悪魔と生徒
「早くしろ、まずは生徒全員をここに並べてもらおうか?」
「だから生徒はどこに行ったのか我々も分からなくて」
「いい加減にしろ!この餓鬼の頭吹っ飛ばされたいか!?」
犯人のボルテージが上がっていく中再度銃声が轟く
人質となっている生徒たちが僅かに悲鳴を上げると部屋の扉を勢い良く開け一人の生徒が入ってくる
「ん?なんだ?」
入ってきた生徒に一人の教師が驚愕の表情を作る
驚いたのは城島、入ってきたのは件の悪魔の契約者である五十嵐静希だった
策を練る前に一番来てはならない人物が来てしまった
「ここの生徒か、何しに来たんだ坊主?」
犯人の一人が静希の額に銃を押し付ける
ゴリゴリと金属が静希の額の骨を圧迫するが静希は微動だにしない
本当に、一体何をしにきたのか、教師全員があっけにとられている中静希はまっすぐに犯人を見据える
「あぁ?質問してんだから答えんのが礼儀だろ?とっとと」
「あらあら、能力もない無能力者風情が随分でかい口を叩くじゃない?」
静希に向けられていた銃を掴み、そのか細い手で握りつぶす
突如現れた美女に驚きながら犯人グループも、教師陣もその姿を凝視していた
「初めまして人間諸君、先ほどから呼ばれていた悪魔、メフィストフェレスよ」
礼儀正しく頭を下げるがその顔は美しくも歪んだ笑みを浮かべている
まさに悪魔というべきか
突如現れた美女、その頭にある角と宙に浮く異様さからその場にいる全員が理解した
これが悪魔であると
「お前が悪魔・・・てことはその子供が」
「そうよ、私の契約者」
静希の首元に絡みつくとメフィは妖艶な笑みを浮かべる
「お前達の目的は悪魔を使役することだったな」
「あぁそうだ、そっちから来てくれるとは、ありがたいな」
リーダー格の男が静希に銃を向けるが、その次の瞬間に銃は高々とはね上げられ、床に落ちる
「私のシズキになにしようとしてくれてるわけ?」
メフィの放った光弾は寸分違わず男の構えた銃へと命中し、遠くへ弾いた
突然の出来事にあっけにとられている男だが、自分の銃が弾かれたことにようやく気付き人質を近くに連れてくる
「それ以上能力は使うなよ?この人質が「どうぞお好きに?」どうな・・・え?」
身体の周りに光弾を作りながらメフィは静希の身体にまとわりつき、静希はそれを引き離そうとする
その顔は相変わらず歪んだ笑みを浮かべている
「人間の子供がどうなろうと知ったことじゃないわ、私はシズキが無事ならそれでいいもの」
「な・・・」
思わぬ発言に犯人側も度肝を抜かれたようだった
だがそれ以上に教師側も驚愕している
生徒が本当に悪魔を使役しているという事実もそうだがその悪魔が生徒の六人の命より静希の命を優先しているということだ
「でも・・・そうね、私を使役したいとか言ってたかしら?」
「そ・・・そうだ」
メフィはリーダー格の男をよく観察する
「ま、試験くらいは受けさせてあげるわよ?せっかくこれほどの事を起こしてまで私を使役しようとしてくれたんだし?」
「・・・試験?」
メフィはふわふわと浮きながら静希からゆっくり離れる
「来なさい、私に相応しいどうか試してあげる」
メフィが妖艶に微笑むとリーダー格の男は人質の生徒を仲間に預けメフィの元に警戒しながら歩いていく
「さぁ、なにが試験なんだ?」
「簡単よ?私を感嘆させればいいわ」
「ほう?そんなのは楽なもんだな、あんなガキよりもずっと喜ばせて」
男の言葉が最後まで紡がれる前にメフィの手がその腹部に突き刺さり、血を滴らせていた
「あ・・・え・・・がっ・・・」
「さぁ、貴方は私に何を見せてくれるの?」
男は絶叫しながら腹を押さえて地面をのたうちまわる
刺さっているのはそのか細い手の指の第一関節までのみ
以前メフィが静希の腹を刺したのとまったく同じ場所に、同じ深さで傷を作る
近くの仲間が駆け寄るがその悲鳴が止まることはない
「てめえ!何しやがる!?」
「なにって、試験よ?この男が私を使役するに値する男かどうか・・・けどダメね、こんな無様な姿をさらすなんて、がっかりだわ」
先ほどの笑みとは打って変わって冷徹な視線を送るメフィに、その場にいる全員が寒気を覚える
「つまらない人間は普通無視するんだけど、シズキの敵なら倒さなきゃね、死にたくない人は伏せててね~」
まるで砂でつくった山を壊すような気やすさでメフィは能力を発動する
多くの光弾が一つに集まり巨大な一つの光の結晶体へと変化していく
その光の弾に一体どれほどの威力があるだろうか
目を覆いたくなるほどの強烈な光を放ちながら存在する巨大な球体
これからどうなってしまうのか想像すらできない犯人達は一瞬ひるんだ
その一瞬を静希は見逃さなかった
静希が指を鳴らすと犯人全員に轟音が襲いかかる
耳を覆わなくては鼓膜が破れるほどの巨大な音
両手を使って耳を押さえ、武器の照準が人質から離れた一瞬の合間に地面が変形していき犯人と人質が引きはがされ、その体を縛っていた縄を静希のはるか後方から高速で突っ込んできた雪奈の刃が切り刻み陽太の炎が焼き切っていく
光弾が発射される刹那、巨大な一つの塊から無数の弾に分散した光は犯人達の持つ銃に突き刺さっていく
本体とも言うべき部分に大穴をあけられた銃はもはや使い物にならないだろう
すぐさま人質となっていた生徒を全員犯人から引き離し安全を確保する
陽動、敵の数秒の行動停止、人質の解放、武器の破壊
一瞬でも行動が遅れれば誰かが死傷していただろう
珍しくも静希が陽動を受け持ち相手の目的であるメフィを使って相手の注意を引き、その間に熊田と鏡花が合図を待って能力をほぼ同時発動
そして人質が犯人から離れた瞬間に雪奈と陽太が拘束を解いて救出
寸分の狂いもなく手掛けられた静希達の連携に一同はあっけにとられていた
「さあ、シズキに銃を向けた報い、受けてもらいましょうか?」
人質を失い武器を失い、なにもできない男達は尻もちをつきながら必死に後退する
「メフィ、そこまでだ」
「なによ、せっかくいいところだったのに」
メフィは僅かに不機嫌になるが静希に抱きついてすぐに機嫌を直す
「い・・・五十嵐・・・お前・・・お前というやつは・・・!」
人込みをかき分け城島がわなわなと肩を震わせながら静希の元にやってくる
「あ・・・しまった・・・」
静希は忘れていた
こうして自分が出てきたとき、絶対に城島に叱られるであろうということを
城島からの拳骨を受け、なおかつ正座をさせられている静希とメフィ、そして静希に続いた班全員
犯人達を拘束しせっかく人質も解放したというのにその対価は完全なる説教だった
「せ、先生、無茶したのは認めますが・・・もうちょっと何か別の処置があっても・・・」
「別の処置ぃ?それはお前達を殴り倒すという選択肢もありか?人がせっかくあれこれ悩んでいたというのに全部台無しだこのバカ者共がぁ!」
ダメだ、せっかく鏡花が何とか穏便に話を進めようとしたというのに城島の怒りは急上昇してしまっている
もはやここにいる間ずっと説教を喰らう覚悟も必要かもわからない
周囲は壁の向こうから出てきた生徒達と教師達であふれていて静希達はちょっとした見せもののようになっている
生徒だけならまだしも悪魔まで正座させている現状を物珍しそうに眺めているものがほとんどだ
「じょ、城島先生、とりあえず彼らへの説教はそこら辺にして・・・ご説明いただけますか?」
「あぁ!?・・・あぁ・・・そうですね、お前たち帰ったら覚悟しておけよ?」
さすがに哀れに思ったのか教師の一人が何とか助け船を出すのだが結局と説教が後回しになっただけの話である
冷や汗を流しながら静希達は正座のまま身体を震わせる
「簡単に言えば、こいつらの最初の校外実習時にこの悪魔メフィストフェレスと遭遇、その後ここにいる五十嵐静希の手により暴走を止め、契約・・・それからこいつらは常に一緒にいることになります」
「・・・悪魔の力を使ったことは?」
「ないでしょう、少なくとも実習中や日常生活で悪魔の力を使用したことは確認できていません、そうだな?」
突然話を振られて静希は足のしびれを我慢しながら渋々うなずく
「はい、メフィがなんかしようとするとそれこそ街ごと吹っ飛びかねないので止めてます、たまに勝手に出てくることもあるけどメフィの能力に頼ったことはありません」
教師が疑いの目を向けながらその視線をメフィに移すと正座をあっさりやめたメフィはふわふわと空中に浮き始める
「シズキの言ってることは本当よ?私はこの子に能力を用いてのお願いをされたことは今回が初めて、それまでは写真をとってだのそう言うことしか頼まれてないわね」
「写真?」
「前実習中に自分たちでは侵入不可能な場所があったのでそこの写真をとるためだったり、ザリガニの写真を撮ったのも彼女です」
なかなかよく撮れてるでしょ?とメフィは自慢げに胸を張るがその場にいる全員の表情は良いものとは言えない
「つまり、彼らが優秀だと選ばれたのは悪魔の力とは無関係だと?」
教師からすればここが一番重要だ
悪魔の力は強大、その力を使えば審査で容易に高得点を叩きだせるだろう
その気になればそれこそ奇形種だろうと能力者だろうと一撃で粉砕できるのだから
城島が恐れたのはこれだ
静希達がどのように自らの実力を表明したとしても悪魔の契約者がいるだけで正当な評価を受けられない可能性がある
「その通りです、事実こいつらは連携部門で優秀であると認められています、連携に悪魔の力など関係はないでしょう、こいつらは自分の実力でここにいるんですよ」
確かに、それはそうかもと周りが流され始める
静希達が取った賞が連携でなければこうはいかなかっただろう
そういう意味では救われていると言えなくもない
「では、何故悪魔の事を隠していたのですか?これは越権行為では?」
「生徒を守るのも教師の務めです、こいつらはまだ一年生だ、悪魔に遭遇しただけならまだしも契約者になどなって、国などにでも知られれば面倒な任務ばかり押しつけられるでしょう、それはこいつにとってもマイナスにしかならない」
経験は順を追って、小さなことから少しずつ実力をつけて行かなければ、ただ自殺しに行くようなもの
城島が静希の個人情報に規制をかけたのも静希の負担を軽減するためでもある
そうでもしていなければ悪魔の能力を使わなければ解決できないような強大で最悪な事件が実習内容として組み込まれていたかもしれないからである
「ですのでここにいる皆様方にはこの五十嵐静希が悪魔の契約者であることを他言無用でお願いしたい、こいつはまだ若い、経験を積み重ねる大事な時期だ、今はまだその胸の中にこの事を秘めていてほしい」
城島が頭を下げると他の教師陣や来賓の人間は何やら小声で話し始める
せっかく利用できそうな力が目の前にあるのになにもしないというのはもったいない、どうにかして利用できないものかと画策しているようだった
学生の実習内容は基本的に委員会などが決定する
以前エルフの長がやったように裏で手を回せばいくらでも操作は可能である
無論学生に拒否権はない
つまり悪魔の力を自分達のいいように扱えるかもしれないということだ
これを逃す手はないだろう
「あらあら、貴女が頭を下げるなんてよほどのことね?」
「生徒の為に頭を下げられなくてなにが教師か、お前のことでもあるんだぞ?」
そうねとメフィはほほ笑みながら周囲の欲望と策略に満ちた目を見てため息をつく
誤字報告が五つたまったのでまとめて投稿
ていうか新しいルール作って次の日にもう五つたまるってどういうことなの・・・!?
そして感想が百件超えました、そのうちの半分以上が誤字報告ですが・・・
これからもお楽しみいただければ幸いです




