転移移動
「いやぁ五十嵐君、待ってたよ」
「すいません遅くなりまして」
お互い駆け寄りながらとりあえず合流はできたのだが、ここからが問題だ
町崎の後ろにいる二名の隊員、一人は背が高くがっしりした体型の男性、もう一人は細く、すらりとした女性
「この二人が今回君に同行する、大野と小岩だ」
「大野純太だ、よろしく」
「小岩真奈美よ、よろしくね」
「五十嵐静希です、よろしくお願いします」
二人とあいさつがてら握手しながら静希は二人の顔を覚える
協力してくれる人間が付いてくれるというのは非常にありがたい
もしこれで単身イギリスにいけなどと言われたらさすがに不安になるところだった
「大野は君のボディガード、小岩は通訳としても活躍してもらう」
通訳と聞いて静希は思い出す
オルビアはその場にいる人間とであれば意思疎通ができる
そう考えると通訳は必要ないのではないか
『オルビア、今回は通訳頼めるか?』
『かしこまりました、現地に着いてからの会話はお任せください』
オルビアに了承が取れ次第静希は首を振る
「いえ、通訳は必要ありません、ただ文章などの翻訳はお願いします」
「あれ?君は同調系統なのかい?」
「みたいなものです」
同行者二名は静希の能力を知らない
その事を有効に使わせてもらおう
「ところで町崎さん、この二人は今回の事をどこまで知ってるんですか?」
「大体のことは知らせてある、できる限り君に協力するようにと言ってあるから自由に使ってくれ」
「わかりました、お二人とも、よろしくお願いします」
二人に頭を下げると、大野小岩両名とも少し困惑していた
どうしたのかと問いかけると決まりが悪そうに視線を合わせていた
「いや、悪魔の契約者という事を聞いてどんな子が来るのかと思っていたんだが」
「礼儀正しくてちょっとびっくりしたの」
「あぁ・・・俺自体はただの子供ですよ、そう気にしないでください」
事実静希自身はただの能力者の学生である
ただ少しだけ妙な存在に出会うことが多いだけで特にこれと言って強力な力があるわけでもない
静希は僅かに安心と不安を混ぜながら荷物の中からパスポートを取り出す
「じゃあ時間も押してることですし、出国手続きやってきます、今回転移能力を使うとのことですけど・・・」
「あぁ、いくつかの空港を経由しながら大体一時間で向こうに到着する、その間に資料に目を通しておくといい」
「わかりました」
静希は出国手続きを済ませ、今回の移動手段の転移能力者用の移動口へとやってくる
何人かの人がいるものの、他の窓口と比べ非常に数が少ない
「じゃあ健闘を祈る、大野、小岩、五十嵐君を頼むぞ」
「「了解しました」」
二人が敬礼したのを見届けて町崎も敬礼しその場から去っていく
敬礼を解いた瞬間二人は僅かにため息をついて空気を緩める
「五十嵐君は転移能力者での移動は初めてかい?」
「はい、何度か転移能力持ってる奴に飛ばされたことはあるんですが、長距離移動は初めてです」
「なら、転移酔いしないといいけど・・・酔い止め買っておく?」
「そうですね、一応買っておきましょう」
転移酔いとは短時間に何度も転移されることによって起こる乗り物酔いに近い現象である
唐突に周囲の状況が変化することに耐えられずに起こる作用だとされているが静希は未だこの症状にはかかったことがない
時間となり静希、大野、小岩の三人は能力者のいるゲートへと向かう
その先には覆面で顔を隠した人物が待っていた
「確認いたします、五十嵐静希様、大野純太様、小岩真奈美様でよろしいですね?」
小岩が代表して用意してあったチケットとパスポートを提示すると覆面はそのまま黙って頷く
「確認いたしました、目的地はイギリスロンドンヒースロー空港、経由ルートは四番を使用、転移開始します」
能力者の声が終わると同時に周囲の景色が変わる
先ほどまでいた成田空港ではない別の空港に転移したようだった
「一回の転移に約五分から十分の休憩をはさむのでご了承ください、準備ができ次第アナウンスいたします」
どうやらそう何回も連発できる能力ではないようだ
思えば当然かもしれない
ここがどこの空港かは分からないがとりあえず日本ではない、その距離を一度で転移したのだ、疲労がない方がおかしいだろう
静希は近くの椅子に座り城島から渡された資料に目を通し始める
その量ははっきり言えば半端ではない
なぜこのような事件が起こったのか、当時の状況や内容まで事細かに記されている
だがそのほとんどは事件に関与した人間の情報ばかり、事件に対しての内容だけ見ればそれほどたいした量ではないのがうかがえた




