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J/53  作者: 池金啓太
七話「有無にこだわる自尊心」

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ないものねだり

城島の言う楽しいおしゃべりを続けること数回、最後に自分の右目と左目どちらを良く使うかという質問の前にジョンこと捕縛された男は自供を開始した


得られた情報を簡単にまとめると以下の通り


彼らは無能力者の人権団体の者である


彼らの目的は無能力者と能力者の格差をなくすこと


今回の作戦は上層部が決めたことで優秀な学生と政界にも顔のきく人物が何人か来ていることから人質をとって政府と交渉するつもりだった


他にも何か目的があるようだったが自分は末端である為知らない


この島には静希達が乗ってきたあの船に乗務員であると偽装して乗り込んだ


こうして聞いてしまえばなんのことは無いただのテロリストだったということである


「まったく、勘違いを起こしたバカは始末に負えんな」


手に入れた情報を本部に報告、明利以外の治療能力者から完全な治療を施させた後、捕縛した男を作戦考案室に放り込んでから城島は眉間にしわを寄せて不機嫌さを隠すこともなく舌打ちをする


これだけ不機嫌なのはエルフの村以来かもしれない


「にしても原因が無能力者との格差問題とは・・・なんともめんどくさいですね」


「まったくだ、この事後処理でまた書類を何枚も書く破目になる・・・やってられんな」


ギリギリと歯ぎしりまでしながら髪の隙間からのぞかせる目は殺意と怒りに満ちている


城島がこうなると静希達にできることはほぼ皆無である


「でもなんでこんなことをしてまで・・・そこまで私達と待遇が違うんですか?」


「・・・一見すれば確かに違うだろうさ、能力の有無だけではない、この国に関して言えば教育費や医療費、その他諸々には国からの金銭的援助が数多く存在する」


能力があるかないかだけで得られるものは大きい


小学校から高校まで通わせれば十二年間それだけで五百万近い金が飛ぶ、私立ならばさらに多い


大学に行かせようものなら総額一千万は軽く消えてなくなる、その半分以上が今能力者の家庭には援助金として支払われている


そして医療機関などの治療費に関しても同じような制度がある


保険制度とは別にこれは能力者限定だが治療費の五割減


運賃などはさすがに軽減されないが、その他の公共機関はほぼ割引されることになる


能力者が国から受ける援助は相当多い、もちろん能力者の家族もまた然りである


「でも・・・私達って結構不便な生活してますよね?」


「街中で能力悪用したら即更生施設行きか・・・またはブタ箱へ直行だからなぁ」


能力者のほとんどは幼少時に能力の制御法を身につける


能力の発動原因はほとんどが感情暴走や突発的に起こる身の危険への防衛とされている


とっさの発生を自分の意志で行えるようにするのが能力者には必要不可欠


だがここで能力を上手く制御できずに育ってしまった能力者は更生施設に入れられる


半ば強制的に能力の制御法を学ぶのだが、あまりいい噂は静希達の耳には届いていない


ほぼ監獄と同じであると聞いたことがある


そして能力を制御してもその性質的な問題から能力を悪用すればほとんど釈明の余地もなく実刑が下される


危険な能力者と判断されれば死刑もあり得るという


「無能力者は我々能力者が背負っている責任と代償を知らない者がほとんどだ、ぱっと見てしまえば私達は能力も使える、国から援助してもらえている選ばれた者にでも見えるんだろうよ」


実際、各メディアは能力者に関しての報道はかなり偏っている


そもそも能力者の数が絶対的に少ないというのもあるが、基本的に能力者が事件を起こした際は大々的に取り上げ能力者は危険であると報道し、その度に国からの援助金は無駄であるとかどこかから呼ばれた専門家は得意げに語る


能力者がどのように育ち、どのような責務を与えられているかなど欠片も報道しない


当然と言えば当然だ、彼らマスメディアは視聴率こそ全て、つまらない真実よりも真実から少しずれた民衆の目を引く為の煽り文句の方が使いやすいのだ


視聴率などに関係のない放送局などは時々能力者の実態などを報道したりしているがそれは民衆にとっての常識にはなりえない


今の民衆の常識は『能力者は優遇されている』という事実だけ


その反対に静希達がどれほど危険を背負っているかなども知りようがないし知る必要もないと思っているのだ


幼少時はほとんど遊べず能力制御の訓練の日々


旅行などにもほとんど行けず遊園地などのテーマパークにも静希達は行ったこともない


仮に行ったとしても門前払いを喰らうだろう


出入国にも制限が付くし物品購入にも規制がかかる


ようやくまともな生活と行動ができる年になれば半ば強制的な軍部への転属や大学進学などの厳しい審査


もちろん一般企業に就職などほとんどできない


能力者にかけられた制限は数知れない


そう言った制限の全てを知っている無能力者は一体どれほどいるだろうか


「どれだけ俺らが苦労してるかも知らないで・・・無能力者がうらやましいっすよ」


「向こうは逆にお前たちがうらやましいと思っているだろうよ、ない物ねだりするのは人間の特性だ」


静希達能力者に共通して言えることがある、能力なんてなければよかったのにとそう思わなかった者はいないという点である


幼いころに遊べなかったから、この力のせいで誰かを傷つけたから、これがなければもっと平穏に生きられたから、能力のせいで家族が不仲になった


能力者が持ってしまった力によって苦しめられた事例は数知れない


だが無能力者からすれば羨むべき、素晴らしいものに見える


隣の芝生は青いとは良く言ったものである


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