真夏のプレゼント
「そう言えば五十嵐君、明日明後日とお休みなんだっけ?」
その日の訓練を終え帰り支度をしていると鳥海が二人の元にやってくる
「えぇ、明後日明利の誕生日なんで、いろいろ準備を」
「おぉ、そうなのか、おめでとう、だがそういうのはこっそりやった方がいいんじゃないのか?」
「いえ、明利はびっくりするのあまり得意じゃないし・・・毎年のことですから」
クラッカーなどを用いて明利に内緒で誕生日会を計画したこともある
だが実行時に明利がクラッカーの音に驚いて腰を抜かしてしまったことがある
それ以降隠すこともなく毎年のように誕生日を祝っている
「彼女にはなにをプレゼントするんだい?」
「んー・・・あまり思いつかないんですけど、まぁ明日ぶらぶらしてそれから決めますよ」
「そうか、頑張りな」
帰り支度を終え静希達はその日の訓練を終えて帰宅していた
「ねえシズキ、メーリの誕生日プレゼントなににするの?」
自宅に帰ってくるや否やトランプから我先にと出てくる人外達の中で唯一明確にやることのないメフィが絡んでくる
「そうだな・・・髪留めとか、腕時計とか?」
「なんだか無難ね・・・アクセサリー類とかにしなさいよ」
「・・・やっぱ女の人ってそういうもの貰うと嬉しいのか?」
この部屋で女性といえばメフィとオルビア
二人に話を振ったのだが二人とも首をかしげてしまう
「私はアクセサリーよりも、その人にしかないものをくれた方が嬉しいわね」
「私は・・・そういった類の物は貰ったことがないので」
そうだった、メフィは悪魔でオルビアは性別を偽って騎士をやっていたのだった
この二人にまともな女性の感性があると思った静希が間違っていたのだ
「ですが贈り物をされるのであれば常に身に着けられるものが良いと思われます、そういう意味では髪留めなどはとてもよいかと」
「身につけるならネックレスとかにしなさいよ、絶対そっちの方がいいって」
「えー・・・でも明利が貴金属系のアクセサリー付けてるところって見たことないんだよ」
それは明利自身がおしゃれが苦手というのもあるのだが、あまり自分自身を飾るのが好きではないというのもある
長年の付き合いの静希でも明利が思い切り着飾っているところは見たことがないのだ
「とりあえず明日いろいろ見て回ってみるよ、その時はまたアドバイスくれ」
「参考になればいいけどね」
「私の意見などでよろしければ」
こういう時にすぐに相談できる女性(?)が身近にいるというのはありがたいものだ
もっともこの相談が実を結ぶかどうかは別である
静希はベランダに干してあったトランプを取り込む
訓練中ずっとベランダに放置し光を吸収し続けているのだ
「このトランプ、何か意味あるの?」
二枚のトランプがどれほどの光量を吸収しているのかはさておき、光を吸収するという行為にメフィは疑問を感じていた
「まぁ試験的にやってるだけだからな、もしかしたらビームみたいなのが出せるかもしれないぞ?」
「そんなに上手くいくかしら?ただのライトみたいになるかもよ?」
「そうなったらそうなっただよ、何か活用法を考えるさ」
太陽の力というのはとても強い
そして今の季節は夏、年間を通じて最も強い日差しを得ることができる
静希はこの前の交流会で光を吸収できる事を知ってから毎日のようにこのようにトランプの中に光を吸収し続けていた
静希が吸収できるものは五百グラム以下の物
収納した物が持つ熱量や運動量も保存できる
ならばこの夏の日差しを収納し続ければ強力な熱量になるはずだと睨んでいた
過去、陽太の協力の元、炎を収納し続けたことがある
収納された炎は確かに高い熱量を誇ったのだが、その総量があまりにも少なかった
炎は基本的に気体や物体が高温になった際の化学反応である
炎を収納するということは高温になった物体を収納することと同義
そのためすぐに収納限界を迎え、たいした武器にはならなかったのだ
だがこの光は重量がない
そもそも質量がない
いくら入れても収納限界は迎えず、ほぼ無限に入れることができる
普段静希の感じている太陽の熱
これらは日常的に受けていればほとんど何の支障もない
だがため込んだ熱量を一気に解放すれば
一体どうなるのかは静希にもわからない
先に静希が言ったようにビームのようになるのか、それともメフィの言うようにただの光源としてしか利用できないかもしれない
だが可能性はある
もしこれが上手く作用すれば強力な武器になる
硫化水素に代わる切札になるかもわからない
材料もいらない、かかるのは時間のみ
学生としてはそのメリットはとても大きかった
翌日静希は近くのターミナル駅まで出向き買い物をしていた
夏休みというだけあって駅の中は混雑しておりその暑さから自然と汗がにじみ出る
日中の温度は三十度を軽く超え、強い日差しが降り注ぎ続けている
何故こんなところにまで来ているかといえば明利の誕生日プレゼント購入の為である
だが来た途端に静希は相当の不快感に襲われていた
どこまで見ても人、人、人
一体どこにこれほどの人間が押し込まれていたのかと思う程に大量の人間がいる、視界の隅から隅まで多種多様な人間で埋め尽くされていると人の波に酔いそうだ
なるほど、人がたくさんいるのが苦手という人の気持ちが少しだけわかった気がした
さて何を買うべきかと迷ってとりあえずは女性向きの小物類を扱っている店に向かってみる
たくさんの店がある中で選んだのは六階にある店
インテリア、化粧品、アクセサリー、いくつか見て回ったのだがどうにもピンと来るものがない
そもそも明利はこういった女の子が好んで身につける類の物をあまり使わない
無論最低限の化粧などはしているようなのだが、特筆するようなものではないし贈ったからといってそれから化粧に凝り始めるというところも想像できなかった
「あれ?静希じゃない」
「お、ホントだ」
静希が商品を見ながら悩んでいると聞き慣れた声が耳に届く
振り返ってみれば一班班長清水鏡花と特攻隊長響陽太のお出ましである
「なんだお前ら二人揃って、デートか?」
「はは、静希にしては面白くない冗談ね、埋めるわよ?」
「まったくだ、お前らしくもない、ぶち殺すぞ」
「なにもそこまで否定しなくても・・・」
無駄に息があってきた二人をもはや恒例行事のように眺めながら静希はため息をつく
「そうしてるところを見ると、お前らもプレゼント目当てか?」
「そのいい方だとあんたも?考えることは皆同じね」
そういいながら静希が先ほどまで眺めていたアクセサリー類を物色し始める
「へぇ、結構いい趣味してるじゃない・・・けど明利に似合うかな?」
「そこなんだよ、それにあいつアクセサリーとかほとんど付けないからあげても困らせるだけだと思って・・・」
「なるほど、決めかねてるわけね」
鏡花と陽太を加えて周囲の品物をいくつも眺めているのだが明利がつけているところをどうにも想像できずに踏ん切りがつかずに時間だけが刻一刻と過ぎていく
「ちなみに去年はなにプレゼントしたの?」
去年の三人を知らない鏡花は幼馴染の二人に聞くが、二人は同時に腕組をして記憶をたどり始める
「なんだったっけ・・・俺は確か櫛と手鏡だったと思う」
「へぇ、陽太は?」
「んと・・・確か珍しい木の種を上げた気がする・・・なんだったっけかな?」
「木の種ねぇ・・・女の子に木の種って・・・」
普通なら木の種など貰っても嬉しくないのだろうが、明利は趣味がガーデニングだ
ひょっとしたらすごく喜んでいたかもしれないのだが、鏡花からすればあまり褒められたものではない
『ねえ、あぁいうのはダメなの?』
三人で悩み続けていると静希の頭の中にメフィの声が届く
『ああいうのって・・・どういうのだ?』
『ほら、ネックレスの隣にある奴』
メフィの言う場所にはチョーカーと呼ばれるネックレスの一種が置かれている
金属だけでなく革製、布製といくつか種類もあり、派手なものから質素なものまで取り揃えてあった
「なにそれ?チョーカー?」
「あぁ、メフィの案だけど」
「・・・悪くないんじゃない?これくらいなら明利もつけやすいでしょ」
あまり派手ではなく、それでいて身につけやすい
無難といえば無難である
「お前らはどうするんだ?」
「私は実用性をとるわ、ちょうど夏だしね」
鏡花がいくつか選んだのは制汗剤や香水の類、汗のにおいを消すタイプの商品ばかりだった
確かに夏特有の商品だ
「陽太は?」
「うーん・・・もういっそこの前の種みたいな・・・お?」
陽太が目を付けたのはインテリアのコーナーにいくつか置かれた鉢
そしてその中には小さなサボテンが植えられている
刺がいくつかついておりしっかりと根付いているのか軽く振っても微動だにしなかった
「俺はこいつにしよう」
陽太は迷うことなく一つのサボテンに手を伸ばす
「サボテンねぇ・・・でも明利の事だから自分でもう持ってるかもよ?」
「いや、このサボテンなかなか骨のある奴だ、俺の直感がそう言っている」
「サボテンに骨はねえよ」
冷静な突っ込みも完全に無視して陽太は自らの目で選んだサボテンを購入することに
静希は布製のチョーカー
鏡花は制汗剤及び香水
陽太は骨のあるサボテン
三人がそれぞれ購入し、包装してもらっている間周囲がざわつき始める
誤字報告が五か所超えたので複数まとめて投稿
実は新しい能力を考えている時が一番楽しかったりするんです
これからもお楽しみいただければ幸いです




