山への陣形
破壊されたフェンスの下にたどり着いた一班のメンバーは、山へ入る準備をしていた
「これがそのフェンスか、けっこう派手にやられてんな」
「確かにこれはすごいわね、奇形種ってここまですごいんだ」
「奇形種は確かに能力の出力自体は能力持ちの普通の動物より高いけど、それだけだ、能力に気をつけていれば問題はない」
経験者を踏まえての作戦は非常に楽だ、情報よりも上に経験が活きる、その経験は安心感などにつながる、もちろん気を抜いていい場面ではないが、緊張しすぎるより断然ましだ
「静、どれくらいまで山にいるんだ?」
「そうだな・・・日没より少し前にはもうここに帰ってきたいな、いまどきの日没って何時くらいだ?」
「だいたい十八時過ぎね、でもここは山間の土地だからもっと早くに日が沈むと考えていいわ」
「じゃあ、十七時くらいには戻っていたいね」
「日没の一時間前か、まぁそんなところか、今何時だ?」
この中で唯一腕時計をしている明利に尋ねる
「今は十四時二十分くらい」
「OK、三時間は山に潜れるな」
「この山西側だから夕方になると光が入ってこない可能性もある、各自ライトを持ったな?」
全員で装備を再度確認し山に向き合う
静希と明利と雪奈は少しだけ入ったが、深くまでいったわけではない、人の手が入っていない山に登るのは結構危険だ
静希はハートのトランプからコンパスと市販の地図を取り出し、先ほど預かった古い地図と併用する
「とりあえずチェックポイントとしてこの地図にある祠、その後に洞窟に行ってみよう、できるなら小川っていうのも見ておきたいな」
「ポジションはどうするの?一列縦隊?」
「それもいいけど、今回は明利を守る隊形だから、明利を中心、その両端を俺と鏡花、先頭を雪姉、明利の後ろに熊田先輩、しんがりが陽太で行こう」
「んだよ、俺後衛!?前行かせろよ」
さすがにこの配置には異論を唱えたか、真正面からの特攻を身上とする陽太にとって前方の仲間は邪魔でしかない、根っからの前衛向きだ、だが今回は少し事情が変わる
「今回の目的忘れたの?今回は地形把握、それに万が一目標と遭遇してもあんたすぐに反応できるの?後衛には後ろからの攻撃から味方を守る役割もあるってことわかっていってる?」
「んぐ・・・でもさぁ・・・」
「デモもストもない!私は静希に賛成よ」
「俺もだ、この位置ならすぐに索敵内容を全員に伝えられる」
「私もこれで大丈夫だよ」
「私も異論なしだ」
「・・・わかったよ」
さすがに多数決には勝てないのか、陽太は黙ってしまう
だが理由はちゃんと言っておくべきだろう
でなければ陽太が不貞腐れてしまう
「陽太、雪姉じゃなくお前を最後尾にしたのはお前が一番攻撃と防御のバランスに長けてる上に早く動けるからだ、前、横、どこから攻められても後ろからならよく見えるし、仮に後ろから攻撃されてもお前なら一撃くらい耐えるだろ?」
「あ、あぁそりゃ勿論」
体格のいい陽太は多少の攻撃ではびくともしない、能力を使えばなおさらだ、たとえ不意打ちでもかなりの攻撃を使わなければ陽太の意識を一撃で刈り取ることは難しい
「比べて雪姉は女の子なうえにどんな場所でも反応できるわけじゃない、お前以外にそこは任せられないんだよ」
「そ、そうか!それなら仕方ないな!やってやろうじゃねーか!」
ちょろいなと舌を出しながら静希は着々と準備する
「そういえば雪奈さんの能力って結局私見たことないんだけど、どんな能力なの?」
今までずっと伏せられてきた内容に、雪奈は満面の笑みを浮かべる、ようやく自分の能力を披露できるのが嬉しいのか、ナイフを六本装着したベルトを腰に巻き意気揚々とそのうちの一本を抜く
「ふふん、よくぞ聞いてくれたね鏡花ちゃん、私の能力は」
「雪姉の能力は刃渡り八センチ以上の刃物を自由自在に操る技術を得ること、それに必要な身体能力の強化なども合わせて手に入れられるような力を刃物に付与する能力だ」
「しぃぃぃぃぃぃずぅぅぅぅぅぅ!私がかっこよく決めたかったのに!」
静希の首を掴んでせっかくの活躍の場を奪われたことに憤慨する雪奈、一瞬哀れなとも思ったが、鏡花はふと思案する
「そのナイフ、能力を付与したら私にも自由に使えるようになるんですか?」
「いんや、私専用、だから付与される力は『使用者のみに刃物使用技術とそれを扱える身体能力向上を与えること』ってところかな」
「それでついた名前が『切裂き魔の懐刀』だもんなぁ」
「乙女に向かってひどいっしょ!?もうちょっとかわいい名前がよかったつーの」
確かに万華鏡や慈愛の種と違い、雪奈の能力は明らかに攻撃を目的とした能力だ、切裂き魔とついている時点で攻撃することが目に見えている
「雪姉にはこれで道を切り開いてもらう役目もあるから、よろしく」
「任せて、枝も葉も幹も私の前に存在することは許さない!」
機嫌は直ったのか意気揚々と先頭に出る雪奈を眺めてそれほど大した能力ではないのではと鏡花が考えていた時静希が肩を叩く
「しっかり見とけよ?結構見ものだぞ?」
「??」
静希の言葉の意味がわかるのは山に入ってからすぐのことだった




