醜悪な懺悔
「おいおい静希、あんまりやり過ぎると問題になるぞ?」
「おぉそうだな、じゃあ言ってごらん淀川君、俺の聞きたい言葉当ててみな」
淀川の髪を掴んで強引に顔を上げさせる
すでに痛みで意識がもうろうとしている、能力を発動するどころの話ではない、まともに思考できているかも怪しいところである
「わ、わるかった・・・おえが・・・わるかった・・・あやまる・・・から」
「悪かった?言葉づかいがなってねえな?ごめんなさいもしくは申し訳ありませんだろ?」
髪を掴んだまま地面に顔を叩きつけると鼻血ができたらしく床に血の水たまりが出来上がる
「も、もうしわけ、わりまへんでしは・・・」
「よしよし少しずつ自分の立場が分かってきたな、でもその謝罪誰に向けてだ?まさか俺に向けてじゃないよな?」
すっかりおびえた表情をしている淀川は部屋の隅にいる明利を眼の端でとらえる
そして首だけを何とかその方向に向ける
「も、もうひわけ、ありま」
「声が小さい!もっと腹から声出して大きな声でもう一度!」
耳元で怒鳴ると今度は先ほどよりも声量を上げて淀川は言葉を紡ぐ
「も、もうひわけありま、へんでしは、もう、こんはことはひないので、ゆるひてくだはい」
どうやら口のどこかを切ったのか、歯が折れたのか上手く発音できていないが、そのくらいは勘弁してやろうと静希は温情をかけてやる
「よしよし、俺の聞きたい言葉一つ目ゲット、明利?どうだ?こいつ許してやるか?」
突然話を振られた明利は戸惑っているがゆっくりうなずく
「オーケーオーケー、明利が優しくてよかったな、さてもう一つだけお前から聞きたい言葉があるんだよ」
「ま、まだ・・・あうのは」
まだあるのかと言いたいのか、淀川は絶望した表情を作っている
「こっちも結構重要なんだよ、とくに俺も陽太もカチンと来ちゃってな、こっちは俺ら落ちこぼれの私怨だ」
静希は淀川の耳元でいくつかの言葉をつぶやく
「これ言ったら俺らの勝ちってことにしてやるよ、どうする?」
「あ・・・あ・・・」
「ついでに土下座もしてくれると嬉しいな、あぁ出血で死なれても面倒だ、陽太止血してやろう」
「はいよ」
静希は釘を乱暴に手から引き抜いて淀川を自由にする
その痛みでまた淀川が悲鳴を上げたが静希はまったく気にしない
そして陽太は炎をみなぎらせ傷口にその炎を纏った高温の手を焼き鏝のように押しつける
肉の焼ける音と淀川の絶叫で辺りが埋め尽くされ、その手から出ていた血は火傷によって完全にふさがれる
僅かに炭化したその掌からは血は一滴も出ていない
右手と左手両方をしっかりと『止血』した二人は淀川の前に立つ
「さあ、さっきの言葉、言ってもらおうか?」
「あ・・・あ・・・!」
淀川は二人を仰ぎ見ながら徐々にその瞳を怒りで染め上げていく
「・・・ざけるな・・・落ちこぼれども!」
最後の力を振り絞ったのか、光の刃が形成され二人に襲いかかる
エリートとしての意地か、それともこの言葉を言いたくないという必死の抵抗か
「驚いた、こんな精神状況でまだ能力が使えんのかよ」
「こりゃ訂正が必要かもな、確かに鏡花並みかもしれないぜ?」
必死にはなった刃も静希のトランプで軽々と収納され防がれてしまう
とっさの不意を突いたはずだった
だが静希はその程度予想済み
しかも静希はトランプを操ることに関しては何千何万と訓練を続けてきた
とっさにトランプを出して収納するなんてことは静希にとっては手足を動かすのと同じ位容易いことだ
「さてさて、まだ自分の立場が分かってないようだな」
頭を踏みつけて再度顔を地面に押し付ける、力なく地面に跪くような形の淀川は痛みに苦しみながら意識を保っていた
いや意識を失くした方が楽だったかもしれない
意識をなくすことは天才としての彼のプライドがそれを許さなかった
だがこのままいけばそのプライドさえもズタズタにされる
「言ってくれないともう少し痛めつけなくちゃいけないかな、次はどこにするか、関節いっとくか、まずは膝」
そう軽く言い放ち宣言通りに膝に釘が打ち込まれる
淀川の悲鳴、いや絶叫に辺りで見ていた野次馬のような生徒が目をそむけ耳をふさぐ
この広いエントランスで笑っているのは三人だけ
静希、陽太、そして城島
あとの全員は悲痛な顔でこの惨状を見守っている
「さっさと楽になっとけって、言えばこれ以上痛くしないぞ?」
「・・・う・・・お・・・おれ・・・は」
何かを言い始めた淀川に静希は頭を踏むのをやめ少し距離をとる
「す、こし・・・さいのうが、あるからといって・・・ちょ、ちょうしにのって・・・すみませんで、した・・・これから・・・は・・・ぶん・・・そうおうに・・・生きていきます・・・ゆるひてくだはい・・・」
涙を流しながらそう告げる淀川の言葉を聞いて城島が勝負の終了を告げる




