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J/53  作者: 池金啓太
七話「有無にこだわる自尊心」

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夏休みへの

後日、夏休みに入ってのんびり休暇を楽しめるかと思っていた静希は城島に呼び出されていた


呼びだされたのは静希だけではなく一班全員と二年生二人


夏休みにもかかわらず教師陣は何やら慌ただしく仕事をしており、城島自身も静希達が到着するまでずっと書類と格闘していた


この暑いのにあの長い前髪は鬱陶しくないのだろうかと不思議になる


「先生、夏休みなんだから休みましょうよ、何で仕事してんすか」


「バカ者、教師は夏休みもほとんど休みなしだ、学生のように甘くはないんだよ」


書類を机の隅に置き城島は大量に置かれているファイルの中から一つにまとめられた書類を取り出す


「一応お前達は関係者ということで報告しておく、犯行グループの主犯格が自供した情報をまとめてある、目を通しておけ」


渡された書類には犯行グループの所属や各個人情報、そして各員の自供内容などが記されている


「これ本当に自供ですか?拷問とかじゃなくて?」


実際に拷問の現場を見ている静希と陽太は恐る恐る聞くが、城島の顔はそれほど浮かれたものではない


「バカを言うな、正式に逮捕された者に拷問などできるか、これはしっかりとした事情聴取の末得た情報だ、薬も暴力も使っていない」


「・・・能力は使ったんですか?」


「・・・さて本題に入ろう」


使ったんだなと全員が確信しながら城島は一枚の似顔絵、いや仮面の絵を差し出す


「これは?」


「グループの大本・・・所属していた組織に出入りしていた、所謂情報提供者とやらだ、つまりお前が契約者であると犯人達に教えた奴だな」


「でもこれ・・・」


「そうだ・・・エルフ共に悪魔と神格の召喚法を教え、四月のエルフの村で鳥海達が逃したのと同一人物だと我々は考えている」


全員が顔を引き締める


静希達が悪魔と関わることになった事件の元凶とも言える仮面の人物


その人物が今回の事件にも関わっている


「でもなにが目的で?」


悪魔の召喚法を教えたのもそうだが、学生が悪魔と契約したことを無能力者にリークしたところでその仮面の人物に利益が出るとは考えにくい


「さぁな、後始末か、ただ単なるいやがらせか・・・恐らく後者だと私は睨んでいるがな」


「根拠は?」


「悪魔の召喚などはまだ実益につながる、エルフの時の召喚が単なる実験だとしたら、これから自分が悪魔を召喚するためのいい判断材料にもなるし他国に召喚法を売ることだってできる・・・だが今回のはただ場を撹乱させただけだ、それにもうこいつは日本にいないだろうしな」


城島は書類をめくりながら犯行グループの所属していた団体の幹部の証言のところを見せる


「こいつが団体に情報提供したのは五月半ば、それ以降は姿を見せていないそうだ・・・二か月以上も前だ、自分の足取りを私たちが追えていないのを確認したうえで情報をリークし、仕込んだ種が芽吹くころにはすでにとんずら・・・腹立たしいがなかなかに狡猾な奴だよ」


忌々しいと吐き捨てて城島は書類を静希達に投げて渡す


静希達もいくつかの書類に目を通すが、目を通せば通すほどにこの団体の人間がトカゲのしっぽ切りにされているというのがよくわかる


こちらの情報は持っているのに肝心の仮面の人物につながるような情報をまったくもっていないようだった


「二か月・・・随分と発覚から実行まで時間が空いているな・・・この期間は一体何を?」


「あぁ、無能力者ともなればそれなりに準備が必要だろうからな、いろいろと手をまわしていたんだろうよ・・・今回の銃器などもどこから手に入れたんだか・・・」


さすがに数日ではどこから銃器などの武装を入手したのかまでは調べが回っていないようだった


むしろ最重要の情報提供者を調べることに集中しているせいで他に手をまわしている余裕がないというべきだろう


「それで、今日はこの事を伝える為だけに呼んだんですか?」


「そんなわけがないだろう、むしろここから先が重要だ」


城島は一枚の書類を取り出して静希に渡す


「五十嵐、お前は夏休みの間、鳥海達の部隊に所属して訓練をしてもらう」


「は?」


突然の申し出に静希は目が点になる


唖然としている静希をよそに鏡花が書類を眺める


「なにこれ、入隊申請書?静希を軍に入れるんですか?」


「入れるというよりかは必要な訓練を受けさせるために仮入隊させるといった方が正しいな、今回のような事件が相次ぐようならお前は今学校でやっているような演習だけでなく対人強襲用の訓練を受けるべきだ」


「・・・拒否権は?」


「ないと思え」


静希は力なくうなだれる


その様子に陽太と雪奈は同情しながらポンと肩に手を置く


「ドンマイだな静希、夏休みほぼなしじゃんか、お前の分まで俺が遊んでおいてやるからな」


「陽太?私との訓練があること忘れてるんじゃなくて?」


後ろから鏡花に頭を掴まれガタガタと震えながら陽太もうなだれる


「あ・・・あの」


「ん?どうした幹原」


「この訓練って・・・私も受けられますか?」


「ちょっ!明利!?なに言ってんのよ!?」


突然の明利の提案にその場の全員が目をむく


「明ちゃん、軍の訓練って厳しいよ?明ちゃんには無理だと・・・」


「き、厳しいからこそ、体力もつくと思うんです、毎日走っててもあんまり体力増えたって実感できなかったし・・・だからすごく辛くても成果が出るなら・・・と思って・・・」


明利の言葉に雪奈は困惑しながら静希を見てしまう


何とかやんわりとやめさせようとしているのがわかるが、明利も明利でかなり頑固だ、一度決めたら止めないだろう


「一応申請を出せば参加はできる・・・が・・・」


城島も明利が訓練に参加することをあまりよく思っていないようで決めかねていた


実際のところ非常に厳しい


普通の演習でも息をあげていた明利が軍の訓練についていけるとは思えない


「明利がやりたいと思うならやればいいじゃんか」


見るに見かねた静希が紙に必要事項を書いた後明利に手渡す


明利は受け取った後自分も書類に必要事項を記入していく


「静希・・・それ本気で言ってるの?」


「本気もなにも、やろうと思ったならやりゃいい、ダメだと思えばやめてもオッケーだろ、この場合絶対やりきらなきゃいけないのは俺なわけだし」


そりゃそうだけどと鏡花は渋る


明利自身無謀なことだとは分かっているのだ


それでも、役に立ちたいという想いと静希と一緒にいたいという気持ちがこうせざるを得なかった


「ところで、訓練ってどこでやるんですか?」


「ここから五駅向こうの陸軍の演習場だ、夏休みいっぱいそこで演習漬けらしい」


なら通えるなと静希と明利は確認しながら頷く


「一応向こうに事情は伝えておく、今日の話は以上だ、五十嵐と幹原は明後日から訓練に向かえ、集合時間は八時、必要なものは特にないが財布と運動着、あと着替えくらいは持っていけ」


城島は話を終えるとまた書類と格闘し始める


とんだ所から舞い込んで、そして始まろうとしている夏休み


この夏休みは静希達一班にとって鬼門となりそうだった


静希と明利は軍で訓練


陽太と鏡花は能力の特訓


四人がどうなるかはまだ分からない


だがこの夏休みで四人は大きく変わることになる


一班の夏休みが始まろうとしていた


今回で七話は終了です


次回短編を挟むか長編につなげるかでちょっと悩み中です


これからもお楽しみいただければ幸いです

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