日用品の使い方
静希が一歩近づくたびに淀川は光の弾丸と刃を静希に向けて射出する
だがその全ては静希のトランプによって阻まれ収納されていく
一度入れてしまえば同じものは遠隔で自由に出し入れできる
どうやら刃も光弾も静希のトランプには同じものと認識されているようだった
「防戦一方も疲れてくるからさ、そろそろ攻撃させてもらうぞ」
そう言って静希はトランプを淀川の周りで旋回させる
何をしようとも鎧があればどんな攻撃も通すはずがない
そう信じてやまない淀川の足に、何かが刺さる
一瞬何が起きたか分からなかった
あまりにも範囲の小さな痛みは、目を向けることで完全に認識され、激痛へと変わる
「ああぁぁ・・・あぁぁあぁぁぁぁぁあぁあ!」
淀川の悲鳴が響く中、それは晒される
光の鎧が僅かに削られ、部分的にだが足が露出している
そこに刺さっているのは、一本の釘だった
「悪いな、ナイフは全部使いきっちゃったんで、新しい武器を使わせてもらったよ」
トランプを飛翔させ光の鎧を削り、僅かにできた隙間に釘を打ち込む
その様子を見て嫌な記憶を思い出し鏡花は青ざめた
釘は本来材料同士の固定に使われる工具である
金槌などで打ち込むのが有名だが現代ではもっと便利な道具がある
高圧で釘を打ち込む釘打ち機
それは簡単に木を貫通し、完全に固定させられる
人間の柔らかい肉など簡単に突き刺さる
「ほらほらどうした?足に釘が一本刺さっただけだろうが、その程度でおたおたしてんじゃねえよエリートさんよぉ!」
「こ・・・このぉぉぉお!」
必死に手をかざし光の刃を放とうとするが、その数瞬前にトランプが掌の光の鎧をはぎ取り、そこにトランプが釘を打ち込んだ
掌に深々と刺さり貫通した釘が手から血を滲ませる
止めと言わんばかりに全身の鎧をはぎ取り守りを完全になくしてしまう
痛みにより集中ができなくなりつつある淀川にとって鎧を引きはがされたのは非常に痛手だった
淀川の悲鳴があたりに響いている中、金属音が鳴り、尾道が倒れ込んだ
それと同時に周囲の生徒から歓声が聞こえてくる
「悪い、遅くなった」
何の負傷もなく静希の元にやってくる陽太は喜々として炎を滾らせている
どうやら首尾は上々のようだった
「おう、どうやって倒した?」
「熱消毒」
「なるほどね」
陽太が尾道を倒したのは実に単純な方法
数秒取っ組みあっただけでは熱が内部に伝わらないのであれば、熱が伝わるまで炎を発現し続けるまで
身体能力強化がないことを知らされていた陽太は尾道を後ろから持ち上げ炎を全開
いくら鎧内部に空洞があり、空気の熱伝導の悪さを利用した熱対策があろうと長時間高熱にさらされ無事でいられるわけがない
そして陽太が行った持ち上げるという行為が非常に尾道に対しては有効に働いていた
近くに変換できるだけの物質がなくては変換系統の人間はなにもできない
陽太が意識してやった訳ではないが、その行動は動きを封じるだけでなく能力による抵抗も封じた良策だったと言える
「で?どうすんだこれ?」
「もちろん俺らが勝つまで続けるさ」
「そうかい、そりゃいいな」
二人は邪笑を浮かべたまま淀川に向かう
「き、君達!勝負はもうついている!これ以上は」
淀川は助かったと思い安堵の表情を見せたが、その頭を静希に踏みつけられる
「なに言ってるんですか先生、俺らはまだ勝利条件を満たしてないですよ?」
「引き分けもなしだって言ったじゃないすか、どっちかが勝つまで続けるって」
そう言われ、淀川は思い出す
勝利条件を満たすまで続ける、引き分けはない
つまり淀川が静希達を戦闘不能にするか、静希達が淀川に静希の聞きたい言葉を言わせるまでこの勝負は続く
「城島先生!止めないと危険では!?」
「あいつらの言う通りです、勝利条件を満たさない限りこの演習は終わりません、ルールを設けたんだ、それに従わないと」
「ですが!」
教師は何とか城島にくらいつくが、城島はその髪の切れ目から鋭い眼光を見せつける
「私も教え子が暴行され腹が立っているのは同じ、今すぐあの糞ガキを殴りに行きたい気分ですよ」
「あ・・・」
殺気を孕んだその眼光に怖気づいたのか、言葉を失くす教師を見て城島はため息をつく
「大丈夫です、多少の加減はできる奴らだ、殺しはしないでしょう」
明らかに異常とも見えるこの状況を冷静に見ている城島とその教え子に戦慄を覚えながら教師は静希達に目をやる
「な、なめんなよこの落ちこぼれども!」
「あ?まだ勝つ気かよこいつ?」
「状況も読めないとは、情けないエリートだな、鏡花は刺されてももっと冷静な判断してたぞ」
静希が顔面を蹴り、うつ伏せにしたところで掌に釘を打ちつけ地面にはりつけにする
再び淀川の悲鳴が響く
「おい!尾道!助けろよ!おいこらぁ!なに寝てんだ!さっさと来い愚図がぁ!」
「情けねえな・・・こいつほんとに鏡花並みのエリートなのかよ」
「ちょっと信じられないな、さて、俺が聞きたい言葉はいつ言ってくれるのやら」
わめき散らす淀川に対し静希と陽太は淡々としている
静希達の怒りは全てこの淀川に向けられている
こうなれば淀川に助かる道はない
すでに何箇所かから血が滲み制服に赤いシミを作っている
「さあ言ってくれよ俺の聞きたい言葉」
「わ、わるかった!俺が悪かったよ!許してくあが」
言葉の途中で静希は淀川の後頭部を踏みつけ地面に顔をこすりつける
「なにほざいてんだ?お前はうちのお姫様を殴ったんだぞ?この程度で許されるとか思ってんのか?」
静希の邪笑は止まらない、その気になればいつでも殺せるこの状況で、静希はこの淀川をいかに料理するかの思考を続けている




