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J/53  作者: 池金啓太
八話「私の声が届く理由」

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私の声が届く理由

泣きながら自分の気持ちを漏らす明利を見ながら、静希は真剣な顔をする


幼いながら、その表情はまっすぐで、僅かな怒りを覚えているようだった


「めいり、俺をおまえんちにつれてけ」


「え・・・?」


「いいから、いくぞ!」


「え?えぇ!?」


唐突に自分を引っ張って動き出す静希に狼狽しながらも明利は静希を自分の家まで案内する


家の中に入ると明利の両親は口論を続けているようだった


さすがに一つのテーマで長く口論を続けるのにも限界があるのかもはや明利の話から日々の不満をぶつけるようなものになってしまっている


明利が帰ってきたことに気付き、そして明利が静希を連れている事に気付いたのか二人は少々怪訝な顔をする


「帰ったか明利、その子は?」


「めいりの友達です」


静希は父親に対し強い敵意を示している


眉間にしわを寄せて睨みつけている


「何であなたたちはケンカしてるんですか?」


二人はその言葉に一瞬ぎょっとしたが、すぐに静希を見る


「これは大人の問題だ、子供は口出ししないでくれ」


父親から放たれたのは明利も言われた言葉だ


明利はすでに静希の背中の後ろで小さくなってしまっている


争いや怒気の含まれた声自体が明利には恐ろしい


今すぐこの場から逃げてしまいたい


だが明利の手を握っている静希が大丈夫だと何度も明利に呟く


「口出しするなっていうなら、大人の問題に子供を巻き込むな!」


静希が吠えた


理不尽に向かって、それが正しいことだと思えなくて、声を出す


「めいりは言ってたぞ!ふたりが怖いって!ケンカしてて怒ってて怖かったって!ふたりにケンカしてほしくないって泣きながら言ってたぞ!」


静希は言葉をぶつけ続ける


明利の言葉をぶつけ続ける


明利が勇気を出して伝えたかった事を伝え続ける


そこには感情しかない、子供特有の真直ぐな思いしかない


「君になにがわかる、ただの子供が」


「わかるよ!めいりが泣いてた!そんな偉そうに口出しするなとかいうならめいりを泣かすな!」


静希の感情が暴走し始めその小さな体の周囲にトランプが顕現する


突然現れたトランプに、両親は驚愕して静希を見る


この子も能力者だと、即座に悟った


静希は相変わらず自分達に敵意を向けている


対して明利はその静希の後ろで怯えている


小刻みに震え両親に顔を合わせないように必死に身を縮めている


我が子の様子をようやく理解したのか二人は申し訳なさそうな顔をする


「め・・・明利・・・本当なの?」


母雫が静希の向こうの明利に声をかけるが、明利は怯えたままで返答できる状態ではなさそうだった


ここまで怯えさせていたのかと両親は今更になって自分たちが子供を省みなかったことに気付き後悔の念を浮かばせる


「めいり、だいじょうぶだ、だいじょうぶだからな」


手を握り頭を撫でながら静希が何度も囁くとゆっくりと明利は顔を上げる


「めいり、お父さんとお母さんに、どうしたいのか、どうしてほしいのか、もっかい言ってみな」


「・・・で・・・でも・・・」


今まで届かなかった声が今更届く訳がない


明利は僅かに涙を流しながら静希の背に隠れてしまう


「だいじょうぶ、届くよ、絶対にだいじょうぶだ、だから言ってみろ、お前ならできるって!」


朗らかに、それでいて力強く笑う静希に後押しされ、明利は両親の前に立つ


足が震え息が整わない


声を出そうとするが喉の奥でつっかえて言葉にできない


両親の視線が自分に刺さり、今すぐにでもどこかに逃げてしまいたい


それを見て静希は後ろから優しく背中を叩く


言い聞かせた大丈夫の言葉とともに


自分の後ろに静希がいるとしっかりと確認した明利はゆっくりと息を吸う


「お、お父さん・・・お母さん・・・わたしは、二人にケンカして・・・欲しくない・・・です、仲よくして欲しい、です・・・いっしょに・・・いっしょにいて、わらって、欲しいです」


後半はもはや涙を流しながらそれ以上言葉にできていなかった


怖さからか、ようやくいいたいことを言えたという嬉しさからか、明利はその後泣き始めてしまう


明利を慰めながら静希はまた明利の両親を見る


明利の両親は泣いてしまっている明利と静希を見比べながら申し訳なさそうな顔をしている


「君、名前は?」


「五十嵐静希です」


「そうか・・・静希君、ありがとう・・・私は、私達は一番見なければいけないものを見ていなかった・・・気付かせてくれてありがとう」


静希の近くによって泣き続けている明利の頭をそっとなでる


最初頭に手が添えられたことに驚き身を硬直させていたが、ゆっくりと自らの頭をなでるその手に敵意も恐怖も威圧もない事を悟ると明利は瞼から涙をさらにあふれさせて両親にすがりつく


些細な行き違いから始まった明利の家の仲違いはこうして終わり、明利は静希達と同じく能力専門の学校に通うこととなる


時間は現在に戻り、あらかた昔話を終えた明利は少し恥ずかしそうにしていた


「へぇ~、そんなことがねぇ・・・そりゃ惚れるのも無理ないわね?」


「べ、別にそういうのじゃ・・・あの時は子供だったし・・・でも・・・静希君のおかげでちゃんと言えたから・・・」


明利は頬を染めてリビングで談笑している静希達を横目で見る


その眼はただの同級生を見るものではない


込められた感情も感謝だけのものではない、鏡花は同じ女としてそれを理解していた


明利が声を出してしっかりと想いを告げられた理由は視線の先にいる静希のおかげなのだということも同様に理解していた


「別に隠さなくたってほとんどばれちゃってると思うけど、いいわね、昔からの付き合いってのも」


「鏡花さんはそういう人いないの?」


「私が中学までの頃って、正直ろくな奴がいなかったからなぁ・・・」


鏡花は転校する前の事を思い出すのだがあまりいい思い出は無い


特に中学に上がってからは嫌な思い出の方が多い


「特に私の場合、変に成績がいいから妬まれることも多くてね、変な奴も突っかかってきたし」


「あ・・・そういえば船の上でも言ってたね」


静希と陽太に粛清された淀川の事を思い出す


確かに成績が良ければそれなりに周りの嫉妬を買ってしまう


特に鏡花の場合勉学、能力、容姿全てが上位、妬まれない方がおかしいだろう


「明利との出会いはわかったけど、じゃああの三人はどうやって出会ったのかしら?明利があった時にはもう三人そろってたんでしょ?」


「うん、静希君が言うには一番付き合いが長いのは雪奈さんなんだって」


へえと談笑している静希達に視線を向ける


実際のところ静希、陽太、雪奈の昔の話は断片的に聞いているが根本的なことはあまり知らない


今度暇があれば聞いてみようかなと思いながら紅茶の入ったカップを傾ける


「そうだ、陽太君の特訓の方はどう?順調?」


「あ~・・・そうでもないのよ、形にはなってきてるんだけどね、むしろここからが大変ね」


陽太との特訓の内容を思い出しているのかこれからのプランを考えているのか鏡花は眉間にしわを寄せる


「船の上でも使おうとしてたみたいだけど、まだ使えないの?」


「実戦じゃ無理ね、準備に時間がかかり過ぎるし、使用回数も少なすぎるし、威力も弱い、もっと練度を上げないと」


そのうち鏡花は完全に思考モードになったのかあぁでもないこうでもないと思案を重ね始める


だが途中で自分が思考ループに陥っている事に気付いたのか頭を振ってこの話題をかき消していく


「そういうそっちは?静希と一緒に訓練してるんでしょ?少しは体力ついたの?」


「え、えと・・・まぁまぁかな?」


はにかみながら少し困ったような表情を浮かべているところを見るとあまりはかどってはいないんだなと察しながら同じく訓練をしているはずの静希に視線を向ける


「ちなみに、軍の訓練って銃も撃つの?」


「うん、実弾とペイント弾を何度か、私は狙撃が上手だって褒められたよ」


「静希は?」


「・・・えと・・・」


明利には僅かながらに狙撃の才能があり、遠距離射撃を伸ばしていけるだろうと称賛を受けたのだが、対して静希は射撃などの才能はあまりないようだった


近距離での射撃も訓練をしてようやく的に当てられるようになってきた程度だ


「そう・・・何て言うか、静希って才能に恵まれてないわよね」


「あはは・・・でも頑張ってるんだよ?毎日泥だらけになりながら訓練してるし」


「その努力が実ればいいけどね」


事実静希はそれほど才能に恵まれているという訳ではない


能力から始まりナイフの投擲、剣術、射撃、使えそうな技術に関しての才能はほとんどない


ようやく会得してきた剣術もそれは偏に日々の訓練のたまものだ


運動が得意という訳でもなく、能力が強いわけでもなく、誰かより秀でた物がある訳でもない


だがここぞという時の状況判断と度胸の良さは班でも一番だ


静希自身自分に才能がない事を自覚しているからこそ努力するのだろうが、実際どういう気持なのだろうかと鏡花は疑問に思った


誤字報告が五件たまったので複数まとめて投稿


正直言って過去話は苦手です、どう書いたらいいのか悩んでしまいます


まだまだ未熟ですがこれからもお楽しみいただければ幸いです

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