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J/53  作者: 池金啓太
七話「有無にこだわる自尊心」

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人質の意味

男の言葉に教師をはじめとするその場にいる全ての人間が目を見開いた


その驚きの内容はおおよそ二種類に分かれた


何故無能力者が悪魔の存在を知り、そして利用しているのかという根本的疑問からくる驚き


そしてこの教師の中でただ一人だけが抱いた、何故この男はここに悪魔がいることを知っているのかという事実から来る驚き


「悪魔だと!?何をバカな!?」


「しらばっくれても無駄だ、我々はある筋から情報を入手している、専門学校の生徒が悪魔を使役していると」


男の言葉を壁越しに通信機による盗み聞きをしていた静希達はしてやられたという表情を浮かべる


「まずいな・・・逃走順位・・・五十嵐を優先的にさせるべきだったか」


「今更言っても仕方ないですよ・・・それにしてもどうやって・・・」


「前に先生が情報規制かけたって言ってなかったっけ?」


「確か言ってたはずだけど・・・でもこうして情報が漏れてるし・・・」


「人の口に戸は立てられぬってやつかな?だとすればエルフの方から漏れたことになるかもね」


「・・・いや、多分違う」


周りの生徒が息を殺す中静希達は眉をひそめながら思案を凝らしている


「でもさ、エルフ以外で悪魔事件の事知ってる奴っていないんじゃないの?」


「そうだよ、鳥海さんとこの部隊も静が悪魔を抑えたことは知らないでしょ?」


「エルフが漏らしたとしてどうやって?今あの村は軍の監視下にあるんだぞ?」


事実、鳥海達特殊部隊の人員は静希がメフィと契約関係にあることは知らない


実際にこの事実を知っているのは静希達の班に関わった教師含め八人と直接悪魔を召喚しその場で使役したという宣言をしたエルフの長


後にエルフの長などからいくらか広まったかもしれないが軍の監視下にいる中どこかに漏れたと考えるのは難しい


「じゃあ・・・誰が?裏切り者とかがいるのか?」


「いや、もう一人可能性がある、俺が・・・いや、専門学校の誰かが悪魔を使役してるって事を知ってる奴が」


「え?誰?」


静希は一人だけ心当たりがある


もちろん確信があって言っているわけではない


しかも静希自身はその人物を実際に見たことすらないのだ


静希が答えを言う前に明利が、そして雪奈が気付く


「ひょっとしてあのボタンの?」


「私たちが帰った後に包囲網を突破したって奴?」


「そうだ、あの場にいて、俺らがいたことを知っていて、なおかつあの悪魔事件に直接関与したと思われ、今どこにいるのかも何をしているのかもわからない奴って言ったら、そいつしかいない」


可能性を上げるのであれば一番怪しいのがその人物である


仮に先ほど陽太が言ったように裏切り者がいるとして、静希が悪魔と契約したことをあの犯人グループにリークしたとする


その場合相手の反応があまりにもおざなりだ


例えば鳥海、城島、監査の先生、この三人の誰かが情報をリークした場合、教師二人ならばわざわざテロを行う必要などない


もちろんテロという行動を隠れ蓑に行動するという意味はあるが危険と失敗の確率が上がることを考えると得策とは言えない


そして鳥海が情報を伝えた場合、犯人がわざわざ専門学校の生徒などという言い回しをするのもおかしい


鳥海自身悪魔と関与していたことは知っているだろうがあの事件で静希達の班が深く関わっていたことは明らかだ


ブラフだとしてもどこの学校、誰が担任というところまで知っていてもおかしくない


もっと突き詰めて言えば城島の顔と名前、生徒の顔と名前くらい知っていてしかるべきなのだ


だがその様子もない


「でもさ、もしあの村にいた奴がその情報を漏らしたなら、なんで私達の名前とか分からなかったのかしら?私達結構名前とか呼び合ってたじゃない」


「・・・可能性として、その男も直接俺達を見たわけじゃないんじゃないか?」


「どういうことだ?」


静希は自分の記憶を呼び覚ます


あの時、朝早くに長の部屋に行った時の事


開いている襖を覗いたとき布団から上半身だけを起こした長の姿が見えた


先ほどまで誰かと話していたのだろうか、下座に座布団が敷いてあり、誰かが座った痕跡もあった


「あの時、俺が早朝訪問したにもかかわらず、長は起きていた・・・たぶん誰かと会っていた、近くに座布団が敷いてあったのを覚えてる」


もしあの場にいた人物が今回情報をリークした人物と同一だった場合、エルフの長から間接的に情報を得ていた可能性がある


エルフの長は静希達の名前などいちいち覚えてはいないだろう


『専門学校の生徒が悪魔を使役している』


与えられた情報はこの程度だろうか


そうなるとこの状況もほとんど説明がつく


あの時取り逃がしてしまったせいでとんだ面倒事を引き込んでしまった


なにがなんでも探しだしてとらえておくべきだったと今更ながらに悔やんだ


「だとすれば、まだ救いはあるぞ」


「どういうことです?」


熊田の呟きに全員がその言葉に耳を傾ける


「連中は生徒に契約者がいることは知っていても、それが誰かは知らない・・・判別もできなければ捜索方法もないと見るべきだろう」


「あ、そうか、見つけることができなきゃ探すもなにもない」


「ここにいる生徒は専門学校内でもほんの一部、しかも今生徒の半数近くがすでに空港に移動してる、ごまかすのは簡単だ」


静希達の至った結論に城島ももちろんたどり着いている


そしていくつも策を練ろうとしたが、教師としての立場と大人としての立場、能力者としての立場が浮かぶ策すべてを打ち砕いていく


もしすでに契約した生徒は逃げた後だと言えばこの場にいる生徒は助かるかもしれないが空港へと向かった生徒と来賓の人間が犠牲になる


それは避けなければならない


そしてここにいる生徒の中に契約者がいると聞けば連中はここを拠点としいつかは生徒たちを捜し出すだろう


悪魔が奴らの手に渡るなどということはメフィの性格上考えにくいが、悪魔を公衆の面前に晒す事態が悪手だ、せっかく情報統制をして静希が少しはまともな生徒生活を送れるようにしてきたのが全て無駄になる


誰が契約者であるかを知っているのはこの中では城島のみ


彼女の判断で多くの人間の行く先が決まっていると言っていい


時間がたてばたつほど犠牲者は増えるだろう


逆に言えばここで静希が悪魔の契約者であることを明かせばまだ事態収束の目は出る


悪魔を使役するということはそれなりに交渉などの隙ができることを示す


少なくとも静希はメフィに能力をかけ、対話を行って契約を結んだ


だが自分の教え子を人柱にするなど城島にはできなかった


「教えてもらおう、専門学校の生徒たち誰かが悪魔を使役しているはずだ・・・知らないということはないだろう?」


「仮にそんな生徒がいたとして、ここにいた生徒は学園内でも一部の者だけだ!その中に契約者がいたとも限らないだろう!」


一人の教師が口にするのをきっかけに他の教師も同調してそうだそうだと声を上げる


教師の言うことは正しい


ただ優秀生徒に選ばれずとも個人的に悪魔との契約をしている可能性はある


問題は契約者が優秀班に選抜され、しかもここにいるという現状である


「悪魔という者がどういった存在であるかくらいは知っている、化物を相手にできるような人間が優秀ではないなどとあり得るか?」


「選抜は個々の能力より班全体の成績を考慮している!個人能力は参考程度だ!」


「班の成績?悪魔を手篭めにしている時点で優秀な班の成績じゃないのか?悪魔さえいれば大概の事はできると聞いたぞ」


聞いていて酷い言い草だなと静希達は顔をしかめた


確かにメフィの手を借りれば今まで相手にしてきた敵はすぐに決着が付くようなものばかりだった


だが静希達は一度としてメフィの力に頼ったことはない


今までの実習も幸運に恵まれ不運にもてあそばれながらも自らの実力で乗り越えてきた


城島もそれをしっかりと確認している


だからこそ今ここで静希が悪魔の契約者であると明かすわけにはいかない


「早く吐け、そうしないと大事な生徒がキズものになるぞ?」


ナイフが少しずつ生徒の頬を傷つけていく


血が流れ苦悶の表情をする生徒に教師陣は今すぐこの犯人達を殲滅したい気持に駆られる


今ここで目の前のテロリストたちを殲滅するのは不可能ではない


たかが銃を持った人間が十数人、こちらには能力者が数十人


勝てない道理はない、だがそこに生徒の人質がいると話は別だ


完全に同時に生徒を救出しなければ殺されてしまうかもしれない


その躊躇が全員の動きを押しとどめていた


「もうこの状況・・・俺が出て行ったほうが早くないか?」


「待ちなさい、今出て行ったらこれから面倒事のオンパレードよ?」


「でもここで隠れてるだけって・・・それじゃ・・・」


周囲の生徒は不安に押しつぶされそうにしている


今まで生き死にをかけた戦いは何度か潜り抜けてきた静希達と違い、彼らはいたって普通の実習しか行っていない


このような危険な状況を平時と同じ精神状態でいるのは二年生とほんの数人程度である


そうこうしている間に銃声が轟く


床に向けて放たれた弾丸が小さな穴をあけて生徒達を萎縮させる


『おいメフィ、お前外に出てあいつらと契約するか?』


『ふざけないでほしいわね、私そんな安い女じゃないわよ?シズキが死ぬまで取り憑いてやるんだから』


取り憑くとはなんとも恐ろしい表現法だが、その方があっていると思うのは間違いではないだろう


だがこれで確認は取れた、メフィは奴らに従う意思はない


もちろんメフィは気まぐれだ、もし万が一メフィのお眼鏡にかなうような交渉材料が現れれば分からない


その場合は静希が邪薙に協力を求めてでも強引に止めようと思っていた


力を得たならその責任も一緒についてくる


静希が望んで得た力ではない、いや得ているとすらいえない奇妙な関係だ


だが、その責任は取らなければいけないのだなと、静希は腹をくくった


「鏡花、俺は出て行くことにする」


「あんたバカ?今出て行けば思うつぼよ?」


「黙ってここにいりゃ確実に誰か死ぬ、複数の人質はそういう意味もあるんだ」


複数人数人質がいれば、一人殺しても他がいるという関係が成り立つ

だが一人しかいない場合殺せば後がないという圧迫感から犯人は人質を殺せない


今の状況、いつ誰の頭が吹き飛んでもおかしくない


「でも・・・他に何か手が・・・」


「時間がたてばたつほど死ぬ確率が上がる、俺が出て行けばまだ全員助けられる可能性がある」


「でも・・・」


「鏡花、頼む」


静希のつぶやきに鏡花は頭を抱えて悩み、そしてあきらめた


「あんたらはいいの?こいつと一緒にいると面倒事が山のように押し寄せてくるわよ?」


チームメイトの陽太と明利に話を振ると二人も諦めたような表情をしている


「静希はこうなったら聞かないからな、とことん付き合うさ」


「静希君となら大丈夫だよ、たぶん」


「はぁ・・・先輩達は?」


静希の意見に先輩の意見を聞こうとしたのだが、その顔を見て鏡花はがっかりする


意気揚々としていたのだから


「静の頑固さは筋金入りだからね、しょうがないかな」


「そうするしかないのだ、そうするしかないだろう?」


二人の意見まで出た以上、鏡花だけが反対する訳にもいかず、彼女は、いや彼女も腹をくくった


誤字報告をいただいたので複数まとめて投稿


この誤字を含めたまとめて投稿ですが、友人からのアドバイスにより勝手ではありますが今回以降から累計五個の誤字が発見されたらまとめて投稿するということにさせていただきます


理由は二つ、まずこのままでは毎日まとめて投稿してしまいそうな勢いであるから


そしてたくさん報告してくれる方と一つ一つ報告してくれる方がいるためどちらも一回の誤字報告としておくとまとめてくれる方に少し申し訳ない気がするから


結局は自分の実力不足です、自分ではじめておきながら勝手に新しいルールをつけることを申し訳なく思いますがご容赦ください


毎日投稿は続けていきます


もっともっと楽しんで頂けるように努力いたします、これからもお楽しみいただければ幸いです

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