私の声が届くまで
「知らないやつだな、お前名前は?俺陽太!」
「え・・あ・・・ぁの・・・」
大きな声で満面の笑みを浮かべ自己紹介をするも明利にとっては一種の威圧に感じられた
身体を震わせて静希と雪奈の後ろに隠れてしまう
「おい陽太、女の子怖がらせるなよ」
「まったく、びっくりして隠れちゃったじゃないか」
「えぇ!?名前聞いただけじゃん!」
臆病な人間には声が大きいだけで恐怖を抱かせる
幼い子供である陽太もそしてその場にいる静希と雪奈も何故明利がおびえているのかが分からない
「ゆっくりでいいから言ってみ?俺は静希」
「私は雪奈、雪姉ちゃんって呼んでいいよ?」
「あ・・・ぅ・・・あの・・・」
何とか声を出そうとしているのだが声が出ない
怖くて声が出せない
静希はじっと待っていたのだが陽太と雪奈はだんだんじれったくなってきたのかうずうずし始める
「め・・・めい・・・り」
「めいりか!いい名前じゃんか!」
「めいり・・・だったらめいちゃんだね!」
静希と雪奈が朗らかに笑う
その中で陽太が少し不満そうにしている
「じゃあさっさと遊ぼうぜ、時間もったいないよ」
静希達は能力者だ、こうして誰かと遊べる時間をとれることは珍しい
故に遊べる時は思う存分遊ばなくては
「そうだな、めいり、お前も一緒に遊ばないか?」
「おぉ、そりゃいい!こんなとこにいたらコケ生えちゃうよ?」
「え・・・?あの」
明利の言うことなど聞かずさあさあ行こう行こうと二人に押されて明利は三人に連れられながらその日泥だらけになるまで遊ぶこととなる
遊ぶというより、ほとんど振り回されただけだったのだが、それでも明利は楽しかった
それからというもの、明利は良く公園に足を運んだ
また静希達に会えないかと毎日のように通ったが、静希達に会えるのは一週間に一回程度だった
遊べる時は大いに遊び、明利も静希達といる間は自然と笑顔になることが多くなっていた
そんなある日、明利は泣きながら公園に来ていた
父と母の口論がさらに強く、そして激しいものになったのだ
勇気を出して声をかけようとしたが「子供は黙っていなさい」と大声で叱られた
自分は喧嘩を止めてほしかった
だが自分が言っても届かなかった
「あれ?めいりか?」
以前のように遊具の中でうずくまっていると遊具の外から静希の声がする
遊具の中に入ってきた静希の顔を見るや否や明利は泣きだしてしまう
「え!?うえぇ?!ど、どどどどうしためいり!?誰かにいじめられたか?」
心配してくれている静希に必死に首を振って否定するのだが、涙と嗚咽が止まらず声を出すことができない
「・・・だ、だいじょうぶだぞめいり、だいじょうぶだ」
以前してくれたように背中をさすりながら頭をなでる静希
「なにがあったか分かんないけど、喋れるようになるまでまってるから、落ち着いたら話せ」
静希の言葉に明利は何度もうなずき、ひとしきり泣いた後、呼吸が落ち着いたあたりでゆっくりと話しだした
自分のせいで両親が喧嘩している事
勇気を出して止めてと言ってみたけどダメだった事
ひとしきり話した後、明利は後悔していた
明利は今まで自分が能力者であることを明かしていなかった
嫌われるのではないかと思っていた
「そっか、めいりって能力者だったのか、俺らと一緒だな」
「え?」
静希は驚く明利の目の前にトランプを飛翔させる
「ようやく近くなら動かせるようになったんだ、まだまだうまく動かせないけど」
静希のトランプは最初から自由自在に動かせたわけではない
長年の訓練によりどこへでも飛び複雑な動きにも対応できるようになってきたが、幼少時には自分の半径一メートル程度の場所しか飛ばせず、同時に操れるのも数枚がせいぜいだった
「でもなんでめいりが能力者だとケンカになるんだ?おかしいじゃんか」
「・・・わかんない、大人の問題だから、子供は口出しするなって・・・」
話している間にまた明利は泣きそうになってしまう
自分でもどうしたらいいのかわからない、どうしていいか分からないから悲しくなる
「ふたりとも・・・こわかった・・・ずっと怒ってて・・・ずっとケンカしてて・・・」
ついに明利は泣きだしてしまう
だが泣きじゃくりながらも言葉は涙と一緒にあふれ出してくる
「わた、わたしは・・・お父さんとお母さんに、仲よく・・・してほしいだけ・・・なのに・・・!声を出しても・・・届かなくて・・・!」
泣きながら明利は必死に自分の気持ちを吐きだす
あふれだした感情は能力を暴走させ、周囲の植物の生長を急激に促していく




