表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

296/1032

夏休みの面倒事

八月が始まってまだ数日、相変わらず夏独特の強い湿気と日差しが襲いかかる中、静希と明利は相変わらず訓練にいそしんでいた


基礎的な体力強化に加え静希は障害物ありの銃撃戦や潜行訓練、明利は医学と狙撃訓練


静希は身体を動かすばかりなのだが明利はどうやら医師免許を目指すらしくかなり本格的に医学の勉強を始めているらしい


この国の能力者の資格制度は知識と実力さえあればある程度取得は可能だが医師免許はその中の例外にカテゴライズされる


本来医師免許の取得には医師国家試験に合格すればよいが、その受験資格に医大で六年間学び医学士を取得しなければならない


要するに医大を卒業したのちに国家試験に合格すればよいのだ


だが能力者の場合それが少し異なる


能力者の医師免許取得条件の一つは医師免許を所有している者の指導を半年以上受け、なおかつ特殊試験に合格することが条件となる


特殊試験とは有り体に言えば通常試験より数倍難易度の高い試験である


もちろん能力者が医大を卒業すれば通常の試験を受けることも可能だが、そもそも能力者では医大に入学することすら難しい


その為に作られた制度でもあり能力者で医師免許を持っている人物はほとんどが特殊試験を受験している


ちなみにこの制度が実施されてから実際に医師免許を取得した能力者は三桁に届かない


そんな無茶な努力をしている明利とは対照的に静希は取れる免許を片っ端から取ることにしていた


特に今欲しいのは運転免許


しかも鳥海達があれやこれやと仕込むせいで他にもいくつもの免許を取得させられそうだった


とりあえず鳥海達からすると知識と技術をすらすら身につける後輩を見つけて嬉しいらしく暇さえあれば訓練内容に組み込んでくるのだ


中には免許だけではなく女装やら変装、組み手や仕込み武器を習わされ、果ては高高度降下訓練までやらされるところだった


「うわー、やってるわね」


静希が何度目かの死亡を記録した時、訓練場に聞き覚えのある声が聞こえてくる


我らが一班班長清水鏡花だった


「あれ?どうしたんだこんなところに、陽太との訓練はどうしたよ?」


「あー・・・うん、はかどってはいるのよ、でもちょっと問題が起きてね、先生に相談したらここを紹介されて、鳥海さんいる?」


「いるよ、たぶん今あの物陰に隠れてる」


何で隠れてるのよと悪態をつきながら鳥海の隠れていると思われる物陰に近づくとその体に銃口が向けられる


一瞬反応が遅れて鏡花は身体を硬直させるが鳥海も銃口の先にいるのが静希ではないと気付き笑いながら立ち上がる


「なんだ、びっくりした、いつもの調子で撃ち殺しちゃうところだったよ」


「怖いこと言わないでくださいよ・・・城島先生から話は通ってると伺ったのですが」


銃を向けられること自体慣れていない鏡花は怯えを含んだ目で銃を見る


「あぁ、聞いてるよ、あっちの六番格納庫に在るから自由に見るといい、壊さないでくれよ?」


「わかってます、それじゃ静希、がんばってね」


鏡花はそれだけ言ってそそくさとその場から離れて行く


その直後に銃撃戦が再開されまたも静希の死亡数が一つ増える


一体何度殺されただろうかと考えるのも億劫になってきたころ、一人の隊員が二人に向けて手を振りながら走ってくる


「隊長、喜吉学園の城島さんからお電話です」


「またか?今度はなんのようだ?」


「いえ、今度の要件は隊長へではなく五十嵐宛だそうです」


物陰からその会話を聞いていた静希は眉間にしわを寄せる


城島が自分にわざわざ電話をしてくる時点で嫌な予感がする


一旦訓練が休止になっている状態でカバンの中に入れた携帯を確認してみると城島からの着信が何件も連なっている


これは本格的に面倒事の匂いがするぞと部隊の使っている宿舎の電話窓口まで走って受話器に耳を当てる


「もしもし」


『遅い!何度電話したと思ってるんだお前は!』


聞こえてきたのはいきなりの怒号


鼓膜が破れるのではないかと思えるほどの大声に静希は耳を押さえながらもう電話を切ってしまいたいという欲求にかられる


だがそんなことをすればもっと大きな怒号がやってくるに決まっている


「あの・・・訓練中だったんで出られなかったんです・・・何か用ですか?」


『まったく間の悪い・・・今そこに誰かいるか?』


城島の言葉に周囲を見回すと受付カウンターの中に一人、静希の後ろに隊員が一人


通路に他の人影は見当たらない


「えぇ、受付の人とかいますけど」


『なら話す訳にはいかんな、今すぐ制服に着替えて職員室に来い』


「は?ちょ・・・ちょっと待って下さいよ、何でいきなり」


突然電話がかかってきたかと思えばすぐに学校に来いなどと、どういう風の吹きまわしか


その声の緊迫した具合から宿題の配布忘れでもあったなどというしょうもない内容ではなさそうだ


『話している暇はない、大至急だ、異論は聞かん、状況が状況なんでな』


城島の声は焦りとも苛立ちとも取れる独特の抑揚がある


その声を聞いているだけで静希からすればもうどんなことが起こってもいいように心構えだけでもしておけと言われているようなものだった


「急ぎなら鏡花に伝言でも頼めば良かったのに」


『転がり込んできたのはついさっき、清水が相談に来たのは午前、どうあがいても間に合わん』


どういうことなのだろうか、先ほど案件が転がり込んですぐ自分を呼ぶなどと明らかに異常だ


「明利達も連れて行きますか?班での活動なら」


『いや、今回はお前だけでだ・・・いいから早く来い!』


城島は要件を言うだけ言って通話を終わらせてしまう


何という身勝手だろうか、こちらの予定はすべて無視


逆に言えばそれだけの事態だということなのだろうが、静希からすればたまったものではない


「城島はなんだって?」


訓練場に戻ると鳥海が静希に銃を渡しながらニヤニヤとした笑みを浮かべる


「今すぐ学校に来いだそうです・・・今日の訓練は申し訳ないですけどここまでですね」


「なんだ、ヘリの操作法でも教えてやろうと思ってたんだが・・・」


非常に嬉しい申し出なのだが苦笑しながら静希はすぐに着替える


慌ただしく準備をしている間に明利も射撃訓練を終えたのか荷物の置いてある場所に戻ってきていた


「あれ?どうしたの?」


「あぁ・・・城島先生に呼ばれてな、ちょっと学校行ってくる、悪いが今日はこのままあがりだな」


そう、と明利は少し残念そうにしているがそういう事情であれば仕方がないといったふうだ


「でもなんで呼び出されたんだろうね?」


「さあな、面倒事じゃないといいけど・・・たぶん面倒事だろうな・・・」


半ばあきらめながら静希は身支度を終え、明利に別れを告げながらとりあえず自宅へ戻りすぐに制服に着替え学校へと急ぐ


夏休みにもかかわらず制服を着て校内にいる生徒は何人かいる


実習の打ち合わせだったり事後報告だったり、自己鍛錬だったりと意外と生徒は学校に来ることが多い


そんな中静希はまっすぐに城島の待つであろう職員室に足を運ぶ


「失礼します、先生、一体何用・・・ですか?」


城島のいるデスクに近づくとその表情ではなく空気で彼女が不機嫌であることを悟る


「あぁ、来たか・・・ついてこい」


城島はそう言って静希を引きずって移動し始める


「あ、あの先生、一応事情とか内容とかを説明してくれると助かるんですが」


自分が何かやらかしてしまったのではないかとドギマギしているのだが、その怒りはどうやら静希に向けられているものではないらしい


応接室の扉を開けて中に入ると、静希は部屋のソファに座る一人の人物に目が行く


「彼が件の?」


「えぇ、五十嵐静希です」


状況が分からない、だが今目の前にいる黒髪の男性、日本人のようなのだがその姿勢は正しく、スーツも上質な物を着ているのにその顔はやややつれている


「五十嵐、こちらは能力管制委員会外交部の寺井さんだ」


「寺井です、どうぞよろしく」


「は、はぁ・・・どうも、五十嵐静希です」


訳もわからず紹介され握手され、静希は何がなにやら頭が混乱する


一体何事だろうか、何故この場に自分がいるのだろうか


正直今すぐ帰りたい


「では本題に入りましょう、五十嵐、お前はこれからイギリスに飛んでもらう」


「・・・は?」


本題に入ると言われてどんな事を言われるかと思いきやいきなり何を言っているのだと処理が追い付かない


おもわず素っ頓狂な声をあげてしまい静希は何度か城島と寺井の顔を見比べて首をかしげる


「いやすまん、いきなり話が飛びすぎたな、お前に直接指名で任務が入った、イギリスに出張してくれ」


「い、いやいやいやいや、先生、俺学生です、任務とか出張とかできないですよ!?」


突拍子もない話に静希の頭はさらに混乱する


何故自分が海外に出張しなくてはならないのか


「率直に言おう、この案件には悪魔が関わっている」


「っ!?」


小声で耳打ちされると同時に静希の顔が強張る


寺井には聞かれていないようだが静希の内心は穏やかではない


「寺井さん、軽く説明をお願いします」


「えぇ、午前中、イギリスにある委員会の支部から入電がありまして、ある事件の解決に五十嵐静希氏の協力を要請するという内容なのですが・・・」


寺井が視線をそらすと、城島は部屋においてあった寺井の物と思わしきカバンから紙の束を取り出す


「内容に関しては私の方に通達されている、これがその資料だ、目を通しておけ」


城島が資料の束を静希に渡す


かなり資料は多く、厚さ十センチはありそうな紙の束だ


今回から九話がスタートです



誤字報告が五件たまったのでまとめて投稿でもあります


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ