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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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鋭さと生き物

まったく整備されていない山、傾斜こそそれほど急でないものの、草も木も生え放題で一行の侵入を阻んでくる


本来なら木の枝などで脚や手を切ったりするところだが、進行メンバーの誰ひとりそんな怪我はしなかった


鏡花は愕然として眼前で行われる進行を眺めていた


切り開く、それは手で木の枝などを掴んでナイフで切る程度のものだと思っていた


そうやって道を開いて少しずつ進んでいくものとばかり思っていた


だが目の前の雪奈はそんなことはしなかった


両手にナイフを持ち歩きながら常に腕をふるっている


腕を振るうたびに木の枝が切断され落ちる、そして地面に着地する前に柄によって弾かれ遠方にとばされていく


その動作が鏡花にはほとんど見えなかった


腕を振るう速度、目標物を判別する速度、それらすべてを何の違和感も誤動作もなく行っている

しかも彼女の手に収まっているナイフにはあれだけの木々を切り払っているのにもかかわらず汚れ一つついていない


「すごいだろ?」


「えぇ、ちょっとだけ甘く見てたわ・・・」


目の前にしてみるとわかる、鏡花などの持つ変換による大規模効果や陽太の持つ強化の打たれづよさや攻撃力とは一線を画す能力


大きさでも強さでもない、いうなれば鋭さ


そのナイフが通過する場所はどんなものもその形状の維持を許さないと言わんばかりにその場から落とされ、彼方へと弾かれていく


「あの能力ってナイフ限定なの?」


「いや、さっきも言ったけど刃渡り八センチ以上の刃物であればなんでも、刀や槍、斧なんかも有効、なんだけど」


「どうかしたの?」


「なんで今は刀持ってきてないんだろうと思って」


静希の当たり前のような言葉に鏡花は呆れる


「あのひとって刀も使うの?」


「あぁ、普通に使うよ?ナイフも得意だけど、なんで今は刀じゃないんだろ」


「障害物が多すぎるからじゃないの?森とか山だとそっちの方がいいんじゃない?」


疑問をおいて一行は着々と進み、次々と明利がマーキングしていく中、熊田が何か見つけたようで全員に声をかける


「この先に岩肌らしき場所とくぼみ・・・多分洞窟がある」


「第一チェックポイント、行きますか、場所は?」


「ここからまっすぐ進んで五十m、近くに川もあるみたいだ」


「了解です、雪姉!聞いてたな!?」


「もちのろん!」


手を休めることなく前進を続ける雪奈の後ろ、明利の顔がどんどん曇っていくのに静希は気がついた


「明利、どうかしたのか?」


「あ・・・あの・・・えと・・・」


何やらいいにくそうだ、何か気付いたのだろうが確証が得られないと言ったところか


だが言ってもらわないと検討もできない


「この先の洞窟付近でいったん休憩取るから、その時にな」


「うん・・・ありがと・・・」


とりあえずはこういうしかない、他にどうしようもないし無理に言わせるのは得策ではない


もしかしたら熊田も何か気付いているかもしれない、なら全員が発言できる場を作るべきだろう


数分してから静希達は少し平らになった場所にたどり着く、その先には熊田の言うとおり岩肌が見えておりその一部の場所は穴が開いており暗く奥を照らすことなく続いている


近くには川も流れており、周囲の木の葉の揺れる音と一緒に水の音をならす


「天然の洞窟か、初めて見たな」


「陽太、あんた照らしなさいよ」


「まった、その前に熊田先輩、この中を探知してもらっていいですか?」


「わかった」


この中に目標がいないとも限らない、または別の動物がいるかもしれない、迂闊に中に侵入することが得策ではない以上まずは探査だ


熊田が能力を発動し、人間には聞こえない高周波の音波が発生する


熊田はそれを体で感じ取り、同調しながら内部の状況や地形を把握していた


「中には生き物はいない、途中で水源に当たったな、そこから先はすまないが曖昧だ」


「そうですか・・・」


全員に休憩を取る旨を伝え、岩肌に背を預けながら持ってきていた水筒からお茶を口に運んでいく


そして何とはなしに明利に視線を向けると、明利もこちらの具合をうかがっていたのかチラチラとこちらを見ている


「何に気付いたんだ?」


「・・・あの・・・」


まだ勇気が出ないのか、だがそれでも明利は決心したようで口を開く


「一匹も、生き物がいないの」


「生き物・・・?どのレベルで?」


生き物など山ならたくさんいる、土に住まう微生物から虫、鳥類や小型の哺乳動物、山は生き物の宝庫だ


「虫とかは別だけど、鳥やネズミとかの動物が一匹もいないの、同調して周囲を調べても、全然」


山に侵入して約四十分程度、まだ先は長く、探索が十分とは言えないが、それでもおかしい、この山は人が入った形跡がないそれは村の人の風習か何かなのか、どちらにせよ普通は鳥や動物が大手を振って闊歩していてもおかしくない


「熊田先輩、さっき洞窟の中に生き物はいないって言ってましたよね」


「あぁ、言ったぞ、ネズミも蝙蝠もいなかった、ああいう洞窟にすれば珍しいが」


何かおかしい、暗闇と洞窟を好む蝙蝠からすればこの洞窟は良質な住処、少ないのなら別に不思議なことではないがまったくいないというのはさすがに異常だ


「明利、途中で生き物の巣は見なかったか?ネズミの巣とか、鳥の巣とか」


「う、うん、いくつかそれらしい穴はあったよ、でもなにもいなかった」


動物は本来巣を定めたら外敵の侵入や強襲でもない限りその場は離れない、そこが野生の世界においての自身の安らげる場所であるからだ


だがこの周囲、限定するなら自分たちが通ってきたこの一直線上に限り、動物の姿は確認できない、こんなことがあり得るだろうか?


「先輩、奇形種って他の種に対しての攻撃とかはどうなるんですか?何か特別なものでもあるんですか?」


今この現状がここらにいる奇形種が原因と考えると説明はつくかもしれない


だが熊田は顔を曇らせる


「いや、能力が使えて身体が変異しているだけで他はまったく変わらないただの動物だ、天敵や捕食対象に対してはいつものように対応するだろう」


熊田の言葉が正しければ奇形種が来たくらいでは動物はいなくならない、それどころか奇形種を捕食する生き物もいそうだろうということにすらなる


だがならなぜこの辺りの動物は消えた?


考えてみても静希の頭には何の考えも浮かんでこない


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