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J/53  作者: 池金啓太
七話「有無にこだわる自尊心」

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怒りと殺意とキレた静希

「あ、ちょっと私お手洗い行ってくるね」


「はいよ、行ってらっしゃい、それでさ」


雪奈の海での武勇伝が語られる中、明利は席を立ちカフェの一角にあるトイレへと向かう


慣れない海の上での食事に少し気分が悪くなったのか、軽く顔を洗って酔い止めの薬を飲む


しばらくしてトイレから出てきたところで一人の男子生徒とぶつかる


「あ、ごめんなさい」


「ん?んん?」


ぶつかった生徒は鳴哀学園の制服に身を包み、中肉中背だが明利からしたら非常に大きい


明利は圧倒されながら謝罪するが男子生徒は明利の顔を眺めて少し考えるとにやりと笑う


その笑みは静希が浮かべるものとは別の種類の下卑た笑いだった


「ねえ君、今暇?」


「え?い、いえ、友達と・・・一緒で」


「ちょっとだけだからさ、抜けてどっか遊びに行かない?」


突然の男子生徒の言い草に明利は驚き戸惑ってしまう


「ああ・・・あの、私急いでて」


「いいじゃん、ちょっとだけだし」


「あの、ごめんなさい」


その場から逃れようと謝罪を述べて男の横を通り過ぎようとするが、その道を男の腕が塞ぐ


「待てよ、俺が声かけてやってんだぞ、そのままってのはねえんじゃねえの?」


その場から去ろうとした明利の腕を掴み無理矢理壁に押し付ける


明利も抵抗しようとしたが、彼女の弱い筋力では抵抗もほとんど意味はない


彼女自身の体調も芳しくない状況で明利は拘束されかけていた


「は、離して・・・!」


「あぁ?めんどくせえ女だな・・・黙ってついてくりゃいいんだよ!」


「痛・・・離して!」


腕を強く握られ、痛みを覚えた明利は大きな声を出す


その声はカフェの一角にいる静希の耳に届いていた


「いまなんか聞こえなかったか?」


「ん?そう?聞こえなかったけど」


辺りに生徒達の話声が飛び交っている中、鏡花には聞こえなかったらしいが静希の耳には確かに聞こえていた


「ちょっと見てくるわ、もしかしたら酔って倒れてるかもしれないし」


「んじゃ俺もついでにトイレ、雪さんちょっとお話ストップ頼むよ」


「あいあい、いっといで」


静希と陽太がトイレに向かうと、その瞬間、その場から怒号が聞こえる


「ざっけんじゃねえぞこのクソアマ!」


静希と陽太はその現場を見た


見慣れない鳴哀学園の制服を着た男子生徒に、明利が殴られたその瞬間を


同時に二人の瞳孔が開く


怒号を聞きつけて雪奈が真っ先に駆けつけ、遅れて鏡花と熊田、そして辺りにいた生徒達も何事かと野次馬根性で駆けつける


「ちょ!明ちゃん!大丈夫!?」


「あ・・・は、はい、大丈夫です、このくらい」


明利は大丈夫と言っているが、頬の部分は赤くなり、口からは血をにじませている


その様子は痛々しく、大丈夫とは言えない状態だった


「明利、何がどうなって・・・って・・・あんた!」


「あぁ?なんだよ清水じゃんか、懐かしいなおい!」


「清水、知り合いか?」


熊田の言葉に鏡花はいやいやながら肯定する


「私が鳴哀学園にいた時のクラスメートですよ・・・私と同じ位能力の成績のいい奴です・・・久しぶりじゃない淀川」


淀川と呼ばれた男子生徒は笑っていたが、周囲にわいた生徒達を見てその笑みを止める


「たく、面倒だな・・・てめえのせいで騒ぎになっちまってんじゃねえか、どうしてくれんだ?」


「ひっ!」


強く睨むと明利は恐怖に顔をゆがめ近くにいる鏡花の影に隠れてしまう


「ちょっと!うちの明利が何したって言うのよ!?言いがかりはやめなさいよね!しかも暴力まで振るっておいて!」


「あぁ?相変わらずつまんねえこと言うな、俺が声かけてやったんだ、素直にハイハイいっときゃいいだろうが」


「あんた・・・!」


淀川の言い草に鏡花も雪奈も、熊田さえも敵意を向けている


そして周囲にいた生徒、特に喜吉学園の者達は強い嫌悪感を抱いていた


「謝罪もなにもないわけ?女の子殴って、恥ずかしいとか思わないの?」


「俺何か悪いことしたのかよ?俺の言うこときかなかったそいつが悪いんだろ?こんな騒ぎまで起こしていい迷惑だっつーの」


その言い草に全員が淀川を睨みつける中、当の本人は飄々としている


「これ以上の面倒はごめんだ、さっさと失せろ、俺もツレ待たせてるんだ」


淀川が静希と陽太の間をすり抜けようとすると二人の手が彼の肩を掴む


「あ?」


突然自分の前進を止めた二人が気に入らないのか軽く睨むが、その二人の淀川に向ける感情は敵意でも嫌悪感でもなく、純然たる殺意だった


「おいこら、人んちのお姫様殴り付けてなにさっさと帰ろうとしてんだ?あぁ?」


「謝罪もなく面倒だから失せろだ?舐めてんのか?」


一人は半笑いで、一人は鬼の形相を浮かべ淀川を掴んで離さない


その様子を見て雪奈は「あ、やべ」と呟いていた


「何だよこいつら、おい清水、こいつらお前のツレだろ、何とかしろよ」


「おあいにくだけど、そいつら私なんかじゃ止められないわよ」


その言葉を聞いて淀川は面白そうにへぇと呟いて二人を見る


「やんのかコラ?ぶちのめされたくなかったら手ぇ離せ」


「上等だ、顔の形変わるくらいで許してやるから有り難く思えよクズ野郎」


「それとも顔以外全部変形させてやる方がいいかくそ野郎」


本気でキレてしまっている静希と陽太相手にはりあう淀川のにらみ合いがどれほど続いただろう


「何の騒ぎだこれは!?」


喧騒をかき消す大声が辺りを引き裂き、奥から城島と恐らくは鳴哀学園の教師らしき人物が現れる


「せ、先生、実はあいつが」


「あぁ、大まかにだが知らされている」


城島の手に携帯が握られているところを見るとどうやら監査の先生がこの事態を城島に知らせたようだった


まさか今もまだ監査が付いているとは思わなかったが、この状況にはありがたい


鏡花としては何とか事態の鎮静化を頼みたかった


「五十嵐、響、報告しろ、これは一体何の騒ぎだ?」


「この淀川とか言うやつが明利を殴りました」


「このボケぶちのめす許可くれると嬉しかったりするっす」


状況をさらに詳しく理解したようで城島は額に手を当ててため息をつく


「淀川!お前また何かやったのか!?」


「何を言うんですか先生、俺がそんなことするはずないじゃないですか、言いがかりですよ」


鳴哀学園の教師が問い詰めるが淀川は先ほどとは打って変わって紳士的な態度に切り替え対応している


「先生、あいつの言うことは信じちゃ」


「わかっている・・・ったく、見張りを付けていて正解だったな」


何とか静希と陽太を淀川から引き離し城島は再度ため息をつく


「落ち付けお前ら、特に五十嵐、お前らしくもない」


「あぁ?こんな状況でなに悠長なこと言ってんですか先生、とにかくあいつぶちのめしたいんで離してくれませんか?」


「そうっすよ、あの野郎消し炭にしてやる・・・!」


「ダメだな、話を聞きそうにもない」


むしろこれだけヒートアップしているのにもかかわらず陽太が能力の制御限界に達していないのは不幸中の幸いと思うべきだろう


二人の腸は煮えくりかえってしまっている、少しでも目を離せば問答無用で攻撃を仕掛けそうな勢いだ


「鏡花ちゃん、あいついったいなんなわけ?あんなむかつく奴初めてだよ!」


「あいつ、どっかの政治家の息子だとかでやたら威張り腐ってて、しかも能力が強いから余計に性質が悪いんです・・・静希達が怒るのも無理ないですよ」


もっとも静希達が怒っているのは淀川の性格が問題なのではない


明利が殴られた


ただその一点である


二人の視線の先では教師から二、三小言を受けている淀川が舐めきった態度でへらへら笑っている、それがさらに二人の神経を逆なでする


「このままじゃ埒が明きません、当人同士で解決させましょう」


「城島先生!?ですが」


「ルールありの演習扱い、うっぷん晴らさなきゃこいつら止まりませんよ」


城島が全力で止めている二人は今も変わらず淀川に向けて殺意を放っている


隙あらば襲いかかり殺しそうな勢いだ


その様子に驚いたのか淀川と話していた教師は渋々納得する


「ルールありですか、それなら怪我も少なくて済みそうですね、どんなルールにします?」


淀川は澄み切った笑顔を城島に向ける


一部内容を知っている城島からすれば吐き気のする表情だが、この場を収めるには大人の対応をするしかない


「互いに勝利条件を提示、あとはそうだな、二対一じゃあんまりだ、淀川とか言ったな、班の仲間に共闘を頼め、能力使用は自由だが船を破壊するようなことはするな?」


「いいですね、スマートなやり方です、場所はどうします?」


「エントランスを使わせてもらおう、清水、あらかじめ形状などを記憶しておいてくれ」


「は、はい」


能力戦で壊さないようにすると言っても万が一壊れないとも限らない


鏡花がいれば欠損も質量さえ同じならすぐに直せる


「ほらとっととお仲間探してこいよ、寿命がちょっとは伸びるぞ?」


「さっさと来いよ、早くお前を殴りたいんだ」


「怖いなぁ、まったく、暴力しか知らない奴はこれだからいやなんだ」


笑みを浮かべながら淀川は生徒をかき分けて教師の小言を受けながらその場を後にする


『シズキ、あいつ私にくれない?ぶち殺したいんだけど?』


『いや、私にやらせろ、彼奴に裁きを与えてやる』


『マスター、私にお任せを、剣の錆びにしてご覧にいれます』


先ほどのやり取りをカードの中からメフィと邪薙、オルビアも見ていたのだろう、そして静希同様相当怒りを燃やしている


『悪いけどお前らの出番はないぞ、あれは俺らの獲物だ』


とびきりの邪笑を浮かべながら静希と陽太はエントランスへ足を進める


お気に入り登録件数が700件を超えたので二回分をまとめて投稿しました


二つを一回にまとめるのと二回に分けて投稿するのどっちがいいんでしょうか


色々と試しているつもりですがどうにもよくわかりませんね


これからもお楽しみいただければ幸いです

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