表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
七話「有無にこだわる自尊心」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

278/1032

教師と生徒

「でも今回の場合、ただの人権団体ってだけじゃないですね」


静希の言葉に城島は不機嫌そうな顔を少しだけ消して笑みを作る


「気付いていたか、あれだけしっかりとした武装をそろえられる人権団体などいるものか・・・バックで誰かが糸を引いているな、それが海外諸国か、個人かはまだ分からないがな」


「もともとあった過激派の考えに同調するふりをして武器を支給、攻撃させて殲滅を促し能力者の危険性をさらに訴える無能力者の過激派か・・・あるいはさっきの男が言ってた他の目的とやらが本命かもしれないですね」


静希の考察に城島はさらに笑みを浮かべ上機嫌になる、どうやら教え子がここまでしっかりものを考えられる人材であることが嬉しいようだった


「そこまで考えられれば上出来だ、まだ情報が足りないが少なくともこのまま黙って流れに任せていても面倒事になるってことだけだろう」


そこまでの考察を終え静希と城島は同時にため息をつく


「もう一人くらい連れてくればいいんじゃない?別の情報が手に入るかも」


鏡花の提案に静希と城島は考え出すが二人とも難色を示している


「いや、ジョンはこの作戦は上層部の決定だと言っていた、現場の人間で知っているのは一人か二人といったところだろう、十何人もいる中からそのうちの一人を引ける確率は低い・・・リスクに対してリターンが少なすぎる・・・」


最悪誰も本当の目的を知らない可能性もあるしなと付け加えて城島は頭を掻き毟る


そう、別に部隊の誰かが本当の目的を知らなくてもそれを達成すること自体は可能だ


彼らが全員捨て駒であるという可能性である


今回の場合で言えば彼らの所属団体をAとして彼らの身分や経歴、所属などを偽って別の団体Bに罪をなすりつけるために行う偽装戦略などが挙げられる


なにも能力者だけをターゲットにする必要はない、同規模の組織、または他の組織への牽制、同じ無能力者といえど一枚岩ではなく組織があれば派閥がある、同組織内の足の引っ張り合いという可能性もあるのだ


そう考えると静希達が危険を冒したとして、これ以上の情報を得られるかといわれると微妙なところである


何人も連れてきて最終的に最後の一人で情報が手に入るなんて面倒なことは避けたい


無論正面衝突する前に人数を減らしておきたいのは当然なのだが、わざわざ少人数での奇襲を何度も行えばそれだけ危険も多くなる


しかも静希達だけがこの作戦を行っているのであればまだしも今は他の班も動いてしまっている


これ以上動くのは得策とはいい難い


「それにこう言っちゃなんだけどこれ以上犠牲者は出したくないな・・・さすがにあれはかわいそうだ」


「え?普通に話聞いてただけじゃないの?」


「明利、深く聞かない方がお互いの為よ?」


「?」


城島が一体何をしたのかまったく知らない明利は疑問符を飛ばしているが、さすがに鋭い鏡花は何となく何をしたのか理解しているようだった


「五十嵐、響両名には是非見習ってほしい尋問法だったんだがな、お気に召さないか?」


「あれはやり過ぎですよ、あれであの人がしゃべりださなかったら確実に先生目を潰してたでしょ」


「当たり前だ、こちらが本当にやると思わせなくては拷問じゃない」


「とうとう拷問っていったよこの人・・・ほんとに教師かよ・・・」


今更だと言われかねないが城島を教師と疑いかけている中、外を警戒していた二年生二人が静希達に気付く


「二人とも、外の様子はどうだ?」


「今のところ問題なしです、さっき出ていった班が一人捕縛したのを作戦室まで連れてってました」


「あまりスマートな運び方とは言えなかったが・・・もう一班の方はまだ帰ってきていません」


バルコニーから外部を観察しながら城島は目を凝らす


「幹原、敵が今どのあたりにいるかわかるか?」


「この洋館から約七百m離れた場所にいます、未だ戦列を維持しているみたいです」


「そろそろ射程に引っかかるかも知れんな・・・外部行動中の生徒全員に通達、屋内に退避しろ、これは命令だ」


そこかしこにちらほらと見えた生徒全員が準備を急いで終え城島の指示に従い洋館の中に入っていく


「七百mって、そんなに警戒する距離ですか?銃でも当たらないと思うんですけど・・・」


「連中が持っている銃はM16、有効射程は大体五百mとされているがカスタムによってはそれ以上の距離で精度の高い射撃が見込める、まぁ、連中は森の中を移動しているからこの距離は当てられないとは思うが、念の為だ」


元特殊部隊にいたというだけあって状況把握は適切だ


この森はいい意味でも悪い意味でも互いに視界を遮っている


これがあるかないかで銃の有効射程が大きく変わるのだ


それでも万が一を考えて生徒の身の安全を第一に考える


特殊部隊の出身とはいえ教師ということだろう


「これからは外に顔を出すのも控えた方がいいな、内部が見えないようにシャットアウトするぞ、全員動け」


戻ってきた生徒達に指示を出しながら辺りは騒がしくなっていく


「なんだか面倒なことになってきているな」


「まったくだよ・・・せっかくおいしい料理にあり付けるだけだと思ってたんだけどね」


二年生二人は早くも戦闘態勢に入っている


そしてそれは周囲の他の引率二年も同じだった


場数の違いか、経験の差か、すでに戦闘の雰囲気を嗅ぎ取っているようだった


洋館の窓についているカーテンなどを全て閉め、外から内部を一切見えなくしてしまう


内部から外部を見れなくなることと同意だが、内部にいながらにして外の状況を知ることのできる能力者は多数この場にいる


視界をシャットアウトすることのデメリットはかなり少ない


「出ていった班はまだ全員戻らないんですか?」


「のようだな、まったく余計なことをしていなければいいが」


静希達も迎撃の準備を進める中、感知能力者たちが慌ただしく作戦室に入っていく


何事かと城島と共に作戦室に入ると、中で教師たちが苦虫をかみつぶしたような顔をしている


その様子を見るに、あまりいい知らせではないようだった


「なにがあったんですか?」


「あぁ・・・城島先生・・・実は侵入者捕縛に動いていた班の一つが・・・逆に侵入者に捕縛される事態となりました」


「なんですって?」


城島の不安が的中してしまった


経験を積んだとはいえただの学生に武器を持った大人の捕縛は難易度が高い


城島自身静希達の実力を高く評価しているからこそ実行させたが、他の班となれば話は別


「それで相手はどのように動いているんですか?」


「六人班を全員縄で縛ってこちらに連行してきているようです、ひとまず死傷者などはいないようですが、これでこちらからこれ以上手が出せない・・・」


その言葉に城島は不機嫌さを隠しもせずに舌打ちをする


それもそのはずだ、こちらで考えていたプランをほとんどが無駄になってしまったのだから


相手に奇襲を行っているという事実が漏れてしまっているだけならまだ対処もできた、だが班全員が人質になってしまっているとなれば見ず知らずでは通せない


相手は銃を持っている、下手に刺激すれば人質の命は保証されないだろう


「面倒なことになったな・・・このまま侵入を許せば生徒全員を人質にされかねない・・・」


考えうる限り最悪に近い状況で城島は思考を巡らせる


このまま侵入者がこの場に着けば確実に人質を盾に交渉へと入るだろう


相手の情報は得たものの、状況的にはこちらが不利になってしまった


恐らく二人の人員を拉致したことも相手にばれていると考えるべきである


「先生、どうするんです?」


「どうするもなにも生徒を死なせるわけにはいかない、生徒達の避難と救助が最優先だろうな」


とはいっても相手はすでにかなり近くまで接近してきている


今から生徒全員を安全な場所に移動させるのは非常に骨が折れる


「ですが生徒だけでなく来賓の方が第一では・・・」


「そっちはお付きの護衛が何とかするでしょう、我々は生徒のことだけを考えるべきです」


今この洋館にいるのは各専門学校の教師と生徒、そして今回の交流会に招待された要人達


たった六人とはいえ生徒に違いはなく、同時に死なせてはいけない命である


要人も同じく、人質にすらさせてはいけない、させたらその場で相手側の勝利がほぼ確定する


隙をついて逆転などもできなくはないが、こちらが能力者であることをすでに相手は実感し、警戒を密にしている、逆転の目があるとは限らない


「我々教師が正面から出て交渉を行い、その間に生徒、来賓の方を逃す・・・避難場所は島の反対側にある空港・・・これが最適ではないかと」


「移動中に襲われるかも」


「まともに動ける生徒を護衛として何人かいかせましょう、そうすれば銃をいくつか持っていても問題ない」


「・・・そうですね・・・いたしかたないかと」


状況はほぼまとまりつつあった


その場にいた教師も納得し、すぐに動き出した


大広間にいる生徒や来賓に次々と事態が告げられ生徒は僅かな動揺、大人は困ったようなあわてたような表情をしている


この場にいる全員が能力者であるわけではないが、パニックにならなかったのだけはありがたいことである


「お前達もすぐに出ろ、ここから先は大人の仕事だ」


「でも先生・・・人質取られてどうやって交渉なんてするんすか?」


陽太の質問に城島はなにも答えない


その様子に静希はため息をつく


「交渉なんてするつもりさらさらない、やるのは交渉するふりをする時間稼ぎ」


「大方、何人かで表立って行動し人質を奪取しようとしているのでしょう?」


この班の頭脳とも言うべき静希と熊田にそう言われ城島は舌打ちをする


「お前達のこういうところでの頭の回転の速さが恨めしい・・・だがそう言うことだ、お前達の出番はない」


城島の言葉に静希達は顔を見合わせる


確かに静希達の能力は隠密か交戦には向いているが救助には向いていない


人質を傷つけずに解放させるすべなど思いつかない


実力者であり教師である城島達にこの場を預けるしか静希達にできることはなさそうだった


誤字報告をいただいたのでまとめて投稿


久しぶりに大量の誤字報告をいただいてしまいました


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ