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J/53  作者: 池金啓太
八話「私の声が届く理由」

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幹原家の庭

「そういえばさ、去年陽太が贈ったっていう種?はどこにあるの?」


プレゼントを渡し終え、談笑しながら食事をしていると不意に鏡花が辺りを見回す


リビングにはいくつかの観葉植物があるものの、どれもかなり大きく育っていてここ一年で大きくなったものとは思えないものばかり


「それだったら庭にあるよ、ずいぶん大きくなったんだ」


嬉しそうに鏡花を庭の見える窓際まで連れて行きあれだよと指さすと鏡花の表情が変わる


明利の指さす先には普通の木はなかった


庭には多くの花や木があり、それぞれが青々と綺麗な花や葉を茂らせている


その中で一層強く自己主張している木がある


幹があり枝があり葉があるところは何の変わりもない木なのだが、その木の茂らせている葉が異常なのだ


一つの枝は扇状の葉を、一つの枝は針葉を、一つの枝は紅葉のような枝分かれした葉を、一つの枝は単葉


全ての枝で付けている葉の種類が全く異なるのだ


「あれって・・・ひょっとして多葉樹?」


「すごい!よくわかったね、ようやく安定してきたんだ」


朗らかに笑う明利に対し鏡花の顔はひきつりまくっている


「ちょっと陽太、あんたなんてもんプレゼントしてんのよ」


「いやぁ、姉貴に珍しい花の種とかないものかって相談したら送ってきてさ」


「誕生日にプレゼントにするもんじゃないわよあれ・・・」


鏡花は頭を抱えて呆れ果ててしまう


多葉樹、一本の木が複数の種類の葉を茂らせる珍しい植物だ


混生状態での品種改良の物もいくつか人工的につくられたりしたのだが、もともとは植物の奇形種の一つである


植物が能力を有していることが発見されたのは何百年も前に遡る


各国の古い文献のどこかには不思議な力を持った植物の記述が残されている


一年中花を咲かせ続ける魔法の桜であったり、どこまでも成長し続ける世界樹であったり、斬り倒そうとすると災いを起こす呪われた木であったりと様々な名と表現で記された植物は数知れない


近代になってようやくその能力の解明などが行われているのだが、人間などと違い植物は過度のストレスや命の危険を与えれば能力を使用するというものではないらしく、その研究は難航している


「ちなみにこれって、人工?それとも天然?」


人工的につくられた多葉樹ならばただの品種改良を加えられた木だから何の問題もない、だが天然の多葉樹ならばそれは動物の奇形種と同じ、高い能力適正を持った能力持ちの植物ということになる


「さあ?実月さんに電話で聞いてみたんだけど、わからないっていってた」


「・・・よくそんなものを庭に生やしておけるわね・・・」


明利の家の庭にある多葉樹がはたして人工的に作り出されたただの木か、それとも天然の多葉樹かは、この木が能力を使ってみるまでわからないということだ


「でもね、この子もようやくここまで育ったんだよ、季節の変わり目ごとに弱っちゃってたから心配してたんだけど、春ごろから安定してきててね」


「へえ、明利でも苦労したんだ」


明利の能力を使えばその生き物がどのような状態になっているかなど一目瞭然、いや触れてから理解できるのだから一触瞭然というべきだろうか?


それは動物だけに限らず植物でも同じである


栄養が足りていない、病気になっている、根の張り具合がよくない、傷ができているなど同調してしまえばそれこそ一瞬で分かってしまう


その明利がここまで植物に手を焼くのも珍しい


「うん、昨日まで栄養足りてたのに一晩経ったら葉がしおれてたなんてよくあったよ、すごく微妙な違いで弱っちゃったり、気難しい子なんだって思った」


一晩でそこまで変わるなど普通はすぐに枯れてしまう、ここまで育ったのは偏に明利の手腕と献身によるものだろう


嬉しそうに笑う明利とは対照的に鏡花はこの木がいつか面倒事の種にならなければとそう思うばかりだった


「ちなみに庭の植物全部明利が育てたの?」


「うんそうだよ、皆立派でしょ?」


確かに明利の言う通り植物は全て葉も茎も花も大きく美しく咲き誇っている


いくら明利の能力によって状態を最善近くまで整える事ができてもここまで育つのは見事としか言いようがない


この庭を見るだけでせっせと植物の世話をする明利の姿が見えるようだった


「明利って動物は飼わないの?犬とか猫とか」


「うぅん・・・飼いたいんだけど・・・」


明利の視線の先には申し訳なさそうにする雫の姿がある


「お母さんが動物の抜け毛とかが苦手でね、肌があれちゃうんだって」


「なるほど・・・それじゃしょうがないか」


動物の抜け毛などが原因で肌が荒れアレルギー症状を起こす人はまれにいる


明利が動物や植物が大好きなのに対して母親の雫は僅かに抵抗感があるようだった


「明利に世話してもらえる植物は幸せだこと、普通こうはいかないわよ?」


「えへへ、そこは腕の見せ所だよ」


嬉しそうに笑う明利を眺めながら一抹の不安を庭の一角に陣取る多葉樹から受ける鏡花はとりあえず静希達が談笑しているテーブルに戻ることにする


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