静希の言葉に主人は首をかしげる


今回鏡花達が聞いて回った中にはこの一週間の被害しか記録されていない、それ以外に村人が思い出すのが難しいというのもあるだろうが、問題はそこではない


「この動物が現れる前、一週間より前にはこういった動物による作物の被害はなかったんでしょうか?たとえば、大雨の後だったり、気候が不安定だった頃など」


「ふむ・・・特に記憶はないな・・・あのフェンスができてからは動物もたまに村に迷い込む程度で作物をそこまで荒らすということはなかったと思う」


「そうですか、ありがとうございます」


「いやいや、熱心な学生さんで何より、これなら解決するのも時間の問題ですな、こちらも安心して床につけるというものです」


そう言って主人は自慢の野菜を口の中に放り込んでいく、新鮮なだけあって歯ごたえも十分、咀嚼するたびに新鮮な噛砕く音が聞こえてくる


「いやあ、立派な生徒さんですなあ、鼻が高いでしょう?」


「いえ、彼らはまだまだ未熟です、私がしっかりと監督していなくては」


「先生、そういう時だけちゃんとするんですね」


「何を言うか、学園のメンツというものもあるんだ、当然だろう」


自分達と話すときだけはこのラフになりよう、この切り替えの早さだけは見習うべきところだろうか


「静希君、さっきのどういうこと?」


明利の言葉に静希は頭をかきむしる


「一週間より前にってやつね、私も気になるわ、何であんなこときいたの?」


今回の静希達の任務は作物を荒らす獣の討伐、先ほどの質問がそれに必要なものとは鏡花は思えなかった


「いや、この生き物が今までずっとここらにいたとして、村に来なくちゃいけない理由があったのか、逆に今までいなかった生き物がここまで来る理由があったとして、それは一体何だろうかと思って」


生き物は、野生動物は基本的に縄張りから出ない、食糧などの獲物がなくなった時やトラブルが発生して住めなくなった時しか動かない


一週間前、またはそれより前に何か起こったのだ、でなければ突然動物がこうも頻繁に人里に下りて食料をあさるなどあり得ない


「五十嵐の指摘はなにも間違ったものじゃない」


食事を止めるつもりのない引率教師城島だった


せめて口の中のものがなくなってから話せばいいのに、一向にその姿勢を崩すことはなかった


「結果としてこういうことが起こっているんだ、あらゆることに備えるために原因と過程を考察することも悪いことじゃあない、今は夜だ、好きに考えて悩め」


教員らしくない態度で教員らしいことを言う


全員が半ばあきれたが言っていることはもっともだ


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