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J/53  作者: 池金啓太
八話「私の声が届く理由」

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十六になった日

この班の人間はある種の才能にあふれている


陽太は前衛として頑強な身体と、少々扱いにくいところもあるがそれに見合った能力


明利は後方支援として確かな知識と応用性の高い能力、そして明利自身の治癒に対しての心構えといざという時の度胸強さ、少々身体能力が低いところも簡単にカバーできる


鏡花は言うまでもなく文武両道、能力も勉学も身体能力も高い値を出している


それに比べ静希は見劣りするところが多い


身体能力は平均より少し上程度、勉学などは比較的高いが能力は低い、前衛としては欠陥が多く、後方支援としては役に立たない、中衛援護として行動することが多いがなにが得意といわれると少し首をかしげる


物理的攻撃力もさして高くない、現象系の攻撃に関してはほぼ皆無


対人や対生物に関しての攻撃力が多少ある


自分には才能がある、だが静希には特定の、誰かより秀でた才能は無い


そのほとんどは努力で勝ちとってきたものである


もっとも悪魔、神格、霊装、使い魔に関してはその限りではない


教師陣、特に城島から静希は厄介事の中心のように思われていることが多い


実際静希が関わることは大抵厄介事や面倒事なのだが、それは静希のせいではなく、ただ不運なだけである


そういう意味では鏡花や明利、陽太も十分不運といえる


「静希の得意な事ってなんなのかしら?」


「え?どうしたの突然?」


不意に呟いた鏡花に明利は首をかしげる


鏡花も何となく言っただけなので深い意味は無いのだが、少し気になったのだ


「だって、静希が誰かより強いとかすごいとか、そういうのあんまり聞いたことないじゃない?」


「そ、そんなこと言ったら私だってそうだよ、あんまり得意なことないし」


「明利は料理上手だし、植物育てるのも上手じゃない、陽太は運動神経すごくいいし・・・自画自賛になるけど私は能力強いし」


自分の事を高く評価するのはあまり得意ではないのか少しだけ躊躇いながら鏡花は各員の評価を付けて行く


そう考えると静希はとても平均的だ


身体的、技術的、どれも他人より秀でたところがあるとは言えない


「それに比べて静希って何か地味っていうか特色がないっていうか」


「随分と俺の評価が低いみたいじゃないか?班長さんよ」


いつの間にか背後に回られていた鏡花はうげと嫌な顔をして振り返る


「なんだ、聞いてたのね」


「この距離だと嫌でも聞こえるっつーの、悪かったな才能なくて」


聞かれてはまずい話を聞かれたなと苦笑いしながら明利と顔を合わせる


本人からすれば気にしているところど真ん中だっただろうに、悪い事をした


「でもあんただって得意なことの一つや二つあるでしょ?何かないの?」


「得意なことか・・・そうだな・・・強いて言えばジャグリングが得意だな」


「は?ジャグリング?」


予想外の答えに鏡花は疑問符を飛ばす


ジャグリングといえば複数の物体を空中に放り投げ続ける大道芸の一種である


ピンやボール、中には椅子なんてものを投げてジャグリングしている芸人を鏡花も一度だが見たことがある


「最初は雪姉のナイフ訓練の一環だったんだけど、何かああいうのだけ上手く出来てな、やって見せようか?」


少し気になった鏡花が首を縦に振ると静希はトランプの中からいくつかの自分の道具を取り出す


スタンロッドやティーカップ、財布や手帳などといった小物を次々と投げ続けていく


投げられた小物は次々と落下してくるがその度に空中へと投げられ安定しながらまた落ちてくる


「おぉ、なかなか見事なもんね・・・ほい」


鏡花はにやりと笑いながら自分の履いていたスリッパを静希に向けて投げる


一瞬あわてながらもスリッパをキャッチし、投げる間隔を調整しながら再び安定させる


「へえ、これは結構すごいわね、他になんか技は無いの?」


「ちょっと待ってろ」


静希は投げる間隔を変えていき片手だけで投げる手法へと変える


「こういった才能があったとは意外だわ・・・でもなんていうか」


「わかってる、わかってるから言うな」


投げられていたものを全てキャッチして静希はうなだれる


そう、こういった才能は確かにあるのだろう


だが地味だ、実際この才能を活かしてなにができると言われると非常に困る


「他になんかないの?こう、実習にも活かせそうな特技は」


「んん・・・他に・・・隠れるのは上手いぞ?」


「確かに、昔からかくれんぼ得意だったよね、あと手先も器用だよね、細かい作業とかそういうの」


実際静希は隠れたり潜んだりすることが得意だが、なんだか酷く地味な特技だ


そして手先が器用というのも、訓練しながらいろいろと叩きこまれている中でもとても実用性の高い特技というか特性とも言えるだろう


実益は確かにあるのだろうが見ていて切なくなってくる


「あー・・・悪かったわ、あんたは才能じゃなくて努力の人なのね」


「その言い方何か引っかかるな、けどまぁ、ようやく剣術もまともになってきたしな、この調子で射撃も身につけるさ」


何の才能もなく、努力だけで身に付けたにしては静希の剣術は鋭く、的確だ


それは指導者が優秀なのだろう


剣の指南役であるオルビアと実戦相手の雪奈


どちらも剣術の達人、そういう意味で静希は環境には恵まれているようだった


その後全員でケーキを食し、一通り昔話などに華を咲かせた後その場はお開きとなった


陽太と鏡花はその後特訓、静希と明利、雪奈は後片付けを少し手伝った後帰宅することとなった


「明ちゃんが十六歳かぁ・・・正直見えないよね」


「小学校のころから外見ほとんど変わってないからな、多分これからも変わらないだろ」


小学校高学年の頃から明利の身長はミリ単位での成長しか遂げていない


スタイルも何もかも昔のままだ


植物などを成長させるだけの能力を持っているのに自分の成長は促せないとは悲しすぎる


「それに比べ私はどうだい?しっかり大きくなったろう?」


「あー・・・そうだな、大きくなったよいろいろと」


身長だけでなく胸部的な意味でも雪奈は大きい


明利と違ってなぜこうも立派に育ったのか気になるほどだ


「ところで静は今年はどんなプレゼントをしてくれるんだい?」


「またずいぶんと先の話を・・・」


雪奈の誕生日は十二月、季節を一つ飛び越える話を今しろというのだろうか


「じゃあ逆に聞くけど、なにが欲しいのさ」


「静は乙女心をわかってないな、そういうのは言わなくても察してほしいんだよ、わかってくれてるんだなってことを確認したいんだよ」


「面倒な乙女心だな、そんなもんわかるわけないじゃんか」


実際なにも言っていないのに内容を当てろというのは同調系統でもない限り難しい


特に雪奈の場合欲しい物の移り変わりが激しいのだ


雪奈と共に買い物に行くとあれやこれやと次々と商品に目を奪われていく


「もういっそ今年はケーキだけでいいか?あれこれ悩むのも面倒だし」


「何てことを言うんだ!昔は笑顔で『何でも言うことききます券』を作って渡してくれたというのに・・・あの頃の可愛い静はどこに行ってしまったんだ・・・!」


何年前の話してんだよと呆れながら静希は大きくため息をつく


そもそもこの歳になってこの姉は弟離れできていない


血が繋がっていないのに実の姉弟より会話が多いのではないかと思えるほどだ


「そういえばあれってまだ有効なの?」


「あれって?」


「何でも言うことききます券」


雪奈の言葉に静希は一瞬思考を止めて過去を振り返る


確かに自分は昔そんなことを書いた券を雪奈に渡した


その記憶はある、だがそれを使用された記憶がない


「・・・まだ使ってなかったっけ?」


「大事に大事にとってあるよ?」


「・・・消費期限切れって効くかな?」


「ダメー」


一番やってはいけないものを渡してしまった過去の自分を強く叱咤する


よりにもよってこんな厄介な幼馴染にそんな面倒なものを渡してしまうとは


「ふふん、なら帰ってからさっそく使おうかな?どんなふうに使われたい?」


「そうだな、そんな非情な内容でなきゃいいかな」


「そうかそうか・・・あ、いやこのまま取っておいて大事な時に使うというのも・・・」


変なふうに考え始めたのか雪奈の笑みは止まらない


何を考えているのかさっぱり分からないがとりあえず静希にとって良いことではないだろう


本当に過去の自分は何故あんなものを渡したのか


そして雪奈は何故今まで取っておいたのか


ふと住宅街の道を子供たちが全力疾走していく


この暑いのになぜああも元気なのかと思うが、雪奈も何か思うところがあったのか子供達を見て目を細める


「昔は楽しかったなぁ」


「今は楽しくないのか?」


「ううん、楽しいよ、楽しいけど・・・」


「子供の頃の方がよかった?」


静希の言葉に雪奈は唸りながら悩む


雪奈にとってイエスともノーともいいかねる、どちらが良いというものではない、どちらも良いのだ


「昔はほら、考えるだけの頭がなかったからさ、今を精いっぱいにって感じだったけど、今は先の事も考えられるでしょ?そういう意味では今の方が楽しい、けど昔の今だけ楽しむっていうのも結構好きだったよ」


「今も昔もあまり変わってないように思えるけど?」


「なにそれ、私が考えなしだってか?」


さあねとかわしながら静希はマンションへと戻っていく


二人が自分達の部屋に戻る前に静希は雪奈を呼びとめる


「ちゃんと誕生日プレゼント考えとくから、あんま期待はしないでくれよ?」


「・・・うん、わかった、私もあの券の使い道考えとくよ」


機嫌を良くしながら雪奈は部屋に入っていく


どちらにせよ雪奈の誕生日プレゼントは当分先だ


静希は思案を重ねながらとりあえずトランプの中の住人を部屋に出しながら洗濯ものを取り込み始める


静希達が昔から知っている小さな幼馴染明利が十六になったこの日、二人はいつものように床につく


そして十六になった幼馴染も同じように、また毎日を過ごしていく

お気に入り登録件数が900件突破しましたのでお祝いとして複数まとめて投稿


お気に入り登録1,000件が見えてきた!やる気がみなぎる!


これからも拙くミスも多い物語ですがお楽しみいただければ幸いです


次回から9話が始まります、8話はかなり短い分9話は少し長いです



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