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J/53  作者: 池金啓太
七話「有無にこだわる自尊心」

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どこまで行こうと

「まぁ、とりあえず五十嵐と響、良くやったと言っておくことにしよう」


後ろから二人の後頭部を掴んだのは非常に愉快そうに笑みを作っている城島だった


「せ、先生、良くやったという割には頭が潰れそうなんですが」


「なに、気にするなそれはお前の錯覚だ」


いや、錯覚などではなく城島は静希と陽太の頭を握りつぶす勢いで圧力をかけている


ミシミシと頭がきしむ音が聞こえてきそうなほど痛い


「ていうか先生、あれいいんですか?明らかにやり過ぎでしょ?」


鏡花が指さす先には徹底的に治療を受けている淀川と尾道がいる


尾道は熱での熱中症と軽度の火傷のようなものでたいしたことはないのだが、淀川は釘、打撲、火傷、しかも患部が関節や手足といった人間の重要な部分に集中している


治療には集中力と技術が必要とされる箇所だ


もし治療でミスをすれば歩行や日常生活に支障が出る


もちろん静希は動きを止めるという意味で関節を狙った


余計な反撃を受けず、動きさえ封じ、まな板の上の魚状態にするのが理想条件だったからである


決して後遺症が残りやすい部位を狙った訳ではない


「構わんだろう、自分の得た能力に溺れる奴は遠からずああいった目にあう、それが少し早まっただけだ」


「早まったって・・・」


例え早まったとしてもあれだけの被害を受けることがこれから先あるかといわれれば微妙なところである


普通に生きていればあんな目にあうことはまずないだろう


「むしろあいつは運がいい、こんな若い段階でしっかりと教育されたからな、これから少しはまともに生きられるだろうさ」


「・・・そうでしょうか?」


「分不相応に生きればあぁなるということをあいつは学んだだろうさ、今でもガタガタ震えてるのがいい証拠だ」


城島の言う通り淀川は治療を受けながら身体を震わせている


何とか周囲の生徒や教師がその震えを抑えようとするのだが、止まらない


彼が自身で行っているのではなく彼の本能が恐怖を覚えたのだ


「お前たちも忘れるな?どこまでいっても私達は能力者だ、分相応に生きていかなければ私たちもいつかはああなるんだ」


それは教訓のようなものだろう、能力者である限り社会からは疎まれることも多い


特に無能力者からの反発は強い


今は能力の有無だけで判断されることがないように教育機関なども調整しているが、昔は能力の強さこそすべてという時代があった


故にエルフなどが台頭していたのだ


だがその考えも見直され、単一個体の絶対的な力よりも連携と協力といった協調性を重んじる制度に変わりつつある


そういう世界で淀川のような人間は真っ先に非難を浴びる


城島の言う通りここで淀川が変わらなければいずれ似たような目に遭うかもしれない


そしてそれは静希達も同じである


力に溺れ、淀川のようになれば必ず周囲から攻撃を受ける


能力者の持つ力は強力だ


それこそ一個人が強力な兵器と同義語となることもある


だが能力者の総人口は人類全体を見たとき一割にも満たない


数の暴力とも言うべき弾圧を受ければ、あっという間に滅ぼされるだろう


過去、西洋の国々で行われた魔女狩りがいい例である


力がなくとも数で勝ることは恐ろしい


百の力を持っていても、万の敵にはかなわない


今の社会は犯罪を犯した能力者には容赦がない


自らの力に酔っているものもまた同じということだろう


「あぁはなりたくないですね」


「お前に一番気をつけてほしいものだな五十嵐、この中じゃお前が一番危険だ」


「俺が?なにも一番弱い俺を心配しなくても、陽太とか鏡花とかいるじゃないですか」


静希は頭を掴まれたまま不名誉そうに不貞腐れているが城島は大きくため息をつく


「響はバカだ、だが自分のできる限界がわかってる、そういう意味では安心して見ていられる、清水は賢い、自分の行動がどういう結果をもたらすか計算できる、こいつはある意味危ないが、そこら辺は上手く立ち回るだろうよ」


そう評価を受けた二人はふふんそれみたことかと胸を張っている


陽太に関してはあまりほめられていないのだがそこはまぁよしとしよう


「問題はお前だ、普段は清水以上に賢いくせにタガが外れると何をするか分からない、しかも後先考えていない、一番危ういのはお前なんだ」


まだ出会って半年もたっていないのに城島は良く静希を見ている


教師としての才能か、それとも城島の観察眼があってのことか


どちらにせよ静希の行動は手段を選ばない代わりにその代償も選ばない


普段は冷静沈着でしっかりと相手の行動や自分の行動を見極めている


だが時折周りの被害などを一切考えない事がある


城島の言った危ういというのは淀川のようになるかもしれないという意味も一割程度含んでいる


だが本当の意味はいつか取り返しのつかないことをやってしまうのではないかというものだ


「もう一度言っておくぞ私達はどこまでいっても能力者だ、その事を全員頭に入れておけ」


城島の説教にも似た称賛を終え、静希と陽太は頭を解放される


鈍い痛みを残しながらようやく得た自由を満喫しながら静希と陽太は自分たちが先ほどまでいたぶった、もとい戦った淀川と尾道を見る


だいぶ回復は終わっており尾道の方は意識を取り戻している


淀川は手足の傷はほぼ修復完了したようだったが身体の震えが未だおさまらないようだった


当たり前だが肉体外傷は治癒の力があればすぐにでも治すことができる


だが静希が今回重点的に攻撃したのは精神面だ


殺傷能力の低い攻撃を何度も何度も別部位に当てられれば精神は疲弊する


その疲れた状態で恐怖をすりこみ、なおかつ自身が持っている自尊心をへし折った


精神面での立ち直りは相当時間がかかるだろう


「あーあ、元クラスメイトとしては、なんとも言い難い状況ね」


「そういやあいつってどんな奴だったんだ?嫌な奴って印象しかないけど」


昔、といっても中学のころになるが、鏡花は淀川のことを知っている


その内容が気になるところだが、鏡花の表情から察するに聞かずともある程度の想像はできそうだった


「今と・・・さっきと同じよ、ちょっと才能があるからって威張り散らして弱い者いじめして、上の立場の人間にはいい顔しようとして、少なくともいい奴ではないわね」


「・・・もうちょっと痛めつけておけばよかったかな?」


「やめとけ、これ以上やったら痛みで気絶してただろうよ」


人間は一定以上の血を流したり、痛みを受けるとショックで気絶することがある


先ほど静希は陽太の炎で強引に傷をふさぐことで多量出血による気絶を防いで交渉を続けたが、あれ以上止血作業を行っていれば今度は火傷によるショック症状で意識を失っていたかもわからない


「どちらにせよすっきりしたからいいじゃんか、これ以上追い打ちはやめておこうぜ、かわいそうだ」


「あいつにかわいそうなんて感情を抱くことになるとはね・・・人生何があるか分からないわ」


余程意外だったのか、鏡花はしみじみと震え続けている淀川に哀れみの視線を送りながらため息をつく


「これは一体何の騒ぎだ?」


ようやく収まってきた喧騒の中に透き通る声と見慣れた仮面がやってくる


どうやら班の仲間と行動を共にしていたらしく近くには石動の班の人間が他の野次馬生徒たちと話をしていた


「おぉ石動、見てたのか?」


「何の話だ?今来たばかりで状況を把握できていないのだが」


運がいいのか悪いのか、静希の貴重なブチギレシーンを見逃した石動は近くで震え続けている淀川を見て不思議そうな顔をする


「なんだ、先ほどの軽薄な男じゃないか」


「なに?知ってんの?」


「あぁ、先刻私と私の班の女子に気安く話しかけてきてな、一蹴したが・・・なぜあの男があんなに震えている?」


どうやら淀川は石動にも声をかけていたらしい、だがさすがに才能があると言ってもエルフには強く出られないようだった


「あいつうちの明利に声かけて殴ってきてね、静希と陽太が成敗したのよ」


「なんと・・・軟派男かと思えばただの下衆だったか」


軽蔑のまなざしを向けながらそう吐き捨てる石動


厳格な性格なだけに暴力といった理不尽は許せない性格のようだ


オルビアとよく話が合いそうである


「そういや石動は何でここに?」


「うむ、先生を探していたんだが何やら騒がしかったので来てみたんだ、そろそろ到着時刻だしな」


石動の言葉に時計を確認すると出港してからすでにかなり時間が経過している


確かにそろそろ目的の場所についてもいいくらいだと思われる


「あぁ、もうそんな時間か、そろそろ移動した方がいいかね」


「待てお前達、特に清水はまだ仕事があるぞ」


「はい・・・片付けですよね」


先ほどの戦闘で派手に壊れてはいないものの、陽太の炎や淀川の光の刃などであちこちに欠損が見られる


これ直すだけでも相当金がかかるだろうが、こういう時鏡花がいて助かったというものである


「鏡花姉さん、お願いします」


「姉さん、仕事ですぜ!どうかお願いしやす!」


「あぁもう、うっさいわね!やりゃあいいんでしょやりゃあ!」


鏡花は苛立ちながら地面に手をついて能力を発動する


後片付けは結局私がやることになるんだよまったく嫌になるわねと悪態をつきながら次々と破損した部分を修繕していく


「さすがっす姉さん!マジぱねえっす!」


「さすがです姉さん、これ午後茶です」


「はいはい、ったく班長なんて名ばかりね本当に」


静希から午後茶を受け取りながら一気に飲み干す


この二人のチンピラというか三下の演技が妙に似合うことがさらに鏡花の苛立ちを加速させた


「責任者ってのはそういうもんだ、面倒事を押し付けられる、今のうちに慣れておけ」


城島もなかなかに面倒事の後始末などを請け負っているため同情の念を混ぜながら鏡花の肩を軽く叩く


「あいつらにもなんか責任取らせて下さいよ、割に合わないですよ」


「んん・・・罰を与えても改善するとは思えなくてな・・・まぁ何とか頼む」


大きくため息をついて鏡花は肩を落とす


この班の中で一番不憫なのは鏡花で間違いないだろう


誤字報告をいただいたので複数投稿代わりのまとめて投稿


こっちの方が無駄に話数を増やすよりいいと判断しました


これからもお楽しみいただければ幸いです



正直この話残酷描写ありにするかすごく悩みました・・・

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