幼い能力者
「ん?なんだ?」
数々の店が集まっているこの建物は吹き抜けになっており、最上階から一階までの状況を見渡すことができる
周囲の人達のざわめきは一階のエントランス部分が原因のようだった
手すりから身体を乗り出して下の様子を見てみると一人の子供の周りに人だかりができている
子供は泣いているようなのだがそれだけにしては周囲の人が距離をとり過ぎている
「なにあれ?迷子か何か?」
「まて・・・様子が変だ」
中心にいる子供は声をあげて泣いているようなのだが、時折強く発光している
ただの癇癪ではない
目を凝らして見てみるとその光が稲光のようなものであることが理解できた
「あの子・・・能力者か」
「泣き始めて感情のコントロールができなくなってるわね・・・能力が暴走してるってことは・・・ひょっとして・・・」
「今回が初めての能力発動かもな・・・だとしたらまずいぞ」
幼少時の能力の発現は大半が泣く時や怒る時である
子供は感情の制御が上手くできず、直接放たれる膨大な感情が引き金になって能力が覚醒する場合が多い
今回のあの子も何らかの理由から泣き始め感情の抑制が利かなくなり能力が発現した可能性が高い
そして初めて能力を発動した子が陥りやすいのが八つ当たりである
子供からすれば自分の願いを叶えてくれない大人は嫌な大人であると思いがちである
そして自分が泣いているのに構ってくれない大人を憎みがちである
それが自分の親であれ、あかの他人であれ、自分に優しくしてほしいのが子供だ
だが能力を発現するということは近付くことそのものが危険行為である
そうすると自分をかまってくれない、自分から離れて行く大人達への憎しみや怒りから自然と能力は放たれる
あの子がどういう理由で泣いているのかは不明だがあの状態で放置しているのはあまりにも危険すぎる
怪我人、最悪死人が出かねない
「陽太、鏡花、とりあえず下に降りるぞ!あの子止めなきゃまずい!」
「じゃ、じゃあ委員会にも連絡入れておかなきゃ・・・って陽太何してんのよ!早くいくわよ!」
静希と鏡花が走り出す中陽太は手すりから子供を眺め続けていた
「なぁ静希・・・こういう場合能力使ってもしょうがないよな?」
普通能力者は市街地などでの危険判定のついた能力は使用禁止されている
陽太の能力は間違いなく危険判定がつけられている
「あぁ?そりゃ緊急事態だからな・・・しょうがないけど」
「階段で行ったんじゃ遅すぎるだろ?ここは一気に行こうぜ!」
手すりに足をかけ陽太は能力を発動して二人を燃えないように注意しながら掴む
「おいこら待て、まさかお前」
「ちょっと待ってお願い待って!早まるのはやめなさい!」
静希と鏡花の静止むなしく陽太は手すりから軽くジャンプしてそのまま落下を始める
「ヒャッホォオォォォオ!」
「ああああぁぁぁあぁあ!」
「きゃあぁぁあぁぁぁぁ!」
二人の悲鳴が建物中に轟く中数秒とかからずに静希達は一階部分に到着する
陽太の身体が地面についた瞬間床が少し砕けるが、周囲にいた人々は何より上から降ってきた炎の鬼の姿に驚いていた
「ってぇな!びっくりさせんじゃねえよ!」
「このバカ陽太!もっと方法あったでしょうが!いきなり紐なしバンジーとかなに考えてんのよ!」
「あっはっはっは、結果オーライ結果オーライ」
一旦陽太への言及はここまでにして静希はまず周囲の人々がいる付近にトランプを円状に展開する
「えー・・・皆さん危険ですからこのトランプより先に入ってこないでくださいね」
静希達が能力者であるということがわかったらしく、人々は僅かに安心したような顔を浮かべ、同時に恐ろしいといった目で静希達を見ている
仕方がないとはいえやるせない気持ちはなくならない
円の中心にいる子供は未だ泣き続けている
そして時折その体から稲妻が発生し能力の片鱗を見せつけていた
「鏡花、あの子が万一周囲の人に攻撃しそうになったら避雷針頼む・・・たぶん発現系統の電気発生だ」
「了解、準備しとく」
「陽太、あの子の気を引いてくれ、できるならなだめて泣きやませろ」
「オッケー、静希は?」
「あの子の親を探す、ここまで一人で来たってことはないだろ、たぶん近くにいるだろうしな」
耳打ちを終え、陽太は能力を解除して人の姿に戻り子供に近づいていく
子供は中性的すぎて男の子か女の子か判別できない、恰好もTシャツに短パン、恐らく男の子だろうか




